落書


 

ひとかかえ以上もあるブナの大木の幹に刻まれた落書です。尖った石か金属片などでがりがり樹皮を傷つけたんですね、これは。博喜、正明、山形、オノデラ、キムラ、1981、NEKO、東電化、佐々木、正、といった文字が読み取れます。自分の名前や出身地や勤務先などでしょうか。相合い傘もいくつかありました。

数字の1981はおそらく落書した西暦年でしょうから、30年以上経った今でも鮮明に残っていることが分かります。まったく馬鹿野郎です。恥さらしもいいところです。なかには山岳会や登山愛好会やワンダーフォーゲルらしき名前をみかけることもあるのですが、まったく何を言わんや、です。

樹木はいちばん外側からやや内側の柔らかい部分が成長点で、そこ以外は年月がたってもあまり変化しません。とくに幹は太っていっても樹皮はまるまる更新するわけではなく、基本的には横方向にのびていくだけといった感じです。したがって 樹皮についた傷は修復されることなく何十年もそのまま残ります。どの樹木でも原理的には同じだと思いますが、とりわけブナのような薄くてわりあい滑らかな樹皮の場合は傷跡が目立ちます。

登山道などまったくないかせいぜい踏み跡程度の深奥の山で、尾根の分岐点や渓流の徒渉点などでときおり樹木に記された鉈のあとを見つけることがありますが、これはまさしく貴重な標識です。上記のたぐいの落書きとはちがいます。こういう「傷跡」は遭難防止の意味もあるので、必要最低限なら良しとしましょう。しかし多くの人が通る一般道で樹皮に目印をつける必要はつゆほどもないので、よいこのみなさんは絶対にまねしてはいけません。

 

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