月別アーカイブ: 12月 2015

ペーパーウェイトの素材 2 マスールバーチ

 

年内に発売予定のペーパーウェイトD、約60本。それに用いた素材の木9種類について順次説明しています。前回はスーヤバールでしたが、今回2回目はマスールバーチです。

マスールバーチ(Masur birch)のバーチは日本語でカバノキのことですが、マスールバーチを樹木・用材の図鑑や植物図鑑でひいても出てきません。それは業界用語というか銘木屋さん筋の通称だからです。

ある種のカバノキが成長過程で樹皮に蛾の幼虫がつき、その食み跡が下の写真のような奇妙で独特な模様になるそうです。ふつうは昆虫等に食われてしまうと空洞になったりそこがぐずぐずに脆くなってしまいますが、このマスールバーチの場合はそうはならず、食痕の部分もしっかりと緻密な木部を保持しています。樹木がそれらの傷を新たな侵出物でしっかり充填してしまうからとのこと。樹脂分はやはり多めで、サンディングはしにくいです。

今回使用したマスールバーチの素材は径20cmほどの、芯の部分を含む丸太の三ツ割材です。食み跡は芯から同心円状に不規則に入っていることからみると、蛾はある程度の周期をもって大発生するのかもしれません。しかしそれで樹が枯れることなく、さらに食み跡をほぼ完全に樹自身がきれいに埋めてしまうことからすると、一種の「共生」状態にあるのかなという気もします。

木の地肌よりもいくらか濃い褐色の不定形の紋様が散らばっていますが、まったく規則性がないわけではなく、だいたい木の繊維方向に沿って蛾は移動しつつ食べていったようです。紋様が鳥や魚の群れのようにも見えますね。派手ではありませんが、きわめて面白い杢といえます。似たような杢はちょっと思い当たりません。材料単価は非常に高く、黒柿並材と同じくらいのレベルですし、量的にはかえって黒柿より少ない(市場にはめったに出てこない)のではないでしょうか。

写真は奥が正立、手前はこちらに横倒しした状態です。上面だけわずかに曲面になっているのがお分かりになりますかね。

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ペーパーウェイトの素材 1 スーヤバール

 

年内に発売予定のペーパーウェイトDタイプ約60本ですが、計9種類の木質素材はこれまで他の家具・木製品も含めて未使用、またはペーパーウェイトとしては未使用のものを8種類含んでいます。そこでこれを機会にそれぞれの素材についてやや詳しい説明を順次行っていきたいと思います。

まずはスーヤ バール(Thuja  burl)です。バールは樹の瘤のことですが、スーヤ(またはツーヤ)はヒノキ科クロベ属のことで、その属に分類される針葉樹の一種ということになります。日本名を「ニオイヒバ」とする説もあるようですが、あまりはっきりしません。産地は購入先の銘木屋さんの言によればアフリカ大陸北西部の国のモロッコだということですが、これもほんとうに確かなことなのかの確信は持てません。なにしろ木材図鑑にもインターネット上にもほとんど情報がないからです。一部に、高級車の内装材として使われることがあるとか、ビリヤードのキューの最高級素材として使われることもあるなどの話もありますが、その程度の不確かな話です。

しかしながら針葉樹にしてはずいぶん硬くて重く、計算してみると比重は乾燥材で0.95ほどあります。つまりかろうじて水に浮くということです。樹脂分がずいぶん多く、サンディングするとペーパーの研粒がすぐに目詰まりをおこしてしまいます。ニオイヒバとも呼ばれるようにたしかにヒノキやヒバとよく似た匂いが強く漂います。私は若干アレルギー体質なので、このスーヤバールの粉塵に長時間さらされると呼吸器のまわりがひりひりしてきそうです。

見た目にはなんといっても豹柄ですね。赤褐色の地に芯のある黒点がランダムに散らばっています。もちろん一個のスーヤバールの素材全体に満遍なく豹柄が存在しているわけではないので、木取をする際には仕上がりの表情を予測して慎重にカットし削っていきます。

今回は4本完成しましたが、下の写真は手前が正立、奥が横倒しした状態です。底面に電熱ペンで工房名・通し番号・素材名を焼き入れしてあるのも見えています。実物は透明な被曝をかぶったかと思うほどの艶のある塗装仕上げとなっています。

