寒林は光引き入れ夕焼なる
[かんりんは ひかりひきいれ ゆやけなる] 先日『つばき散歩』という本を読んだ。地元在住の植物研究家=土門尚三さんの著書で、2016年11月の刊。ツバキの仲間についてのさまざまなことを記してある。自然の草木に興味関心のある私は楽しく読んだ。当地にはヤブツバキ、ユキツバキ、ユキバタツバキの3種があり、それぞれがうまく棲み分けている。ヤブツバキは常緑の広葉樹で暖地性の高木なので、本来的に寒さには弱い。それが背丈を低くし(1〜2m)、幹や枝を細く柔軟にし、冬期は積雪の下に埋もれることで寒さをやりすごすようになったのがユキツバキである。つまり「雪椿」。ユキバタツバキはヤブツバキとユキツバキとの中間種だ。というようなことは概略は前から知っていたが、あらためて野山に出て仔細にたしかめてみようと思った。
雪山に影ふつふつと鳥獣
[ゆきやまに かげふつふつと とりけもの] 上のツバキの話とは対照的に、当地の自然林は圧倒的に落葉広葉樹が多いので、晩秋の葉を落とした頃はもちろん、冬になってさらに雪が積もるようになると雪面からの反射光も加わって、まぶしいほどの景色となる。新雪が降ってその明くる朝が晴れておりあまり風もなければ(当地では稀であるが)、雪面にたくさんの足跡を見ることができる。タヌキ、キツネ、リス、テン、カモシカ、ウサギなどである。先日はウサギかなにかを狙って舞い降りてきたと思われる鳥の羽根の跡も雪面にくっきりとついていた。獲物をキャッチした痕跡はなかったから、間一髪で獣は逃げ去ったようである。
ヤポーニヤは雲の下へ鳥帰る
[やぽーにやは くものしたへ とりかえる] 白鳥が帰っていく。V字型の編隊を組んで、こーこーと鳴き交わしながら飛んでいく。冬の厳寒期を日本で過ごした白鳥は、繁殖地であるシベリアやオホーツク海沿岸をめざして。いわゆる北帰行である。このあたりだって冬は十分に寒い気がするが、それでもシベリアあたりにくらべればはるかに温暖であるのだろう。すなわち白鳥は日本に避暑ならぬ避寒に来ていたわけである。/鳥の編隊飛行の先頭にいる鳥は、編隊を率いるリーダーかなにかと思われがちだが、それは人間社会の投影にすぎないことが分かっている。よくみれば先頭はときおり他の鳥と入れ替わり、先頭にいた鳥がこんどは後方に入り込んでいく。空気抵抗の関係でやはり先頭がいちばん疲れるらしい。まるで雪こぎのラッセルの交代のようではないか。