弘法水の標識

 

先日、鳥海山南面の旧蕨岡道の湧泉である弘法水の名前を書いた標識(名板)を立ててきました。戦後の開拓集落である月ノ原のOさんから生前にうかがったお話では、この弘法水はかつてはこの登拝道における非常に重要な水場であったそうです。

しかし今は半ば忘れられた存在で、ここへ通じる道も薮になっていたので刈払をしました。湧出口からはパイプが引かれていますが、嶽ノ腰林道を横断して下の牧場かどこかの飲料水として利用されているのではなかったかと思います(このへんはうろ覚えです)。

材料の木はベイヒバというヒノキの仲間の木なので、まあ5年くらいは保ってくれるかなというところです。近くに手頃な樹木がある場合はその幹や太枝などにシュロ縄で名板をくくりつけますし、岩しかない場合はその岩にステンレスの針金で名板をしばりつけます。いずれもない場合は、今回のように地面に杭を打って、名板はその杭にステンレスの木ネジで止めます。大きさは名前の部分の横向きの板で25〜30cmほど。

順次、要所要所に標識を設置していこうと思っています(現段階ではまったくのボランティアです)。大きく立派で何十年も耐久性のある標識を設けるのはとても個人の力でやれるものではありません。しかしこれくらいの簡易なものであれば、個人的にでもちょっとその気になれば可能です。

 

 

 

クルミで小物の下拵え

 

特注品の小物を作るべく、オニグルミの材料を木取して、両面を平らに削り、養生中です。仕上げの厚さはもうすこし薄くなるのですが、素材を一気に仕上寸法まで加工してしまうと、内部応力の変化によってまたじわじわと狂い(反り・捻れなど)が出てくるおそれが大きいので、わざとしばらく放置します。これを当工房では「一次下拵(いちじしたごしらえ)」と呼んでいます。工房や木工家によっては「木作り」など他の呼び方もあるようですが。

この時だいじなことは互いにいくらか隙間をあけながら一枚一枚木端立(こばだて)することです。平に積み重ねてはいけません。空気が通るように、また余計な荷重が極力かからないようにするためです。

具体的に何を作ろうとしているのかについては、お客様との関係もあり、すみません、内緒です。

 

コーヒーブレーク 109 「アースハンモック」

 

 

薫風やアースハンモックにまどろめり

[くんぷうや あーすはんもっくに まどろめり]鳥海山の7合目、御浜からは古い噴火口跡の鳥海湖が見下ろせる。その湖への比較的ゆるやかな斜面には、ヌマガヤなどの草や苔におおわれているもこもことした小さな凹凸が多い。これはアースハンモックといって周氷河地形における構造土の一種である。/一般には直径数十センチから1m強程度、高さ50センチ前後のドーム状をなし、表面はマット状の密な植生に覆われている。成因は凍結圧による未凍結部分の長年の繰り返しの押し上げによる。その形状がハンモックを想起させることからの命名だろうが、実際のところはかなり湿っぽい土壌であることが多く、こんなところで昼寝をしようものなら背中がぐっしょり濡れてしまうにちがいない。

ぼうたんの目を凝らせば人魂であり

[ぼうたんの めをこらせば ひとだまであり]牡丹の大きな花はとてもよく目立つ。ことに白い牡丹は闇夜にもぼうっと宙に浮かんで見え、幽玄な感じがする。もっとも私は個人的にはあまり人手の入った園芸花は牡丹にかぎらず好きではないので、自宅の庭に植えてはいないし植える予定もないのだが、夜の暗闇の中で牡丹を目にするといつも想い出すのは、登山道におけるヤマユリの姿である。下山が予定より遅れ一人で夜の山道を急いでいると暗い杉林の中に点々と白いものが漂っている。むろんそれが人魂などではなくヤマユリの花であることは、あたり一面にただよう芳香からも分かるのだが、最初はいくぶん驚き不気味に感じたものだ。

長幼の序とはいえど御器齧

[ちょうようの じょとはいえど ごきかぶり]ゴキブリは数多くの昆虫のなかでも嫌われ度のだんとつに高い昆虫である。蚊や虻や蜂のように人を刺したりするわけではなく実害はほとんどないにもかかわらずである。害虫とされている一部の種類であれ、ほとんどは偏見と誤解によるものだ。結局ゴキブリが嫌がられる理由は見た目の主観的なもの。黒または茶色で、油っぽい光沢があるやけにひらべったい虫で、とても狭い隙間から不意に出没するからだろう。/ゴキブリの仲間は約4億年前から出現していて、部分的な改変はあれど基本形はほとんど変わっていないとか。恐竜などよりずっと古くから地球に繁栄してきた生き物なのだ。もちろん先祖の先祖まで遡ってもせいぜい600〜700万年ほどにしかならない人間など及びもつかない大先輩である。

 

固定電話の解約

 

 