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セン縮杢被蓋くり物 3個製作中

 

来年秋頃に個展を開くかもしれないということもあり、お客様からのご注文の品とは別に、量産品ではない一品もの的な小物を製作しています。写真はセンの縮杢の材を用いた被蓋くり物 の蓋の部分です。3個とも同じ板から連続的に木取・加工したもので、3つ合わせて横幅で約48cmくらいになります。

サンディングペーパーの240番まであてただけで、まだ完成してはいませんが、完成時の形と杢の具合はおおよそわかるかと思います。上面は板目の年輪とそれに直交するような大小の縮みが複雑にからまり合い、側面には四周とも細かな縮みが整然と並んでいます。素材厚が46mmあるので、いずれも上面がだいぶ膨らんだ形になっていますが、3個それぞれにその凸面の程度や側面の形状、エッジやコーナーのアールの大きさなどは違えています。写真では中央の蓋だけ色が白っぽいですが、これは照明の当たり具合と水引→乾燥の差によるものです。

ペーパーウェイトの発売準備がだいたい終わったので、こちらのほうも以後、実(み)のほうの製作と塗装がとどこおりなくすすめば年末くらいには完成するでしょう。

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ペーパーウェイトDタイプ 発売準備中

 

いま新たなペーパーウェイトDタイプ を発売するべく準備中です。今年の6月末頃に60本発売しましたが、材質はそのときのものとはみな異なり、しかも初めて披露するものばかり。本数はやはり60本程度を予定しています。

下の写真は予備撮影したものですが、上左からスーヤバール(瘤杢)、マスールバーチ、キハダ縮杢+スポルト、キハダ縮杢、タモのバール(瘤杢)。下左からケヤキ樫目杢、シャム柿、ハードメープル縮杢、オニグルミ変杢。合わせて9種類。きわめて希少かつ高価な材料も含まれます。個々の材質については17日以降に詳しく説明していきたいと思います。

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コーヒーブレーク 65 「頭蓋」

 

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短日の光の腸となる自家用車

たいへん痛ましいことだが、ときおり猫や狸が車に轢かれて道路に横たわっていることがある。なかには踏みつぶされて内蔵が露出していることもあり、うす桃色の紐のようなものが長々と胴体から飛び出している。小腸だろうか。/うちの猫はずっといわゆる「家猫」で、室内でだけ飼うようにしている。猫エイズと俗に呼ばれるような致死性の感染症や、ノミやダニといった寄生虫などを防ぐことや、交通事故に遭うことがないようにするためだ。そのこともあって他所で、往来の激しい道路のそばなのに外猫として平気で飼われている猫を見かけると悲しくなる。

枯れ木とも冬木とも見えて冬の旅

春から夏、秋にかけては、その樹木が枯れ木であるのかどうかは、もちろんたやすく判別できる。しかし冬になり葉をすっかり落とした広葉樹の場合は、一見しただけではわからないことがある。まして距離があればなおさらだ。/私はずっと昔、鈍行列車で東京と郷里とを往復することがときどきあり、9〜10時間もの間通路に立ったまま、あるいはほとんど垂直の背もたれのボックス席に座っているのは苦痛ではあったが、すこし空いてきた席から窓外の景色を眺めるのはとても好きだった。毎回ほとんど同じ路線なのに何回見ても飽きるということはない。ことに冬期は樹々が裸になり森林が透けて見えるので、そこの地形や、樹々の向こうの遠景もよく見えた。やや開けた場所でははるか遠くに雪をいだいた高山が姿を現すと、それが視界から消えるまでずっと凝視し続けていた。

いつまでも暮れなずむ頭蓋や十二月

冬は日が暮れるのがじつにはやい。ことに雨天のときなどは、午後3時になろうかというような時刻からすでにあたりに闇が立ちこめ始めている。明度センサーがついているのだろう、街灯がはやくも灯っている。その一方で私の精神は明滅をくりかえし、いつまでも沈潜することがない。

 

(※ 写真は、ジオパーク関連の研修で秋田県湯沢市に先月末に出かけたときのもの。両関というブランドの酒をつくっている酒造会社の酒蔵だ。平地でも積雪が1.5〜2mほどあるそうなので、しっかりとした雪囲がなされている。)

