月別アーカイブ: 3月 2017

コーヒーブレーク 101 「ヤポーニヤ」

 

 

寒林は光引き入れ夕焼なる

[かんりんは ひかりひきいれ ゆやけなる] 先日『つばき散歩』という本を読んだ。地元在住の植物研究家=土門尚三さんの著書で、2016年11月の刊。ツバキの仲間についてのさまざまなことを記してある。自然の草木に興味関心のある私は楽しく読んだ。当地にはヤブツバキ、ユキツバキ、ユキバタツバキの3種があり、それぞれがうまく棲み分けている。ヤブツバキは常緑の広葉樹で暖地性の高木なので、本来的に寒さには弱い。それが背丈を低くし(1〜2m)、幹や枝を細く柔軟にし、冬期は積雪の下に埋もれることで寒さをやりすごすようになったのがユキツバキである。つまり「雪椿」。ユキバタツバキはヤブツバキとユキツバキとの中間種だ。というようなことは概略は前から知っていたが、あらためて野山に出て仔細にたしかめてみようと思った。

雪山に影ふつふつと鳥獣

[ゆきやまに かげふつふつと とりけもの] 上のツバキの話とは対照的に、当地の自然林は圧倒的に落葉広葉樹が多いので、晩秋の葉を落とした頃はもちろん、冬になってさらに雪が積もるようになると雪面からの反射光も加わって、まぶしいほどの景色となる。新雪が降ってその明くる朝が晴れておりあまり風もなければ(当地では稀であるが)、雪面にたくさんの足跡を見ることができる。タヌキ、キツネ、リス、テン、カモシカ、ウサギなどである。先日はウサギかなにかを狙って舞い降りてきたと思われる鳥の羽根の跡も雪面にくっきりとついていた。獲物をキャッチした痕跡はなかったから、間一髪で獣は逃げ去ったようである。

ヤポーニヤは雲の下へ鳥帰る

[やぽーにやは くものしたへ とりかえる] 白鳥が帰っていく。V字型の編隊を組んで、こーこーと鳴き交わしながら飛んでいく。冬の厳寒期を日本で過ごした白鳥は、繁殖地であるシベリアやオホーツク海沿岸をめざして。いわゆる北帰行である。このあたりだって冬は十分に寒い気がするが、それでもシベリアあたりにくらべればはるかに温暖であるのだろう。すなわち白鳥は日本に避暑ならぬ避寒に来ていたわけである。/鳥の編隊飛行の先頭にいる鳥は、編隊を率いるリーダーかなにかと思われがちだが、それは人間社会の投影にすぎないことが分かっている。よくみれば先頭はときおり他の鳥と入れ替わり、先頭にいた鳥がこんどは後方に入り込んでいく。空気抵抗の関係でやはり先頭がいちばん疲れるらしい。まるで雪こぎのラッセルの交代のようではないか。

 

旧蕨岡道のちょい下見

 

鳥海山・飛島ジオパークのガイド仲間にも参加を呼びかけていますが、3月19日(日)に鳥海山の旧蕨岡道探訪を実施するべく、昨日の午後ほんのすこしだけですが下見をしてきました。いったん山中に入ってしまえば積雪が多いか少ないかの差はあっても、基本的には冬なのでそう大きな違いはありません。むしろ問題はアプローチで、麓のほうのどこまで車が入れるかを事前に確認しておく必要があります。

夏場に車を停めておけるふだんの場所まで入れるかどうかによって、その後の所用時間や必要な体力などが大幅に違ってくるからです。今回は実際行ってみたら、月ノ原の集落のいちばん上の住宅のところまでしか車は入れませんでした。そのためそこに車を置いて、輪樏を履いて嶽ノ腰林道を1.5kmほど歩いたのですが、汗ばむくらいに気温が上がったので腐った雪がずぶずぶでかなり苦労しました。こりゃ、ラッセル要員がいないと厳しい。

駒止の先、林道と牧場との分岐のところから旧蕨岡道(参詣道・登拝道)の山道に入り、すこし行くと弘法水という湧泉があるのですが、そこまでは見届けました。積雪は2mくらい。湧泉とそこからの流水の上の雪面はぽっかりと開いています。雪面にはカモシカやタヌキ、キツネ、ウサギなどのたくさんの足跡がついており、ヤマドリの姿も2度見ました。

雪こぎはたいへんでしたが、天気がよく、道々真っ白な鳥海山と青空と雲がたいへんきれいでした。19日も天気がよければいいのですが(暖かすぎて雪面がぐずぐずにならない程度に←ぜいたくな希望)。

 

 

 

 

 

 

 

釜磯の板状節理

 

鳥海山の西端が日本海に没するところにある釜磯は、浜辺の砂から吹き上がるように出ているたくさんの湧水が有名ですが、じつはこの海岸にはポットホール(甌穴)があり、さらに見事な板状節理もあります。この節理はまだ一般にはあまり知られていませんが、おすすめのポイントです。

