月別アーカイブ: 10月 2012

ルーフィングと瓦桟

工事中の住宅の屋根は瓦葺きですが、台風など風雨がたいへん強い場合は風圧によって瓦の合わせ目から裏に水が侵入することがあります。そうした時に建物内に雨が漏らないようにするための屋根用の防水シート=ルーフィング(roofing)を屋根全面に施します。

写真の灰色にみえているのがそのルーフィングで、フェルト状の原紙にアスファルトを浸透・皮膜し、さらに癒着や滑落を防止するために表面に雲母粉などを付着させたものです。昔はほんとうにただのぺらぺらの黒い紙みたいで頼りない感じでしたが、現在のアスファルトルーフィングは通称「ゴムアス」といっていろいろと工夫改良されています。アスファルト自体がポリマーなどを含有し(改質アスファルト)寒暖の影響を低減し、また弾性があるため破れにくくステープルや釘打の穴に対する防水 シール性を増しています。

軒先と平行に多数横に並んでいる細い木は瓦を止める瓦桟ですが、縦に並んでいるのは流水テープといってルーフィングと瓦桟との間にすこし隙間を設けて、瓦桟に水が溜まらないようにするためのものです。以前であればキズリといってこれも木の桟でしたが、いまは樹脂製。瓦桟とこの流水テープが交差したところで屋根の垂木に釘止めします。

 

本棚の木取

今回の住宅では私と妻と子どもの3部屋のそれぞれの壁一面に本棚が作り付けとなります。幅3.2m、高さ2.4mの南側の壁がすべて本棚で、これは一般的な市販の本棚(幅80cm高さ160〜180cmが多い)の約5倍半〜6倍くらいの容量ということになります。奥行は材料の関係もあって30cmなので置けるものは限られるものの、むろん本でもなんでも収納できます。

その本棚の材料が人工乾燥されたスギ板です。厚みは24mm幅は210mmです。部屋ができてから現場で一から加工では時間がかかりすぎるので、工房で基本的な加工と組立を行っておき、それを部屋に搬入して連結し仕上げます。搬入は窓から入れるしかないのでそのことも考慮して単体の箱の幅は80cmとし、それを横に4台並べて一体化します。

写真はその横方向の天板と地板と棚板を木取りしているところです。横方向の部材だけで162枚と大量で、しかも大半は節の多い材料なので、木取もなかなかたいへん。長さ4mの素材から棚板なら5枚取れる計算ですが、大きな節などが端にきてはまずいので、それらをうまくよけながらの木取です。木端の通りを直線に削り直し、3枚矧合わせてから後で縦に2分割します。単純計算では210×3÷2=315mmですが、削り代や切り代をのぞくと300mmくらいが無難なところでしょう。

切断はスライド丸ノコで行うので、最初のセッティングはめんどうですが、以降は速くて正確です。もう1台新品のマキタのスライド丸ノコもあるのですが、写真に写っているのは20数年前の日立工機の機械(両方とも刃径は216mm)。テーブルは回転しない角度固定式ですが、このようにただ直角に切るだけの加工なら充分です。

 

スプルス&アガチス

今回の自宅新築工事では、内部の木製建具は全部私が製作することになっていますが、それには北米針葉樹のスプルス(ベイトウヒ)を使います。また大工さんの領分ですが、窓枠や幅木や見切縁などの造作材には東南アジア産針葉樹のアガチス(ナンヨウスギ)を使います。それらの材料が大阪の服部商店から届きました。

 

 

上の写真は大工さんの作業場に搬入したアガチスの30mm厚の柾目板で計49枚あります。みな無地の最高グレードの材料。幅は15〜30cm、長さ3.2〜4.3mですが、サイズがまちまちなのは本来は「建具用」としての選別しているからです。建築の造作材も、いまではパーツメーカーが作った既製品を仕入れて長さだけ現場でちょん切って取り付けるやり方が普通になっていますが、今回はすべて大工さんがこしらえます。べつに複雑で特殊なものにしたいからではなく、建物全体のバランスを考えてちょうどいいサイズと形状のものとするためです。結果的にはむしろ既製品以上にごくシンプルなものになるはずです。

下の写真は当工房に搬入したスプルスの40mm厚の柾目板でぜんぶで28枚あります。これは今回の自宅工事の建具用に木取も考慮してとくべつに選別してもらったものです。長さは1.1〜3.1mですが、幅は18〜41cmというように、40cmを超える、柾目の無地板としては超特大といっていいものも含まれています。使うのがもったいないと思うほどの最高の品質。

木口にみな細かい数字が書いてありますが、これは私が検品がてら両木口と平面に計4カ所、材料の種類と通し番号・厚さ・幅・長さ・グレード・入手年月日・入手先を1枚づつ記したもの。そのためすべて木口は事前にきれいにカットしました。もちろん同時に、価格なども入れたさらに詳しいデータを材料台帳に記録しています。

これだけ書きこんでおけば多数積みあげた状態でもすぐ材料を選ぶことができますし、在庫の管理や、建具や家具などを製作した際に使用したぶんの材料を台帳と照らし合わせれば材料の原価計算がすぐにできます。それはそのときの製品のコストを正確につかむだけでなく、その後の見積もりなどにたいへん役に立ちます。

 

間柱・筋交・窓台など

 

 