 

牛の絵のポストカード

 

北海道は斜里郡小清水町にお住まいの画家、冨田美穂さんの牛の絵のポストカードです。ツイッターで私もフォローしている方ですが、先日のツイートで3.11で大きな被害を受けた石巻市への支援のための「チャリティーポストカード」のことを書かれていたので、さっそく申込みました。通常のはがきサイズ5枚組で1000円+送料92円です。

冨田さんは1979年生まれ、2004年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画コースを卒業。以来、北海道の牧場でアルバイトをするなどして牛とかかわりながら、その牛の版画と絵を制作しています。細密画といっていい非常に細かなタッチで、牛の全身や部分をさまざまな視点から表現しています。

数ある動物の中で、なぜ牛なのかという素朴な疑問があるかもしれませんが、間近で長時間牛に接する機会があることや、牛をメインに表現している人は他にはほとんどいないように思うので、いわゆる「差別化」という意味合いもきっとあるのではないでしょうか。ひとと同じことをやっていてはプロにはなれませんからね。

→ブログは http://usinotumuji.blog28.fc2.com/

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鳥海山 午前と午後と

 

写真は2枚とも昨日の鳥海山ですが、上は午前9時頃に西南西麓の箕輪(みのわ)付近から、下は午後3時頃に南西麓の袋地(ふくろじ)から眺めたものです。前日の降雪のアンダーラインがくっきりと現れていることや、陽のあたる角度や高さや眺める方向によってずいぶん印象が異なることがわかります。

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類語辞典

 

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自分の部屋で十数年来使っている『角川類語新辞典』です。1981年に第1刷発行ですが、私が持っているのは2002年発行の第33刷。著者は大野普と浜西正人。装丁(奥付には造本と記)はやはり杉浦康平です。やはり、予想どおり、というのは、物としての見た目は非常に洗練されておりかつ独特でもあり美しいのですが、辞典としての使い勝手はあまりすぐれているとはいえません。

とくに索引のところの数字などが小さすぎて、ちょっと暗いところだと判読できません。視力が弱い人だと拡大鏡でもないと読み取り不可能でしょう。サイズだけでなく書体もポイントを小さくして用いるには適していない書体です。文字が文字そのものとして扱われているというよりも、ビジュアルの一要素として扱われているきらいが彼の装丁やデザインにはしばしばあります。この辞典の全面がそうであるということではありませんが、部分的にせよ本末転倒ではありますね。文字はまずなにより容易に正確に判読できることが第一であり最優先であって(とくに本の場合は)、見た目のどうのこうのはその以降にくるものでしょう。

それは置いておくとしてですが、私は俳句を作ったり原稿を書いたりする際に、この辞典はたいへん重宝しています。例えば「執筆—文章を書くこと」の項をみると(p304)、書く・筆を執る・筆を走らせる・筆を染める・書き残す・書き立てる・書き捨てる・書き下す・書き下ろし・草する・執筆・起草・起筆・起案・起稿・書き物・加筆・補筆・補綴・略記・略筆・特記・特筆・詳記・直筆・曲筆・健筆・擱筆・筆を擱く・脱稿・ペンを折る・筆を断つ・筆を捨てる、と34語も出てきます。もちろん同じ書くでも「記載」や「記録」に関係する言葉も加えると上記の5倍くらいの言葉が出てきます。まったく驚きですね。

もうひとつ紹介すると、「速い—動き・速度が大である」の項には(p150)、速い・速やか・快速・急速・高速・迅速・敏速・神速・疾風迅雷・目にも留まらぬ・脱兎・矢の如し・一瀉千里・疾く・疾っ疾と・捗捗しい・スピーディ・着々・とんとん・見る見る・ぐいぐい・ぐんぐん・ずんずん・どしどし・どんどん・飛躍的・めきめき・めっきり・颯と・さっさと・すっと・長足、とこれも32語も載っています。またまたびっくりです。

これらは大きくは同じ意味合いの言葉ながら、微妙にニュアンスと味わいが異なり、前後の文脈と時と場面によって「これは使えるor使えない」の判断がなされることになります。俳句でも最初の下書きではもっともふつうに「速やかに」としてみたものの、推敲の過程で「着々と」に替えたほうがぴったりくるという例はいかにもありそうです。

