年内に発売予定のペーパーウェイトD、約60本。それに用いた素材の木9種類について順次説明しています。前回はスーヤバールでしたが、今回2回目はマスールバーチです。
マスールバーチ(Masur birch)のバーチは日本語でカバノキのことですが、マスールバーチを樹木・用材の図鑑や植物図鑑でひいても出てきません。それは業界用語というか銘木屋さん筋の通称だからです。
ある種のカバノキが成長過程で樹皮に蛾の幼虫がつき、その食み跡が下の写真のような奇妙で独特な模様になるそうです。ふつうは昆虫等に食われてしまうと空洞になったりそこがぐずぐずに脆くなってしまいますが、このマスールバーチの場合はそうはならず、食痕の部分もしっかりと緻密な木部を保持しています。樹木がそれらの傷を新たな侵出物でしっかり充填してしまうからとのこと。樹脂分はやはり多めで、サンディングはしにくいです。
今回使用したマスールバーチの素材は径20cmほどの、芯の部分を含む丸太の三ツ割材です。食み跡は芯から同心円状に不規則に入っていることからみると、蛾はある程度の周期をもって大発生するのかもしれません。しかしそれで樹が枯れることなく、さらに食み跡をほぼ完全に樹自身がきれいに埋めてしまうことからすると、一種の「共生」状態にあるのかなという気もします。
木の地肌よりもいくらか濃い褐色の不定形の紋様が散らばっていますが、まったく規則性がないわけではなく、だいたい木の繊維方向に沿って蛾は移動しつつ食べていったようです。紋様が鳥や魚の群れのようにも見えますね。派手ではありませんが、きわめて面白い杢といえます。似たような杢はちょっと思い当たりません。材料単価は非常に高く、黒柿並材と同じくらいのレベルですし、量的にはかえって黒柿より少ない(市場にはめったに出てこない)のではないでしょうか。
写真は奥が正立、手前はこちらに横倒しした状態です。上面だけわずかに曲面になっているのがお分かりになりますかね。