月別アーカイブ: 8月 2012

カチカチ山と花咲爺

ほるぷ出版からの復刻版ですが、もともとは大正6年10月28日に阿蘭陀書房から発行された本です。文は武者小路實篤、挿画はなんと岸田劉生で、これがじつにおもしろい。写真はその外観(表紙)ですが、ちょっと見には上手いのか下手なのか混乱してしまうくらいに個性的な味わいにあふれています。

この本にはおなじみの昔話であるカチカチ山と花咲爺の2話が収録されてありますが、ふつうのそれとは大幅に異なるアレンジがされていて、武者小路の文章はなかなかに毒が含まれています。巷に喧伝される「仲良き事は美しき哉」から連想される博愛主義の温和な作家ではぜんぜんありませんねえ。例えば、【狸)さうさ。殺すものは殺しどくだよ。兎)殺されるものは。狸)自業自得だよ。】といったあんばいです。「仲良き事は美しき哉」だって、一種のアイロニーのようなものかもしれませんね。


また岸田劉生の挿絵は、これも昔話らしくないいたって硬質のものです。上の絵の、水底に沈まんとする狸を見下ろす兎の、かいを振り上げ憤怒に満ちた顔のなんと怖いこと。これほど怖い兎の絵はみたことがありません。下の絵は欲深爺さんが正直者の爺さんから臼を強引に借り出していくところですが、この絵もすごいですね。さすがです。

ところでこの本はもともとの初版では値段が1円30銭と記してあります。大正初期の1円余が現在の金額にしてどの程度のものなのかよく分かりませんが、一流画家による多数のオリジナル挿画と、布張&箱入の装丁といい、相対的にはかなり高価なものだったと思います。本がそれくらい貴重視されていたよき時代でありました。

 

7/26&8/3&13の胴腹ノ滝

 

写真は7月26日の正午すこし前の胴腹ノ滝ですが、その後8月3日午前9時頃と8月13日午後2時半にも水温等の計測を行いました。水量は徐々にですが落ちてきています。ただそれも左右それぞれの拡大した写真を詳細に比較しての差であって、一目見てすぐ分かるほどの違いではありません。

水温は7月26日が右・左ともに8.9℃で、気温は22.8℃。8月3日も左右とも8.9℃、気温24.4℃。8月13日は右・左ともに0.1℃上がって9.0℃でした(気温データはなし)。

平地の気温が30℃を超えるような日が続いていると、車道から滝に向かう歩道に入り、鳥居とその向こうに胴腹ノ滝がちらりと見えるあたりから明らかに気温がぐっと下がることが分かります。年中8〜9℃くらいの大量の湧水が流れ出しているので、あたり一帯の空気が冷却されているのですね。冬は逆に空気が温かく感じます。

 

月山あさひ博物村

夏休みやらお盆休みやらで、親戚の子どもらといっしょに鶴岡市朝日地区(旧朝日村)の「月山あさひ博物村」に行ってきました。敷地一帯にはいくつかの施設建物があるのですが、まずは文化創造館にて開催中(8/5〜10/28)の「ステゴサウルスとフタバスズキリュウ発掘物語」を見学。下の写真はみなその展示の一部ですが、国内や世界の恐竜・古代爬虫類&魚類などの化石やレプリカ標本等がたくさんあって、かなり見応えがありました。子ども向けのイベントというのではない本格的なもので、とくに本物の大きなサイズの化石は圧巻です。

次は「月山カブトムシ園」ですが、こちらは背の高いビニールハウスのなかに放たれた日本のカブトムシが20〜30匹ほどいて、自由に触ったりできます。ただ当ブログの8/6記事「カブトムシ捕獲作戦」で、野外でのほんとうのカブトムシの姿を見たばかりなので、ちょっと拍子抜けしました。大勢の子どもらに触られてだいぶ弱っている個体もいましたし。率直に言ってこれは「子どもだまし」ですが、この程度でもとくに都市部の子どもたちにとっては貴重な体験となるかもしれません。

3番目は地下道を渡って国道の反対側にあるアマゾン自然館です。ここは常設展示ですがアマゾン研究家の山口吉彦氏の収集した動物の標本などの資料がたくさん展示されています。アマゾンに生息する哺乳類や魚類、爬虫類の剥製も多数あり、昆虫や節足動物の標本もずらずらと。蝶や蛾などはウソのように派手な色彩と形のものがいます。他に生きている蛇やカブトムシ類も見ることができました。アマゾンのものというわけではない、日本のアオダイショウとかシマヘビもとぐろを巻いていましたが間近かに見るとおもしろいです。

子どもといっしょだとすこし時間が経過するとすぐ「疲れた、飽きた、もう帰ろ」と言いがちなので、大人は一人でゆっくり見学にきたほうがいいと思いますね。

 