頭にぱっと浮かんでくる言葉などたかが知れていますが、あらためてその言葉の周辺を類語辞典で調べてみるとはるかに広い海が広がっていることがわかり、嬉しくもありまたうちのめされる思いです。

 

角形くり物の製作中

 

まだ確定的ではありませんが、来秋に地元のギャラリーで個展を開くかもしれません。とりあえず作品の現物をいくつかギャラリーの担当者にお見せしたところ気に入ってはもらえたようで、私のほうの都合がつけば実施は可能のようです。

ただし製作の時間・経費・保管・搬入搬出などのどれをとっても大きな家具の出展は難しく、一品物の小物類を中心として小家具と定番的な小物類を並べることになると思います。

まずは物がないことには話にならず、あと1年弱でどれくらいの品を作れるかの見通しを出すことも兼ねて、いま点対称ではない(つまり円形ベースではない)くり物3点の製作を始めています。写真は厚板をほりこんで蓋の部分を作っているところですが、内部をサンディングまで含めてほぼ仕上げてから、その内側のラインを基準に外側に縁の厚さ(6mm前後)の線を引き、それを目安に外形のカットと成形を行います。また実のほうは蓋の内側の形と寸法に合わせて、残すべき縁の厚さを逆算して、やはり内側の掘り込みとサンディングを先に行います。

この加工の順番はまず絶対的なもので、外形を決めてから内側を掘り込むことは基本的に不可です。掘り込みするための材料の固定と、掘る際の圧力や衝撃で材料に割れや欠け、歪みが生ずる可能性が大だからです。この面も点対称の「箱物+くり物」を製作するのに比べ非点対称の「箱物+くり物」は、後者のほうが材料と手間がずっと多くかかる理由です。

今回の材料はセンの縮み杢。厚さ46mmある一枚の板から異なる形とサイズのものを連続的に3点取り出しています。材料に厚みがあるので、蓋の形状にはいろいろ変化がつけられるでしょう。

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コーヒーブレーク 64 「十二支」

 

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桐一葉フォッサマグナの上にかな

フォッサマグナは日本列島を東北日本と南西日本とにわける大きな地溝帯で、そもそもがラテン語で「大きな溝」の意味。明治のはじめに来日したドイツの地質学者エドモント=ナウマンが発見し命名したという(ナウマンといえばナウマンゾウの化石でも有名)。日本海側の新潟県糸魚川から太平洋側の静岡県とを結ぶ線あたりがそれにあたり、幅数十km、厚さ約10kmの堆積物でおおわれている。/地球の表面をおおうプレートの境界線の一部がちょうどそのあたりにあり、北アメリカプレートとユーラシアプレートとがせめぎあっている。もちろんここは地震の巣であり、焼山・妙高山・浅間山・八ヶ岳・富士山・箱根山など多くの火山が並んでいる。

芒野に佇めば身体屈折す

ススキは芒・薄とも書き、また尾花・茅・萱とも呼ばれる、イネ科ススキ属の植物である。有用植物のひとつで、野生に生息しごくふつうに見られる多年草だ。背丈はときに3mほどにもなることがあり、そうしたススキが群れをなし、風に抗して一定方向に穂をみな倒している様子はなかなか幻想的である。とりわけ逆光をすかして見るススキはたいへん美しく、いかにも秋の到来という気がする。

十二支に選ばれざるもの日向ぼこ

日本では十二支(じゅうにし・えと)の動物といえばネズミ・ウシ・トラ・ウサギ・タツ(リュウ)・ヘビ・ウマ・ヒツジ・サル・トリ(ニワトリ)・イヌ・イノシシである。人間生活の比較的近辺に生息しなじみのある動物であるが、虎や龍が含まれていることからもわかるように、もともとは中国の歴法等によるものである。/世界には十二支と同様なものがあり、国によってブタやスイギュウやヤギ、ワニ、そしてネコが入ることもあるという。日向ぼこする動物といえば今はまっさきにネコを思い浮かべる人が多いと思うが、中国で十二支にこのネコが採用されなかったのは、古代の中国ではネコはまだそれほど一般的な飼育&愛玩動物(ペット)ではなかったからという説もある。