パイプ足場やら仮の筋交やらといっしょになっていて分かりにくいですが、間柱や筋交や、窓と戸の下地(台・まぐさ)などを入れ、大引も鋼製床束でベタ基礎としっかり固定し(専用接着剤+コンクリートビス)、壁と床の骨組みはだいぶできてきました。

屋根はまだ下地の板を打っただけなので、雨が降ると建物内にしずくが落ちてきますが、瓦屋さんが明日か明後日くらいにはルーフィング(屋根用防水シート)を敷くことになっています。

ユニットバスや洗面台、システムキッチン、便器、手洗器、郵便ポスト、ドアホンなどの機器も順次入荷の予定が立ち、いまのところまずまず順調にすすんでいます。私が担当する家具のほうも製作を始めています。

 

カヤのサイドボード

 

カヤの木のこぶ材(バール)を主材にして作ったサイドボード。大きさは幅880mm、奥行300mm、高さ568mmです。表からは見えませんがケヤキも棚口板や背部幕板に使用しています。いずれも何十年も前に作られ長い間裁縫台として利用されていたものの再生利用(リニューアル)です。

その裁縫台2台は昨年暮れにお客様から預かったものですが、針先や砂粒などの異物をかんでいたり、反りや捻れや傷やふけがあるなどだいぶ痛んでいたので、製作はのびのびになってしまいました。とくにカヤのほうはもともとの材料がすでに最初からあまりよくない状態だったようで、あちこちに継ぎはぎや埋木の跡もありました。それらはニカワと釘止めだったのですが、それも多くははずれかかっています。

そこでまず外れそうになっている埋木などは外し、そうでないものは隙間やひびなどをエポキシ樹脂で充填接着したあと、機械や手で削ったのですが、案の定うまくは削れません。逆目が立ったり、異物でカンナの刃が欠けたり……。やっとのことで素材の板ができても、吸付桟や矧合のボルト・ナットの穴などをよけながらなので木取も一苦労です。結局どこをどう切っても削っても残ってしまう穴などは新たに象嵌しました。

下の写真で異なる材を埋めたり付け足したりしていて、その境界線が黒っぽい筋になっているのはニカワまたはエポキシ樹脂の跡。右上の蟻溝を埋めたのは今回ベイヒで象嵌的に埋めた箇所です。こちらは隙間はありません。3杯の抽斗の前板とその下の棚口板は、1枚のカヤの板から4分割したものですが、できるだけ木目がずれないように薄い手鋸で切り離しています。抽斗の摘みはこぶや埋木だらけの主材に負けないように、本黒檀を削り出して裏からクサビで締めてあります。

このサイドボードは昨日夕方にTさんのお宅に納品しました。一時は廃棄処分するかの話も出ていた母上の裁縫台が、こうして無事生まれ変わって、Tさんからもたいそう喜んでいただきました。最近になく製作に悪戦苦闘した家具でしたが、そのかいがあったと思います。


 

落書


 

ひとかかえ以上もあるブナの大木の幹に刻まれた落書です。尖った石か金属片などでがりがり樹皮を傷つけたんですね、これは。博喜、正明、山形、オノデラ、キムラ、1981、NEKO、東電化、佐々木、正、といった文字が読み取れます。自分の名前や出身地や勤務先などでしょうか。相合い傘もいくつかありました。

数字の1981はおそらく落書した西暦年でしょうから、30年以上経った今でも鮮明に残っていることが分かります。まったく馬鹿野郎です。恥さらしもいいところです。なかには山岳会や登山愛好会やワンダーフォーゲルらしき名前をみかけることもあるのですが、まったく何を言わんや、です。

樹木はいちばん外側からやや内側の柔らかい部分が成長点で、そこ以外は年月がたってもあまり変化しません。とくに幹は太っていっても樹皮はまるまる更新するわけではなく、基本的には横方向にのびていくだけといった感じです。したがって 樹皮についた傷は修復されることなく何十年もそのまま残ります。どの樹木でも原理的には同じだと思いますが、とりわけブナのような薄くてわりあい滑らかな樹皮の場合は傷跡が目立ちます。

登山道などまったくないかせいぜい踏み跡程度の深奥の山で、尾根の分岐点や渓流の徒渉点などでときおり樹木に記された鉈のあとを見つけることがありますが、これはまさしく貴重な標識です。上記のたぐいの落書きとはちがいます。こういう「傷跡」は遭難防止の意味もあるので、必要最低限なら良しとしましょう。しかし多くの人が通る一般道で樹皮に目印をつける必要はつゆほどもないので、よいこのみなさんは絶対にまねしてはいけません。

 

杉板がいっぱい

工房に24mm厚のスギ板が85枚届きました。9月16日の記事で載せた「八分杉板」と同じもので、幅は210mm、長さ4mのKD(人工乾燥)材です。いま工事中の自宅の造作家具などに使うものですが、この前の15枚と合わせて計100枚入手しました。

そのホームセンターに入荷する量自体が100枚くらいづつしかないとのことなので、事前に予約を入れてやっと確保したものです。このサイズの乾燥材でとしては値段も割安なので、もし余裕があれば500枚ほど買っておきたい気持ちはあるのですが、まあ無理でしょうねぇ。

材料も届いてこれからどんどん加工をすすめないといけないので、まずは見附に使う比較的いい板とそれ以外の板とにおおざっぱに分けました。さすがに両面無地の板は2、3枚くらいですが、片面無地や上小程度の板は十数枚ありました。写真はその上物をのぞいたぶんです。