ヤマホタルブクロ

鳥海山の標高1200m付近に咲いていたヤマホタルブクロ(山蛍袋)の小群落です。登山道の傍らに数十個の花が開いていました。長さ5cmほどもある大きな吊鐘型の花がとても目を引きます。キキョウ科ホタルブクロ属、高さ50cm前後になる多年草です。葉は互生し三角状卵形〜披針形で長さ5〜8cm、分布は本州の東北地方南部〜近畿地方東部とのこと。とするとこれは北限のヤマホタルブクロかもしれませんね(Campanula  punctata var. hondoensis)。

ヤマホタルブクロはホタルブクロの変種ですが、前者は萼片の間の湾入部分が盛り上がるのに対し、後者はそこに後方に強く反り返った付属体がある。前者は文字通りに比較的高地に多い、という違いはありますが、一見してはほとんど同じに見えます。ホタルブクロは園芸花として平地の庭でもよく見かける花で、私の実家でも父親が昔、白花のホタルブクロを植えていました。しかし近似種とはいえ山岳地の自然状態で見るとまた格別の味わいがあります。

ホタルブクロは昆虫の蛍(ゲンジボタル、ヘイケボタル)を捕まえた際にこの花の中に蛍を封じ込んで、花片を通して明滅するようすを味わったことによるとの説があります。暗闇の中でそう都合良く傍らにホタルブクロなりヤマホタルブクロが咲いているかは疑問ですし、花片はもろくて破れやすいので「容器」としては不適な気がします。したがって花の名前が先にイメージとして固定され普及してあって、この花に蛍を入れて云々はその後の作り話かもしれません。

一方、提灯のことを火垂(ほたる=中に火を入れてつり下げる)とも呼ぶことから、昆虫のホタルも植物のホタルブクロも語源はむしろ両方ともそちらからきている可能性が大きいようです。

 

日本海日没

数日前に鳥海山の西斜面中腹、標高1000m付近で撮った、日本海に沈まんとする太陽です。海面に反射する光芒が強烈です。手前右側の三角峰は観音森(標高685m)。カメラのゴーストがいろいろ写り込んでいる駄目写真ですけど。

下の写真はそれより30分くらい前の、鉾立の上の見晴台から据え付けの双眼鏡で頂上方面を眺めているところです。100円で3分くらい?

 

 

消防学校一日防災体験入校

もう10日ほども前になるのですが7月29日(日)に、東田川郡三川町にある山形県消防学校の子ども向けの一日防災体験入校のようすです。小学校およびその保護者が対象で、年1回開かれています。たいへん盛況で、先着100人の限定。午前10時から午後3時まで、途中食堂での昼食(参加費500円に含まれる)をはさんで、建物内外での盛りだくさんの内容でした。

うちの子どもも消防車・救急車や建設機械などが大好きで、自宅近くの消防署にはよく出かけますし、出初め式などのイベントにも毎回欠かさず見学に行きます。今回の体験入校も町の広報に載っていたのを見て妻がすぐに応募しました。この日は朝一番で、次週の学童保育のキャンプのための草刈作業などがありあわただしかったのですが、なんとか受付時間に滑り込みセーフ。ところが先着100人で限定人数のはずなのに座る席がありません(その他にも、運営面では不備・不慣れが目立ちました)。

消防車や救急車に乗って走行したり、下の写真のような放水体験やハーネス(安全帯)・ヘルメットを付けてのはしご上り、横に渡したロープの横断などに挑んでみました。はしごは10mまで上れるようにセットしてあったのですが、うちの子どもは6mくらいでギブアップ。

午後からは防災学習館内で震度7までの地震模擬体験、消化器放水体験、火災時煙からの退避訓練などをしました。とても暑い日でたいへんでしたが、子どもたちもおおいに楽しんだようです。

 

 

カブトムシ捕獲作戦

 

仕事のお得意先でもある方からの依頼で、自然状態でのカブトムシを捕獲することになりました。近く東京からお孫さんが帰省するそうで、その際にペットショップや昆虫館のようなところで買うのではなく、野山でほんとうに生きているカブトムシを自分の目で見たい、つかまえたいとのこと。

うちにも小さい子がいるので、それではということでまず下見に夜に村外れから山あいにかけての国道を走ってみました。灯火の下に集まっている虫を探す(拾う?)ためです。しかし思ったより少なく、クワガタの雌を2匹捕獲したのみで、カブトムシは一匹も見つけることができませんでした。ミヤマクワガタなどの大きなクワガタの頭部の死骸はいくつか転がっていましたが、これは夜明けを待ってカラスなどがつついたものの残滓でしょう。

じつはすでに家ではカブトムシを数匹飼っており、それは妻の実家からいただいたものです。そこでその場所を聞き出し、翌朝5時にお客さん(おじいさん)とそのお孫さん、お孫さんのお母さんと、私と子どもの総勢5人で出かけました。遊佐町で庄内砂丘の一画です。メロンやスイカなどの畑が連なるあたりのそばの雑木林で、しばらく探すうちにコナラの幹に10匹ほどのカブトムシが群れているのを見つけました。夜が明けたばかりでまだ気温が低いせいか動きが鈍く、素手で簡単にとることができました。みな歓声をあげていましたが、私自身も自然状態でのカブトムシの群れを見るのは何十年ぶりです。

肝心のお孫さんのK君は、あれほど切望していたのにいざ実物を目前にするとおじけづいてしまい手が出ません。かわりに結局大人がほとんど捕まえることになりました。2本のコナラの木からカブトムシの雄と雌、合わせて15匹くらいいったんは袋に入れたのですが、もちろんこんなたくさん飼えるわけもなく、また現在では非常に貴重な野生のカブトムシですので、1ペアだけ持ち帰ることにして他は放しました。

都合1時間ほどのミニ探検行でしたが、子どもたちには得難い経験になったと思います。

 

カラフル?

