月別アーカイブ: 12月 2016

コーヒーブレーク 95 「貧乏神」

 

 

日本大歳時記一一九六頁日短

[にほんだいさいじき せんひゃくきゅうじゅうろくぺーじ ひみじか] 私が持っている歳時記は3種類。定番中の定番ともいうべき角川学芸出版の『合本 俳句歳時記 第四版』、同じく角川の『角川俳句大歳時記 全五巻』、そして講談社の『カラー図説 日本大歳時記 座右版』である。最後のは1983年刊行で、そのときの値段が12000円。これは古本をインターネットで探して数年前に購入したものだが、届いたものを見ると裏表紙に「創立30周年記念 ◯◯特許事務所」との箔押しがあるが、汚れのまったくない(読んだ形跡のない)新品同様の本である。記念にもらったはいいものもとりたてて俳句に興味関心があるわけではないしということで古書店に売っぱらったものであろう。おかげで私は半値くらいで入手することができた。/なにしろ大判で1675頁もあるので、大型の国語辞典に匹敵する重さがある。そのくせ活字は文庫版の『合本 俳句歳時記 第四版』よりさらに小さい。これではたしかによほど俳句にのめりこんでしまった者でないかぎり持て余してしまうだろう。

貧乏神ぬすみ見ている日向ぼこ

[びんぼうがみ ぬすみみている ひなたぼこ] 神様なのにありがたみもなく、貧相で、迷惑なだけなような貧乏神。しかしたぶん、そこには一神教のような単純明快な世界観および人生観ではない、はるかに複雑で玄妙な宇宙が顔をのぞかせているような気がする。単に「名声や富、財貨に浮かれていてはいけないよ」といういましめだけでなく。

餅ふくるるはいつもアンシンメトリー

[もちふくるるは  いつも あんしんめとりー] ずっと昔の話になるが、わが家では正月の朝起きてまず子供たちがする仕事が餅を七輪で焼くことであった。餅そのものは暮れのうちにお店に頼んでまとめて買っておくのだが、正月にはそれをあぶって焦げ目がすこしだけ付くようにしてから雑煮にすると香ばしくておいしいのである。/雑煮だけではしだいに飽きてくるので、きな粉餅にしたり、餡ころ餅にしたり、醤油+砂糖+海苔の餅にしたりを気の向くままくり返しているうちに、はや七日も過ぎてしまうのであった。いまのようにお菓子など豊富にあるわけもなかったので、焼き味噌おにぎりや、焼いて醤油を少しつけただけの餅がおやつがわりでもあったのである。

 

小物類のパッケージング

 

当工房には定番の小物類がいくつかありますが、保管や荷造・発送用に専用の紙箱に入れています。箱は開業以来のなじみの紙箱屋さんに頼んでいるのですが、白ボール紙に和紙風の黄緑色の化粧紙を貼った貼箱です。定番製品といっても大量生産するわけではなく、1ロットがせいぜい数十個程度ですが、そういう面倒でたいしたお金にもならない注文をこころよく引き受けてくださり感謝しています。

さて通常の小物であれば柔らかい薄手の紙で品物を包んだあと、上記の貼箱に入れればいいだけですが、時計の場合は時針がむき出しになっているので注意が必要です。具体的には品物に合わせて、建築用の断熱材の一種であるスタイロフォームを糸鋸やカッターナイフなどで切り、ホットメルトの接着剤でくっつけ合わせたりして、貼箱の中で時計が動いて針を壊してしまわないようにします。

蓋をあけてすぐに製品が見えたほうがユーザーにも直截的に注意を喚起できるので、あえてフルオープンに近いかたちのパッケージングです。大量生産であればパッケージングは専門業者に依頼するところでしょうが、弱小零細工房の場合はそんな余裕はないので、なんでも自分でやらないといけません。

 

乗用車のデザイン

 

 

先般、古い家具の直しの仕事を受けた際、抽斗の底に敷いた新聞紙がたくさん出てきました。作業用に古新聞紙を使うことがときどきあるので取っておいたのですが、ふとみるとトヨタの乗用車の広告が載っていました。