1985年の工房開設以来30年以上も使ってきた固定電話=0234−64−3119は、本日をもって解約しました。ここ10年あまり私一人で仕事をしていることや(留守や作業中は留守電モードに切り替えていました)、最近では小規模零細企業や自営業の場合は携帯電話でやりとりするほうががむしろ主流になってきたためです。住宅ですら若い方の場合は最初から携帯電話しか持たないというケースもごく普通になってきました。一昔前まではおよそ考えられないことですね。

月に数百円程度しか通話には使わないのに、「事務用」の基本料金や光回線の敷設料などで5000円前後の電話料金を払うのはあまりにももったいないです。月5000円なら年6万円、それを5年続けただけでもなんと30万円にもなってしまいます。

今後は、仕事上の問い合わせは基本はメールで、緊急の場合などは携帯電話=080−1801−5194で、また図面や写真の送付はファックスではなくメールに資料&画像添付で、時間的余裕がある場合などは昔ながらの郵便で送っていただきたいと思います。また、迷惑メールやウィルス感染などを回避するため、メールの場合はとくに、ご用件のあるかたは必ずお名前と連絡先、件名、内容を明記してくださるようお願いします。お手数をおかけしますが、今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。

 

庭の花 2

 

今年になってからのわが家の庭で咲いている花を記録していますが、1回目の5月23日に次いで2回目です。前回から半月しか経っていませんが、さらに新たな花がいろいろ。写真のほかにはヒメジョオン、セイヨウタンポポ、カタバミ、シロツメクサ、といったところ。


ブルーベリー(ツツジ科)


ヤマボウシ(ミズキ科)


ベルフラワー(キキョウ科) 別名オトメギキョウ。寒さにはあまり強くはないらしく、株の大きさはずっと現状維持というところ。



“アイスバーグ” (バラ科) 四季咲中輪で花径は8cmくらい、樹高1mほど。白にほんのりクリーム色がかっている。世界的な銘花だそうな。


コモンラベンダー(シソ科) 現在3株。だんだん大きくなっており、道路から玄関に通じる道を飾っている。


?? 地面に這いつくばるように生えている。花は径2mmほどと極小。



サルビア-アルゲンティア(シソ科) 花を拡大してみるととてもおもしろい形をしている。2年草のようで、一昨年についで開花は2回目。花屋さんは「しろくま君」などと勝手にへんな名前をつけて売っているが、ふざけすぎ。和名はビロードアキギリ、英名はシルバーセージ。

登拝道の洗掘

 

5月28日に鳥海山南面の「旧蕨岡道探訪」を行いましたが、写真はそのときの1枚です。一見ごくふつうの写真のようですが、じつは蕨岡道が鳥海山の頂上に至る登拝道としてかつては非常ににぎわったことを如実に示すものです(写真は参加されたIさんから撮っていただいたものです。Iさんありがとうございます)。

あまりにも人通りが多いと草木が生える暇がありません。ことにこのあたりの地質のように泥っぽい柔らかくもろい土壌の場合は、いったん地面がむき出しになり裸地化してしまうと。雨がふるたびに土砂が流されてしまい溝がどんどん深くなります。これを洗掘(せんくつ)といいます。

このV字型の溝は深さ2〜3mあります。洗掘する前の地形は写真の左上の角から右側の上から三分の一くらい下がった所を結んだ線になります。大物忌神社蕨岡口ノ宮を起点とする旧蕨岡道は千年以上の歴史のある登拝道ですが、修験者や一般庶民が大勢利用した結果、ここまで深くえぐれてしまいました。もちろん地質がもっと堅固で傾斜もゆるい場合はこれほど深くはありませんが、この前後の他の地点でも1〜1.5m程度の凹地形はたくさんあります。人が歩いただけでそんなに削られるものかと疑問に思われる方もいるかもしれませんが、仮に1年に2mmずつとしても千年経てば2mにはなる計算です。

あまりにも深く急傾斜で細くなってしまった道はたいへん歩きにくいです。すれ違いもままになりませんし、いったん強い雨となれば道がたちまち川と化してしまいます。そのため必然的にもとの道と平行するようにバイパスができてしまうのですが、写真の地点でもすぐ右側にバイパスと、バイパスのバイパスがあり、計3本の道ができていました。

この道は戦後はほとんど利用する人がいなくなり、すっかり廃道となっていたのですが、20年近く前に一帯の湧水を調べているときにこの道の跡に遭遇しました。私および当時遊佐町に毎年体験学習で来訪していた東京都武蔵野市の小学校5年生にも手伝ってもらい、湯ノ台口の南高ヒュッテ近くの分岐点から水呑ノ池までの刈払を行った結果、またいくらかは歩く人が増えたように思います。ただし一般的な登山道とはいえないので、今回の探訪でも部分的に薮がかぶっているところがありました。また一度きれいに刈払をしなければと思います。

