月別アーカイブ: 2月 2016

コーヒーブレーク 72 「真球」

 

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雄雌のあるはかなしき鶯餅

動物に雄と雌があるのは生存戦略上の危険分散のためである。別の個体同士が遺伝子レベルでシャッフルされることで、多様な子孫が産まれる。いろいろな子孫がいれば環境が大きく変わってもどれかは生き残るであろうという。みながみなほぼ同じ遺伝子のクローン状態だと、環境が激変した際にその種は全滅ということになりかねないから。/と、ここまで書いてふと思ったのだが、この世には雌雄の区別をもたない生き物はたくさんいる。むしろそのほうが多数派かもしれない。だとするとそれらは上記のリスクにどのように対処し回避してるんだろうか? う〜む、上に述べた理屈も単なる後付けの屁理屈なような気もしてきたなあ。

山腹を切り開きしや寒三日月

つい数日前のことだが、仕事場のからの帰りに西方の空を見ていると、上弦のじつにきれいな形の三日月が出ていた。星とか月といった天体になると、肉眼ではその距離感がよくわからない。むろん遠くにあるのだということは理解できても、それがどの程度の遠さなのか。山の頂ぐらいの距離なのか、地球をはるかにこえた人間にとっては無限といっていいような距離なのか。/距離感もそうだが、ペーパームーンという言葉があるように天体は立体感も失われてしまう。いま見えている月も球体の一部であるはずなのに、凹凸のない平坦な物質のようにしか見えない。まさに金色の紙を切り抜いたような。

真球を夢みており冬満月

完璧なまん丸の球体のことを真球というのだが、むろんそれは理論上の話であって現実には完全な球というものは存在しない。例えば地球は巨視的にみればかなりまん丸ではあるものの、赤道半径が6378.137m、極半径6356.752mで、赤道半径が21mほど長い回転楕円体であるという。扁平率は約1/300だから、楕円体とはいうものの素人目にはほとんど球体に近いような気はするが、まだまだ。/真球度というものを調べてみると、たとえばハードディスクの軸受やそのベアリングの玉の精度は10年以上前にすでに20nm(ナノメートル)に達しているとか。1nmとは1ミリの1/100000なので、実感からはほどとおい想像しがたい数値だ。/また「コスタリカの石球」というおもしろいものも出てきた。1930年代初頭にコスタリカの蜜林で発見された200個以上のまん丸い石の玉で、大きさは径2cm〜2m強まで。製作年代はおそらく西暦300〜800年頃と目される。ではどれくらいの真球度かというと最大誤差で0.2%とか、それよりずっと少ない球もあるらしい。0.2%でも仮に直径1mなら2mmの誤差ということだから、当時の手加工でそこまでの精度が可能なのかどうか疑問視され、絶滅した超高度な文明があったのではとか、宇宙人のしわざかなどといったお決まりの説も。しかし現代の日本で実際に石材加工業者が試作してみると、時間さえじゅうぶんかければ手加工でもその程度の真球はできることが判明し、一件落着。

 

家々や

 

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注文の仕事で出た端材で、かつ作業の合間にぱぱっとこしらえてみた家々です。大きさは高さで2.5cmくらい。窓などは電熱ペンで焼き入れをしています。まあまったくの試作ですが、結果論としてはこれではだめですね。子供のおもちゃにしかなりません。

それでどうすれば「大人の観賞に耐えうる製品」になるかですが、いくつか思うことはあるのですが、それはいまのところ内緒です。家具であるとか、先日来の杢ものの材料をもちいたくり物であるとか、非常に神経を使い気の抜けない仕事をしていると、こういったゆるやかな新規小物の試作はほっとするところがあります。3月中には製品化できるようにしたいと思っています。

 

丸形被蓋くり物7点 個々のご紹介

 

1月下旬から取りかかっていた、旋盤(木工ろくろ)を駆使して製作していた7点の被蓋くり物です。厚板を掘り込んで器にするので「くり物」の一種なのですが、主に旋盤を用いてこしらえた場合は伝統的には「挽きもの(ひきもの)」とも呼ばれ、他の手法によるくり物と区別されることも多いです。