昭和62年=1987年、ということは約30年前の新聞広告ということになります。左上からスプリンター、カローラ、マーク2、クラウン、ビスタの5車種ですが、形状はみなよく似ています。角張ったラインとできるだけ薄く平べったくみせているフロントはまったく同じで、違いというとグリルの形と全体としてのサイズ・ボリューム感ですね。

クラウンはやはり「おやじさん」っぽい雰囲気ですが、スプリンターとかカローラなどはこれはこれでなかなかいいデザインと思います。現在のぐにゃぐにゃしたオーガニック(有機的)なデザインや、プラモデルみたいなデザイン、コンピューターの性能をいたずらに駆使してよけいなラインや膨らみをてんこ盛りにした過剰なデザインよりずっと上品です。

もちろん言うまでもなく、動力性能や安全性や耐久性などと異なり、デザインはしょせんは「好き嫌い」の問題であって、数値的に客観的に「良し悪し」を評価できるわけではありません。しかし昨今のあまりにも酷いデザイン(中でもト◯タ!)の車をみるにつけ、一服の清涼剤を得たような気分でした。

 

特注の掛時計

 

 

 

11月2〜9日の個展の際にご注文いただいた特注品の小物のひとつです。直径240mm、厚さ32mmの大きさで、材料はフレーム(外枠)がオニグルミ、フェイス(文字盤)がサワグルミ。時刻の数字は定番の掛時計001と同じく焼き印を押しています。

フレームはいくつかのピースを接合したもの(=通常の市販品ははほぼすべてその作り)ではなく、一枚板を丸く刳りぬいています。しかしただ丸くカットするだけでなくフェイスを裏側から押縁でおさえるために段欠が必要なので、これの加工はあんがい面倒。加工方法はさらなる検討が必要と思いました。

ご注文いただきました酒田市のN.Sさんには感謝申し上げます。こういった機会でもないとなかなかこの種の時計を作ることはありませんので、こちらにとってもいろいろと勉強になりました。N.Sさんからは卓上のミラーもご注文いただいていますが、そちらは年明けになりそうです。いましばらくお待ちください。

 

コーヒーブレーク 94 「いちご飴」

 

 

いちご飴もろうて片目の雪うさぎ

[いちごあめ もろうてかための ゆきうさぎ] 10日ほど前に雪が積もったら、さっそく子供たちが庭に雪だるまを作った。大小の雪玉をこしらえてそれを上下に重ねたオーソドックスな形の雪だるまである。雪だるまにもさまざまなバリエーションがあるが、結局昔ながらの形態のものがいちばんしっくりするように思う。もっと積雪が多くなると、これまた定番のかまくら作りである。/雪うさぎに関してはじつはあまり記憶がない。こちらはむしろ子供の遊びというよりも、大人が来客をもてなすときの遊び心の類いであって、お盆に盛った雪を軽く紡錘形に整え、眼はナンテンなどの赤い木の実で、耳はツバキの葉などで模したものである。たまに雪が降るような土地柄であればこその洒落であって、毎日のように雪かきに追われるような多雪地帯豪雪地帯ではそういう余裕などはないということだろうか。

小さきつらら氷柱より生まれそむ

[ちいさきつらら つららより うまれそむ] 昔ほどには氷柱をみかけなくなったような気がする。氷柱ができるには基本的には一度雪が溶けて水滴になり、それがまた冷気にさらされてすぐに凍るという条件がないといけない。屋根などに積もった雪が寒気がきびしくてずっと凍結したままではそもそもだめであり、気温がゆるみすぎて溶けて流れ出した水が再凍結することなくそのまま地面に落ちてしまってもいけない。そうするとここ庄内平野のように冬場の最低気温がすこしマイナスになるものの、日中はわずかにプラスに転ずることが珍しくないという気象条件こそが、氷柱ができる最適の条件であるのかもしれない。/しかし、氷柱を以前ほどには見かけなくなったということは、やはり全体的に温暖化(気候変動)が進行しているということか。

小春日やバーベルがわりに猫をあげ

[こはるびや ばーべるがわりに ねこをあげ] 今年の8月19日に永眠したトントは体重5kgほどもある大柄な猫で、またとてもおとなしい性格だったので、私や家族の者からはほとんどなにをされてもされるがまま。もちろんだからといって決していじめたりはしなかったが、抱っこもおんぶも膝乗せ肩乗せも嫌がることはなく、むしろごろごろと大きく喉をならすし、自分から「抱っこして〜」と要求することもよくあった。ときどきバーベルのように持ち上げたりもしたが、体がぐんにゃりしているので、両手で重量挙げのようなあんばいで持ち上げないと落としてしまうおそれがあった。トントの健在だった頃の写真をみるとたいそう切なくなる。