湧水があちらこちらからぼこぼこ湧いている砂浜を、南側の十六羅漢方向に砂浜が尽きるところまで5分くらい歩いていくと、下の写真のようなじつにすばらしい垂直の板状節理に出会うことができます。旧7号線より下の崖の高さは15mくらいかと思います。

この岸壁は10万年前くらいに鳥海山の大平(標高1000m)あたりから流れてきた吹浦溶岩(ふくらようがん)の先端部分のひとつですが(全体では50mくらいの厚さ)、その流れの構造がきっちりと岩に記録されているという感じです。溶岩が冷えて固まる際の収縮→亀裂でできた表面の部分は、長年の日本海の荒波で削られ崩れてしまい、溶岩内部で比較的ゆっくりと冷えて固まった部分に発達した板状節理が顔を表したのではないかと思うのですが、どうでしょうか?

 

 

 

 

アルミのスノーシュー

 

アルミのスノーシューです。日本の旧来の輪っか状の樏(かんじき)に対し、こういった長細いスリッパ状の樏は従来は「西洋樏」と呼ばれていましたが、最近は英語のスノーシューのほうが通りがいいようです。

輪樏にくらべ面積が大きいので、雪面を踏んだ時はとうぜんですが沈み込みがその分少なくなります。サイズは幅19cm、長さ65cmです。ただ半面どうしても重くなってしまうことと、平坦地や緩斜面は快適でも、急な斜面の登行や斜めトラバースなどは苦手です。靴の底が地形に対していつも平行になるだけなので、足首への負担も大きいし、靴先や踵で雪面に任意のステップをこしらえることができないので、およそ30度を越えるような斜面では不安がつのります。とくに急な下りは怖いです。輪樏であればクラスト(凍結)した雪面でないかぎり45度くらいの急な斜面でも問題なく上り下りできるのとは大違い。

このスノーシューにもすこし急な斜面の登行用にヒールリフターなるものが補助的についてはいますが、しょせんは「ないよりはまし」程度のもの。また実際長距離を歩いてみて感じたのは履いた靴をスノーシューに固定するための2本のバンドがラチェット式なのも一見簡単便利なようで、枝や氷の固まりなどがバックルに触れてしまうと簡単にバンドがゆるんだり、最悪の場合はずれてしまうことです。多少めんどうでも旧来のバンド締めのほうが安心です。

なんだか否定的なコメントばかりしているようですが、このアマチュア&ビギナー向けの安価な(1万弱)スノーシューではなく、登山用具専門メーカーの3〜5万くらいする製品であればまた違うのかもしれません。しかしそんな高価なものを試しに買うなどという余裕はとうていありません。ということでやはり輪樏を主体として、 スノーシューはあくまでも補助的に使うことにしました(※ もったいないのでバンドのバックルに自分で手を入れて不用意に外れることはないようにはしました)。

 

縞黒檀ひとそろい

 

すこし前に仕入れた縞黒檀の角材10本。写真のように積んだ状態で幅50cm×奥行20cm×高さ12cmくらいのボリュームですが、これでなんと5万円近く。1立方メートル当たりの単価でいうと400〜500万円くらいの計算になるので、通常の家具材と比べると1桁は上ということになります。

縞黒檀はご覧のように黒い縞々がはっきりしている黒檀の一種ですが、縞がほとんどわからず全体が黒一色のように見える(とくに塗装した場合)本来の黒檀=本黒檀・真黒が非常に少なくなったので、いまでは黒檀というと縞黒檀のことを指すようになってしまいました。

今回仕入れた縞黒檀は、中部地方の方からのご注文によりある品物の部品を50個作ることになり、手持ちの縞黒檀だけでは不足なため急遽仕入れたものです。向こうの地域でも作れる木工家や木工房はとうぜんあると思うのですが、納期や価格的に合わなかったのかもしれません。当工房のことはインターネットの検索で探し当てられたようです。

 

2月下旬の釜磯風景

 

2月下旬のある日の釜磯の景観です。前夜にすこし雪が降り、部分的にですが雪をかぶった磯岩と、荒れ気味の海。晴れ間もいくらか見えており、比較的暖かいおだやかな日でしたが、ほかに訪れる人もなく静かです。冬は冬で、他の季節にはない美しい光景があるのに、どうして足を運ぶ人が少ないんでしょうね。もったいない話です。

 

 

 

 

 

 

 

ブナのスポルト材

 

昨年の春に、庄内町のSさんからいただいたブナの丸太ですが、それをチェーンソーを使って二つに割り、鉋盤で削って太鼓状にしたものです。木口からの大きな干割れ部分はカットしたので全体的に短くなりましたが、長さ50〜100cmくらいの半割材が10本。厚みは60〜100mmです。含水率を計る木材用の水分計で計ってみるとまだ30〜50%という高い値を示しています。