なんというか、じつにもって残念な光景です。呆れて言葉も出ません。

子どもが夏休みになって、学校から各自、家庭に持ち帰ったアサガオの鉢植ですが、鉢や支柱・支輪が青や黄の鮮やかな色のプラスチック製で、かつへんな湾曲をえがいています。赤紫色のアサガオがいくつか咲いていますが、せっかくの花がこれでは色彩的に台無しですね。鉢などはあくまで植物の背景であり引き立て役でなければ。黒子が表に出てどうする!

こうした鉢植えにかぎらず幼児・児童向けの用具というのはなぜだかカラーリングがめちゃくちゃです。いわゆるカラフルにすれば当の子どもが喜ぶとも思えないしそんなようすは見られないので、それはまったく大人の側の「子どもにはそれが似合う」という一方的思い込みと先入観にすぎないでしょう。学校教育だと図画工作などの授業もあるわけですが、色彩感覚を育てみがくということをたぶん一度もまともには考えていないことがよく分かります。

 

天然杉の座卓

 

先日、酒田市内のK様宅に納品させていただいた天然秋田杉の座卓です。大きさは幅1350mm、奥行850mm、高さ330mmで、甲板(天板)は板目の板一枚と柾目板1枚を矧合て850mmとしています。同じ奥行と高さの座卓をすでに1卓使われており、大勢の人が集まる際にはこの天杉の座卓と並べて使用される予定とのことです。

材料はお客様からの持ち込み=支給材です。当初の見込みでは甲板がもうすこし薄くなる可能性があるということで、4本の脚を長手・妻手の幕板でつなぎ、それを甲板裏に駒止するつもりでいました。しかし実際に甲板用の幅広の板に水平の墨を出して手鉋で削ってみたところ、それほど大きな反りや捻れ、傷・汚れはなく、60mm近い厚さに仕上げることができました。1カ所あった死節は厚さ4.5mmで象嵌の手法で埋木しています。

せっかくの材料なのでわざわざ薄くするのもどうかということで、結局幕板はなし、そのかわり4本の脚の頭にそれぞれ2枚のホゾを作り、それを甲板の上まで通してクサビで締めています。下の写真がそれで、色の濃い長方形がホゾの頭、そのホゾの中で木目の向きの異なる細い材がクサビの頭です。もちろん甲板の表面とは完全にフラットに削りそろえています。

材料はスギなので柔らかく傷もつきやすいのですが、手触りはとても温かくいい感じです。比重が小さく柔らかい材料は、そのぶん空気を含む割合が多いので断熱性が高いのです。とくに冬場は硬木の座卓のようなヒヤッとした感触がなく、その違いがはっきり分かるでしょう。

 

ヤモリ

台所の窓ガラスにヤモリがへばりついて、室内の明かりに寄ってくる虫を捕食しています。ガラスの向こう側にくっついているのを室内側から撮影しているので、赤味を帯びた白い体の裏面がよくわかります。居間の網戸にくっついていることもよくあり、少なくとも3匹のヤモリがわが家には棲みついているようです。うちの猫がそれをねらって室内側からとびかかることもあるのですが、ヤモリは完全に人家近傍での暮らしに慣れていて、まったく意に介しません。この写真を撮影しているときもガラスをこんこん叩いても微動だにしませんし。

 

このヤモリは正確にいうとヤモリ科ヤモリ属のニホンヤモリ(Gekko  japonicus)で体長は10〜14cmくらい。中国東部と朝鮮半島、日本では本州・四国・九州に分布しています。図鑑によっては福島以南の本州と書いてあることもありますが、私の子どもの頃から身近かにふつうに見かける生き物でした。ただし学名にjaponicusとあってもじつは日本固有種ではなく、平安時代以降に日本に移入されたもののようです。したがって日本ではまったくの自然環境には生息せず、人家の近くにしかいません。

人間に悪さをすることはなく害虫などを補食してくれることから、漢字では家守または宮守と記すように古くから親しまれてきた爬虫類です。手袋を広げたような四肢や金色の目、笑っているような口元など、よくみればかわいい生き物です。つるつるしたガラス面でも、天井でも逆さになったまま自在に動けるのは、四肢の指ごと趾下薄板が発達していてそれで張りついているからだそうです。

繁殖は卵生で、5〜9月頃に1〜3回に分けて2個ずつ卵を産みます。冬は壁の隙間や縁の下などで冬眠しますが、最近の隙間のすくない密閉度の高い住宅では彼らも棲みづらいかもしれませんね。