 

やや大きめの掛時計001、完成

 

直径21センチのやや大きめの掛時計001が完成しました。もともとは家具のお得意先から「時計は作らないの?」と言われて、それで当工房としてははじめて作った時計でした。どうせ作るなら定番化できるようなしっかりしたデザインのものにしようと考えて、試行錯誤しながらこしらえたものです。

世の中にはいわゆる「手作りの時計」がたくさんありますし、たいていの木工家は時計を手がけています。しかしほとんどの時計がパターン化していて、できあいの時計を板にはめこんだだけか、時刻の数字の部分がプリントであったりただ丸棒を埋め込んだだけというものが圧倒的に多いですね。もちろん素人ならいざしらず、まともな木工家であればそれなりにいろいろな工夫をこらしているはずですが、印象としてはどうも「日曜工作」っぽい。

一方、時計メーカーのような量産ができるわけではないので、製造コストの関係からいうとムーブメントは完成品を仕入れて使うしかできませんし、風防のガラスやアクリルなども少数では非常に高くついてしまい採用は困難です。したがって加工可能な材料や手段はかなり限られてくるのですが、そのなかでいかにスマートなデザイン、オリジナルなデザインができるか。

写真は今回、個展での予約ぶんもあって追加で製作したものですが、みなさまいかがでしょうか?
価格は税込みで14000円(送料は個数にかかわらず一律500円です)

 

 

 

数字の焼き入れ

 

直径210mmのやや大きめの掛時計001を製作中ですが、木地の加工を終わり、焼きごてで1から12までの数字を入れます。数字は特注で以前作ってもらったものですが、銅合金製です。すこし長い柄がそれぞれに溶接してあり、この部分を電熱式のこて本体のソケットに差し込んで熱くします。

焼き入れは一発勝負でやり直しはききませんので、入れる場所を窓状にした型紙を本体に仮止めして、その窓のスペースを横からにらんで焼きごてを押し付けます。平均的な力で、短くもなく長くもなくちょうどいい時間当てるのは難しく、どうしても数字ごとに若干のむらが生じてしまいます。しかし、そこがかえって「手作業」の味が出ていいかなと思っています。もちろん判読に支障があるほどの差があってはだめですが。

 

 

やや大きめの掛時計の製作

 

先月11/2〜8の個展(酒田市の清水屋の画廊)で予約注文をいただいた小物類を何種類か作っていますが、小型の掛け時計と置時計は終わったので、今度はやや大きめの掛時計001を作り始めています。定番製品ですが、在庫切れとなっていました。

直径は21cmあるので、通常の居室・居間ならこれで視認できると思います。もっと大きなサイズをというご希望もあったのですが、無垢の一枚板を丸く削ってこしらえているので、材料のコスト→製品価格を考えると現状では難しいですね。材料は基本はサワグルミ(沢胡桃)にしているのですが、素材の板幅で余分も見込んで「24cm以上の無欠点材」となると調達が至難です。したがって別の材料と別のデザインで今後新しく検討することにします。

さてその掛時計ですが、しばらく寝せておいた板を厚さ25mmに下拵えをして、型板で木取の位置を決め、ボール盤で時針の穴をまずあけ、ついで裏側に倣い型+ルーターでムーブメントが入る穴を掘り込みます。ここまでが下の写真です。

 

裏側にムーブメント用の凹みを開けたら、つぎはバンドソーで仕上がり寸法より1〜2mm大きめに丸くカットします。それを旋盤にセットして外周側面と文字盤=フェイスの凹みを削ります。板厚は25mmですが、裏側に5mmの段差を付けることによって、時計を壁に取り付けたさいにそのぶんの隙間ができ、時計がちょっと浮いているような感じになります。下の写真は、右がバンドソーで丸くカットしたもの。左はそれを旋盤で仕上成形したものです。