今回の被蓋くり物は10月に行う個展に出品するものが中心ですが、一部に先年からのご注文の品も含まれています。材質は黒柿、イタヤカエデ縮杢、オニグルミ変杢=鶉杢(うずらもく)、トチ縮杢+スポルトの4種類。大きさは直径で10〜12cmほどですが、素材の厚さや杢の表情に合わせて曲面の程度や面取りの大きさなどはみな変えています。

また仕上げの塗装は黒柿とイタヤカエデは艶ありの鏡面塗装、オニグルミとトチは半艶(5分消し)塗装としています。艶があるほうが杢が映えるものと、すこし艶を抑えたほうがいいものとの区別です。内側はすべて艶消し(全消し)塗装です。

 寸法や材質・特徴などはそれぞれの写真の下に記していますが、販売価格については個展開催の直前にならないと確定しません。それでも製作原価から計算してのおおよその値段はわかりますので、仮予約という形での予約は受け付けています。ただし納品は展示会が終了してからになります。ご興味のある方はメールにてお問い合わせください。

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No.511 黒柿丸形被蓋くり物 サイズ直径113×高さ41×実の深さ26mm  ゆるやかに膨らんだ蓋の全面にきれいな黒〜濃茶色の紋様が出ており、側面を中心に孔雀杢も。黒柿のなかでも最高級かつ稀産の材料です。実(み)のほうは対照的に黒がほとんど入っていません。外側は鏡面塗装、内側は艶消塗装(計10回くらい)をおこない、最後に表面には磨きもかけています。
売切れ

 

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No.512 黒柿丸形被蓋くり物 サイズ直径112×高さ42×実の深さ26mm  上の511と同一の材料から作ったもので、寸法と形状もほぼ同じ。連続した隣り合わせの素材ながら、杢の表情は微妙にことなります。蓋の側面を中心にみごとな孔雀杢も表れています。 売切れ

 

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No.513 黒柿丸形被蓋くり物 サイズ直径102×高さ29×実の深さ18mm  上の二つとは異なる板から取った黒柿の蓋物。素材がやや薄いので、それに合わせて蓋の膨らみは上のものより控え目にしています。手の平におさまるすこし小ぶりな品。直径が10mmほどちがうだけで、見た目にはだいぶコンパクトに見えます。蓋の上面と、側面の一部まで細かな杢。同じ黒柿でも511&512とは雰囲気がちがいます。実(み)は全体に黒みがうっすらとかかったグレーっぽい感じです。 売切れ

 

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No.514 板屋楓丸形変形被蓋くり物 サイズ直径123×高さ41×実の深さ26mm  材料のイタヤカエデは国内の楓類のなかで最も大きくなる樹木です。秋に黄葉します。細い筋は年輪ですが、それに直交する縞模様は縮み。見る方向や光線の当たり具合で模様がかなり違って見えます。蓋は中央と周辺がすこし盛り上がり、中ほどがすこし凹んだ目ん玉形状。以上4点は艶有塗装。

 

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No.515 鬼胡桃鶉杢丸形被蓋くり物 サイズ直径115×高さ46×実の深さ26mm  オニグルミに鳥の羽根の重なりのように見える杢が生じており、凹凸があるように感じます。かなり珍しい杢です。このような杢を鶉(うずら)杢と呼んでいます。素材厚が40mmほどあったので、その厚さをいかしてふっくらとした形に仕上げていますが、それがまた羽毛におおわれた鳥の体を連想させます。実のほうは杢のない一般的なオニグルミの柾目材。以下3点は半艶塗装です。

 

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No.516 栃変杢丸形被蓋くり物 サイズ直径116×高さ38×実の深さ25mm  トチノキに縮杢が生じていますが、それに加えて樹木が生きて立っていたときに侵入した虫穴からの変色もうねうねと。小さな黒点がなんだか生き物の目のようにも見えます。こういった変わった杢・紋様のことをスポルトと呼んでいます。通常、虫食いや変色は材質がもろくなってしまうのですが、この場合は旋盤加工ができるくらい素地はまだしっかりしていました。実(み)はふつうのトチノキです。

 

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No.517 栃変杢丸形凹面被蓋くり物 サイズ直径111×高さ38×実の深さ23mm  516とは別の板からの木取ですが、丸太は同一のもの。虫穴とそれからの変色が、木地が縮杢であることによって直線状には進まず、うねって入っています。波間に漂うクラゲか、という見立てもできそうです。これはこの「生き物」を消してしまわないようにやや凹んだ形の蓋にしています。側面もいくらか下に絞りこんだ形状です。