 このあたり一帯は昔からクマが多いことで知られています。くれぐれもご注意を。(写真は参加者のIKさんからいただいたものですが、写っている方の顔はぼかしを入れています)

 

鳥海山に雪

 

日曜日は小雨模様でしたが、翌日は晴天。それで鳥海山を眺めたら頂上から外輪山にかけてすこし白くなっています。双眼鏡でのぞいてみるとうっすらと雪をかぶっていました。

平地の最低気温が11℃くらいだったので、「標高が100m上がると気温は約0.6℃ずつ下がる」という法則にあてはめると、標高2236mの鳥海山頂上は平地と13℃あまりの温度差があり、マイナス2℃くらいであったことになります。風や植生の違いなどもありますので、実際にはもっと低かったかもしれません。

このところ気温が低い日が続いており、暖房でも点けたくなるような寒さです。6月はいちおう夏入りであるとはいえ、夏場でも高山では天気が崩れたら雪になることがあるということを肝に命じておかなければなりませんね。

 

狭霧橋からのぞむ月山沢

 

鳥海山の南面にある渓谷の二ノ滝渓谷ですが、5月下旬の某日、一ノ滝から三ノ滝あたりまで月山沢右岸上部の山道を散策しました。月山沢は月光川の本流筋で、月光川ダムより上流でおおよそヨネ沢との合流点より上を山屋さんは月山沢と通常呼んでいます。

一ノ滝駐車場から一ノ滝・二ノ滝までは遊歩道も整備されていますが、二ノ滝手前の橋をわたり月山沢左岸に出てから上は登山道となります。ブナ林の中を左に谷川の音を聞きながら10〜15分も登ると、今度は左側に鉄骨の頑丈そうな橋が見えてきます。狭霧橋(さぎりばし)といって、これを渡りジグザグの急な坂をあがるとT字路です。右に折れてさらに登行すれば万助道横道へ、左に折れて下っていけば一ノ滝駐車場からもうすこし先に延びてきている車道の終点です。

さて狭霧橋ですが、やや強い雨が降った後だったので、月山沢はたいへんな水量です。轟音があたり一面にこだましています。あまりの急流なためにほぼ真っ白な泡立ちが上流にも下流にも続くばかりです。とても美しくはあるもののさすがに怖さを覚えますね。

 

 

 

 

 

 

苔、苔、苔

 

苔のいろいろ。水中や常時水しぶきがかかるところではなく、逆に風や陽にさらされてすっかり乾燥してしまうわけでもない、中庸といっていいような環境に生育する野山の苔です。

種類については同定しようと思うとあまりにたいへんそうなので、それはやめておきます。とりあえず苔にもいろいろあるなあということで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーヒーブレーク 108 「デコイ」

 

 

獣にも腰痛頭痛霾ぐもり

[けものにも ようつうずつう よなぐもり]巷でよくいわれる「人間は二足歩行をするようになったために腰痛に悩まされるようになった」は、まったく間違いであるとの獣医師の言である。犬や猫や他の獣にも腰痛はふつうに見られる症状であると。とりわけペットとして飼われ肥満気味になった動物は、当然というか当たり前の話だが腰や膝などの関節を痛めることが多い。獣に腰痛はないかとても稀であると思われていたのは、要するに寿命が短かかったからである。そりゃ病気や怪我や他の動物の餌になってしまい若年齢で死んでしまったのでは、腰痛や関節通の発症には至らないのである。

あほうどり飛びゆけばデコイ首を垂れ

[あほうどり とびゆけばでこい くびをたれ]絶滅しかかったアホウドリをよみがえらせるのに、模型の鳥(デコイ)を置いてアホウドリをおびき寄せるという手法があるらしい。もちろんぱっと見てニセモノとわかるような粗雑なデコイではだめで、遠目には本物そっくりなデコイでなければならないだろう。それで実際飛来してきたアホウドリはもちろんニセモノであることに気づくのであるが、「やられた〜」と苦笑をもらしつつもだんだんその場所になじんでいくのであろうか。/カラスなどをみてもわかるように鳥はなかなか頭がいいので、本能で動くだけでなく生後に学習する部分が大きい。模型であるとはいえ自分とそっくりな鳥に囲まれているのは案外心地よいのかもしれない。

宝石のつとこぼれたり蜆蝶

[ほうせきの つとこぼれたり しじみちょう]シジミチョウやモンシロチョウなどの小型の蝶はなぜか春の季語であり、アゲハ類の大型の蝶は夏の季語となっている。それなら同じ種類の蝶ながら春型と夏型がある蝶や、成虫で冬を越すタテハ類の蝶はいったいどうするのかというと、強引に春と夏の両方の役を演じたり、「秋の蝶」「冬の蝶」となる。わざわざ秋だの冬だのという余計な言葉をくっつけないといけないのはあまりスマートではないが、それだけ春や夏にくらべれば蝶は激減することをうまく表しているともいえる。