大北風の刈り取りゆける地面かな
大北風は「おおきた」と読むが、これは俳句的な言葉使いで、五七五の基本的な音調に合わせるように通常の音を縮めたり伸ばしたりすることがよくある。夕焼(ゆうやけ)を「ゆやけ」、夕立(ゆうだち)を「ゆだち」、梅雨入り(つゆいり)と「ついり」、地震(じしん)を「ない」、斑雪(はだれゆき)を「はだれ」、寄居虫(やどかり)を「ごうな」、蚕(かいこ)を「こ」、南風(みなみかぜ)を「みなみ」「はえ」「まじ」「まぜ」とよぶ等々。古語や地域語がふいに混じってきて、ある程度しっかりと俳句作りをしていないとまったく意味がわからないことがあるので要注意だ。とりわけ方言は、同じ言語圏に属する者同士のやりとりならともかく、他者にとっては外国語同然と思ったほうがいい。
地吹雪の天に向かいて降りこみぬ
吹雪は降雪中の雪や積雪が強風によって空中に舞い上げられることにより視界が損なわれることであるが、降雪がともなわない場合は地吹雪とよばれる。空はきれいに晴れて青空がひろがっているのに、地表近くだけ猛烈なホワイトアウトになっていることも珍しくない。/気象庁の定義によれば、風速10m/s未満の降雪は風雪、風速10m/s以上を吹雪、風速15m/s以上を猛吹雪と呼ぶようである。/この風速◯mというのも一般にはぴんと来ない表現ではないかと思う。それが1秒間に◯メートル移動するような風の速さ(強さ)を意味しているということさえあまり理解されていないのではないかと疑っている。秒速10m/ということは時速にすれば36km、秒速20mなら時速72km、秒速30mならば時速108kmである。自動車でもし高速道路を走っていて窓を全開していたらものすごい風で、車中のものが散乱してしまいそうである。自家用車がこれだけ普及した今となっては、風速を時速で表したほうがその速さを実感的に理解できるようになるかもしれない。
ひとすじの氷柱蟷螂の卵塊より
よくカマキリの卵嚢(らんのう)が地上からおおむねどれくらいの高さに産みつけられているかによって、その冬の積雪を予測できるという話があるが、これは科学的にほぼ否定されている。実証的に数多くの卵嚢の位置と、その年のそこでの積雪の深さを調べて統計的に処理しても相関関係はなんら見いだされなかったようである。カマキリの卵が積雪深を予知するという説の前提とされる「卵嚢は雪に埋もれると孵化困難」という仮説も反証されてしまった。/一見科学的な話のようでありながら、じつは迷信や単純な誤解であることはよくある。いわゆるネイチャーゲームの定番ともなっている「樹液の流れる音を樹の幹に聴診器をあてて聴く」というのもその類いのひとつで、その程度の簡易な道具で流れが感知できるほど樹液の流速流量は大きくはない。聴診器で聞こえるのはおおかたは近くを流れる渓流のせせらぎか、風で揺れる枝葉のざわめきか、すこし離れてはいるが道路を走る車の振動などである。
(※ 写真は月光川本流の自然産卵のサケの群れ。人工的に孵化されたサケとはまた違った生態が間近かに観察できる。捕獲は禁止。)