 

撮影むずかしい

 

黒柿の蓋物ですが、撮影がとても難しく、肉眼で観たような杢の重層感や色合いがうまく表現できません。カメラのせいであったりライティングのせいというのが大きいと思いますが、むろん撮影の腕が不足していることは確かです。

気になってまたあらためて撮ってはみたものの、現状ではこれが精一杯のところですね。写真よりも現物のほうがまちがいなくいいですので、ぜひご覧いただければと思います。

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黒柿孔雀杢

 

しつこく黒柿の話題です。先日完成した黒柿の丸形の蓋物ですが、蓋の側面にきれいな孔雀杢が出ていたので、マクロモードで撮ってみました。孔雀杢というのは樹の芯から外側に向けて放射状に広がる黒い杢のことで、細かな波・羽根模様が「孔雀が羽根を広げたようす」を想わせるからということで名付けられた杢の名前です。

カキノキ以外にも似たような具合の杢が生ずることはあるのかもしれませんが、寡聞にして私は黒柿の例しか知りません。もちろん孔雀の名称をわざわざもってきたのは、黒柿自体が古来からたいへん貴重な材であることに加え、孔雀は鳥のなかでもとりわけ豪華絢爛たる鳥なので、それをさらに加味したものでしょう。そのため孔雀杢=黒柿の特別な高級な杢、というのが通り相場になっています。

名前はきくものの実際それを素材にした木工品にはめったにお目にかかることはできないので、今回あらためて紹介するしだいです。10月に地元酒田市で開催予定の個展には、こうした孔雀杢を有する一品もの(角形・丸形・変形)も何点か展示販売するつもりでいます。

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丸い被蓋くり物7点完成

 

旋盤を使って製作中だった被蓋くり物が7点、完成しました。10月の個展に出品するものと、一部はお客様からのご注文品です。素材は上左から下右に向かって順に、オニグルミ鶉杢(うずら杢)、トチ縮杢+スポルト、イタヤカエデ縮杢、黒柿3点、トチ縮杢+スポルト。仕上げは鏡面と半艶があります。

サイズやその他詳細は後日またあらためて紹介します。

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刻印とナンバリング

 

当工房では製品に「O2」と製造年月「2016.2」、または定番化している小物類であればその種類についての通し番号(シリアルナンバー)を入れています。お買い上げいただいたお客様はともかく家族にとっては、あるいは10年20年と経過してしまうと、どこで誰が作ったものかわからなくなることがあります。同じようなものを追加でほしいとか、修理を要するといった際にも連絡自体が不可能または困難になります。

そこでやはりなんらかの方法で、製造者と製造年くらいは入れたほうがいいと思います。ただし、表面にでかでかと表示したのでは品がないので、目立たないところに、しかししっかりと入れるというのがベターです。そのため当工房では通常は機械のナンバリングなどに用いられる打刻印を用いることが多いのです。これは鋼でできたアルファベットや数字の印を、製品の木部にハンマーで打って刻み付けるので「目立たず、しかししっかりと」という目的によく合致します。他の工房ではあまり例がないのもいいところかと思います。

しかしながら、今年10月の個展向けに作っているような一点ものの場合は、工房名だけでなく個人名と固有のナンバーなども入れたほうがいいと思い直しました。そういった希望もありますし、ここ10年くらいは私一人でものを作っているので、実際のところ木工房オーツー=大江進ではあるわけです。

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写真は現在製作中の蓋物の実の底の部分ですが、工房名と個人名はアルファベットの打刻印で、その品物の固有番号は焼き印(電熱ペン)で入れることにしました。他の方法も試してみたのですが、これがいちばんしっくりくる感じです。蓋物の場合は、かつ一品物の場合は蓋と実とは当然一対一の対応となるので、固有番号は蓋の裏側にも入れます。

また一品物は工芸品&装飾品的な要素もあるので、原則として保管用の専用の木箱が附属するのですが、それには電熱ペンによって日本語で品名・工房名・作者名・製造年月などを記入します。普通はそれらの名前などは箱に墨書することが古来からの慣例のようですが、私は書はまったくだめなのと、やはり他との差異をはかる意味もあります。

 

いただきものの黒柿

 