ごらんのように本来は新材であれば淡黄褐色一色のものが、丸太で長く室内においていたせいか黒い筋や白っぽいところなど不規則で複雑な色合いと模様になっています。こういった材を欧米ではスポルトと呼んでいます。スポーツと語源は同じで「変わりもの」「特異なもの」といった意味があります。玉杢や縮みなどとはまた違った味わいがありますが、要するにこのままずっと放置しておけば腐ってしまうので、そうならないうちに乾燥させて木工の材料として活用しようという類いのものです。

変わった模様が半ば偶然生じていて、しかしながら加工に耐えないほど木地がぐずぐずになっているわけではないという絶妙なタイミングが必要で、使いこなすには難しい材料といえます。わびだのさびだのの情趣を強調する日本ではさほど好まれないスポルトが、逆に欧米のとくにターニング(旋盤加工の木工)界隈では非常に人気があるとというのもおもしろいところです。

写真の1枚目はいちばん長さがある材料の内面ですが、黒い筋がはっきり出ています。2、3枚目の写真は他の半割材も含めた、スポルト部分のアップ。

 

 

 

2月の牛渡川と丸池様

 

2月のとある日の牛渡川と丸池様です。前の日にすこし雪が降ったのですが、あくる日はときおり晴れ間ものぞき気温も上がってきました。とはいえ午前9時半頃に撮った写真なので、湧水がほぼ100%である牛渡川の水温よりはずっと気温が低いためか、水面のすぐ上には霧が立ちこめていました。

箕輪の鮭孵化場がまだ稼働しており、水門のゲートで水位を上げているので、ふだんより水深はあります。9月頃に一度刈られたバイカモ(梅花藻)もまた延びてきています。水門より下の孵化場付近にはサケの稚魚がたくさん群れていました。鳥から食べられないように川に網を張っています(写真はいずれも水門より上流側のもの)。

3枚目の写真には、水中には冷水性のバイカモが、岸辺の斜面には暖地性のタブノキやヤブツバキが生えているのがわかります。豊富な湧水が流れていることで、両者が同じ場所に共存しているというわけです。4枚目の写真はキツネの足跡です。なんとも愛らしいです。

その後の4枚は丸池様ですが、うっすらと雪が積もった景色もまたいいですね。水位がふだんより何十センチか上がっているのと雪とで岸辺の荒廃が隠れてしまっていますが、早く裸地化対策の”結界”の杭とロープを設置していただきたいものです。3月に入って暖かくなってくるととたんに来訪者が増えてきますので。

 

 

 

 

 

 

 

 

コーヒーブレーク 100 「回れ右」

 

 

水鳥の流るるときの回れ右

[みずどりの ながるるときの まわれみぎ] 川縁の散歩によく行くのだが、冬になるとマガモなどの水鳥がたくさんおり、流れに身を任せて遊んでいるように見えることがある。餌を採るとか敵から遠ざかるといった特別な理由があるようではなく、川の水から流されるのと泳いでもとの地点にもどったりを飽かずにくりかえしている。やはりただ遊んでいるのだとしか思えない行動である。/鳥はかつての恐竜の直系の子孫であるという説が現在は主流だ。他の系統は6500万年前にみな滅びてしまったが、鳥の一属だけは危難をくぐり抜けて現在まで生き延びているのだと。そういえばある種の鳥は顔をみると爬虫類的であり恐竜そのもの(見たことはないが)のように思えるな。

大寒や血ぶくれの人体であり

[だいかんや ちぶくれの じんたいであり] とても寒い日だからこそ血の暖かさを強く感じることがある。懐手をするのもそうだし、冷たくなった手を頬にあてるのもそうだ。飼い猫を抱くときもくにゃりとした体の柔らかさとともに、毛の奥の皮膚の暖かさがすこぶる心地よい。/人体の血液の量は体重のおよそ13分の1だとか。つまり8%ということで、体重70kgならば5.6kgくらいの血液があることになる。一升瓶にして3本分である。そしてその約3分の1を失うと命を失う危険があるとか。一升瓶1本をぶちまけたらえらい量であるなあ。

うつしよのせりあがりゆく牡丹雪

[うつしよの せりあがりゆく ぼたんゆき] 冬に花を咲かせる牡丹には「冬牡丹」と「寒牡丹」があるのだということを最近になってはじめて知った。冬牡丹は温室や薬剤などを駆使しての促成栽培で、人工的に開花させるもの。したがって一度かぎりの開花で、あとは枯れるだけ。それに対して寒牡丹はもともと二季咲きの牡丹の春の蕾を切り取り、秋の蕾の時期には葉を摘んで花期を遅らせ、雪覆いなどをして冬に咲かせるのだという。結局どちらも人間の嗜好で本来の節理を変えているわけで、私はそうまでして無理に冬に牡丹の花を見たくはないな。春の花が春になって咲くことこそが美しく尊いのに。