ここまでくればあとは手磨きでていねいにサンディングを行ったあと、1〜12までの数字を焼印で押し、塗装し(4回)、ムーブメントと時針と吊金具を取り付ければ完成です。

 

コーヒーブレーク 93 「慢性疲労症候群」

 

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さっきから動かぬひとも日向ぼこ

[さっきから うごかぬひとも ひなたぼこ] すっかり雪模様になってしまった。気温もそろそろマイナス予報が出てきたので、玄関先に置いている鉢植えを室内に入れなければ。植物もしっかりと陽に当てて育てたものは寒さにも強いが、日焼けしないように過保護に育てたものは寒さに弱い。植物の不思議について書かれた新書をこの前読んでいたが、草木が冬に凍害を避けるための工夫として、体内の糖分やビタミンの濃度を高めるというのがった。しかし、実験例として砂糖の水溶液はマイナス2℃くらいでも凍らないと記してあった。えっ、それじゃあマイナス10℃とか20℃にもなる地方の植物がどうして冬を無事に過ごせるのかの説明にはぜんぜんなってないよ、と思った次第でござる。

凍雲を首にまきおり行者岳

[いてぐもを くびにまきおり ぎょうじゃだけ] 鳥海山は2236mの標高をほこる東北随一の高山である。しかも西裾が日本海に没しているので、海抜マイナス数百mから始まる大きな山である。とても目立つ独立峰であり、大昔から参詣のための登山が多かった。したがって山中の各所には神仏等にちなんだような名前がたくさんある。七高山、行者岳、伏拝岳、文珠岳、七五三掛、御苗代、御田ヶ原、御浜、愛宕坂、祓川、賽ノ河原、氷ノ薬師、鳳来山、山ノ神、霊峰、舎利坂、etc。/もっとも私個人は宗教的なことにはほとんど興味関心がないので、それらの名前は無機的な記号のようなものでしかないのだが。

太陽系第三惑星慢性疲労症候群

「たいようけい だいさんわくせい まんせいひろうしょうこうぐん] 太陽系ができてから46億年。宇宙ではいつもどこかで超新星の爆発が起きており、それに起因するガスや塵があり、それが引力によってしだいに凝縮して熱をおび恒星になるという。部屋の隅っこでいつのまにか綿埃がふわふわながらも丸く塊になっているみたいなイメージである。/太陽の寿命は約100億年だそうだからあと55億年くらいは存在することになる。ただし17億5千万年後くらいから膨張をはじめ地球の軌道あたりまで飲み込んでしまうという。したがって地球上のあらゆる生命は太陽の寿命が尽きるずっと前に全滅するだろう。人間は?というと、17億5千万年どころか、あと1万年も保つかどうか怪しいと私は思っている。

 

 牛渡川の箕輪鮭孵化場にて。日本海から今年も多数のサケがあがってきた。スローシャッターで撮ったので、魚影がぶれて抽象絵画のようである。)

 

新しい鳥居

 

 

鳥海山南西面の湧水の滝、胴腹ノ滝ですが、11月下旬だったかに鳥居が新しくなっていました。以前のものより一回り大きいです。材料は杉のようです。「不動尊」という額もかかげられていました。

私は6年ばかり前から湧水等の調査のためにだいたい10日に一遍くらいの間隔で通年、この胴腹ノ滝に通っています。鳥居の前の渓流の表流水(水源は湧水)と気温、胴腹ノ滝の左右の湧水温度と気温、そして胴腹ノ滝の水量の推移をみるための定点撮影です。調査が終わると、自宅と工房の飲料水用に2リットルのペットボトルに十数本胴腹ノ滝の水を汲んで帰ります。

胴腹ノ滝の湧水は硬度が9〜10くらいしかない、たいへんやわらかく雑味のない水で、これでご飯を炊いたり、コーヒーや紅茶をいれるととてもおいしいです。調査は仕事ではなくいわば趣味でやっているだけですが、それでも何年も続けているといろいろなことがわかってきて、おもしろいです。この程度の簡易な調査すら今まで誰もやってなかったんですね(大学の先生がごく短期間実施した例はあります)。


写真は2枚とも12月8日のもの。この時の胴腹ノ滝の湧水温は左右ともに8.6℃でした。お不動様の前の気温は0.8℃なので、湧水の暖かさが心地よいです。