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ここのところ黒柿の記事が続いていますが、今回もまた黒柿の材料についてです。相手方のご意向もあり詳しいことは書けませんが、1週間ほど前に知り合いの方から黒柿の板と角材(1/3丸太くらい)が届きました。ご自分ではもう使う予定がないのであげるとのこと。

ある程度使った材の残りかと思っていたら、とんでもないことに手を付けていない丸ごとの黒柿が2材です。しかもかなり上等な杢。干割れはいくらかあるものの、値段的にもかなりのものと思います。もしこれが面識がない人や企業からのお届けだったら受け取り拒否をするところです。勝手に送りつけてあとで法外な金額を請求するなどということもないとは限りません。

しかし相手の方はよく知っている方で、実際になんどかお会いしたこともあります。私がブログで最近、個展の開催予定のことや黒柿のことをいろいろ記事にしていたこともあって、それらに対するエールということだと受け止め、ありがたく頂戴いたします(写真も部分のアップのみにとどまらせていただきました)。いい意味でですが今回はたいへん驚きました。

 

最上級の黒柿の下拵え 2

 

前回(2/14)に続いて最上級の黒柿の木取・下拵えの第二弾。第一弾は丸形でしたが、今回は角形です(単純な長方形ではありませんが)。大小合わせて3点を作るつもりでいます。黄色いマスキングテープを貼って、大きさのバランスや杢の具合を検討。

いちばん大きいのはA4サイズ強の大きさがあり、10月の個展における目玉のひとつになるかと思います。手持ちの黒柿材で製作可能な最大級の寸法です。33mm厚の孔雀杢の厚板を掘り込んで箱蓋にします。実のほうは対照的にほとんど黒の入っていない材料を用いるのですが、それはそれで入手が非常に困難な材料。

カキノキは黒い紋様が入っていてこそ重用されるので、それがほとんどないような白っぽい材は返り見られることはまずありません。とくに幅広で厚めの板となるとめったにないのが実状です。人により感覚・美意識は異なることを承知でいうと、私としては蓋も実も全部細かい杢の入った箱ものでは、立派を通りこして過剰であり、くどい、品がないという感じになってしまうと思っています。

黒柿にかぎらず他の樹種でも基本は同じで、実のほうにはむしろ標準的なふつうの材料を用いることによって、それと比べて蓋をご覧になっていただいた方に「こんなに違うのか。とても同じ木とは思えない」と感じてもらえばいちばんいいかなと。木という自然素材の不思議さと魅力を伝えたいと常々考えています。

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旋盤で製作中の蓋物いくつか

 

旋盤(木工用ろくろ)を使って、蓋物をいくつか製作中です。10月の個展用と、一部は注文品です。材料は黒柿、トチ縮杢+スポルト、イタヤカエデ縮杢、オニグルミ変杢(鶉杢)です。旋盤での加工は基本的に点対称の丸いものが中心になるのですが、今回は実+被蓋の器で、板厚と樹種によって蓋の形状などはいろいろ変化をつけています。ふっくらした蓋も、平らな蓋も、逆にすこし凹んでいる蓋も、それぞれに味わいがあります。大きさは直径10〜12cmほど。

旋盤加工は当工房では割合的には1割にも満たないことと、たまに行う程度なので、今回も細かい勘所を最初はすっかり忘れてしまっていました。高速回転する材料に、手持ちの刃物(バイト)を当てて削るので、加工は比較的はやくできるのですが、かなり危険も伴います。機械自体も本職用ではないマニア向けの、精度と剛性のあまりよくないものであることも一因なのですが、うっかりすると旋盤にセットした材料が不意に外れたり、最悪の場合は衝撃で刃物や破片が飛んで来ることもないとはいえません。

そのため細心の注意と、防護のためのフェイスガードは必ず装着して作業をします。切れない刃物だと手によけいな力が入ってかえってあぶないので、すこしでも切れ味が鈍くなったらすぐに研ぐようにします。1個の蓋物を削るのに10回くらいは研いでいますかね。ただ、刃物は高速度鋼=HSSなので、両頭グラインダーですばやく研ぐことができます。

下の写真は基本成形と120番までのペーパー掛けが終わったところです。これで約半数。まだ表面がざらついた状態での素木なので、曇った感じになっていて杢のようすはこの写真ではよくわかりません。旋盤を使わない非丸形のくり物に比べると、同じくらいの大きさの蓋物であっても、やはり半分ほどの手間で加工できます。

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