鳥海山の標高1200m付近に咲いていたヤマホタルブクロ(山蛍袋)の小群落です。登山道の傍らに数十個の花が開いていました。長さ5cmほどもある大きな吊鐘型の花がとても目を引きます。キキョウ科ホタルブクロ属、高さ50cm前後になる多年草です。葉は互生し三角状卵形〜披針形で長さ5〜8cm、分布は本州の東北地方南部〜近畿地方東部とのこと。とするとこれは北限のヤマホタルブクロかもしれませんね(Campanula punctata var. hondoensis)。
ヤマホタルブクロはホタルブクロの変種ですが、前者は萼片の間の湾入部分が盛り上がるのに対し、後者はそこに後方に強く反り返った付属体がある。前者は文字通りに比較的高地に多い、という違いはありますが、一見してはほとんど同じに見えます。ホタルブクロは園芸花として平地の庭でもよく見かける花で、私の実家でも父親が昔、白花のホタルブクロを植えていました。しかし近似種とはいえ山岳地の自然状態で見るとまた格別の味わいがあります。
ホタルブクロは昆虫の蛍(ゲンジボタル、ヘイケボタル)を捕まえた際にこの花の中に蛍を封じ込んで、花片を通して明滅するようすを味わったことによるとの説があります。暗闇の中でそう都合良く傍らにホタルブクロなりヤマホタルブクロが咲いているかは疑問ですし、花片はもろくて破れやすいので「容器」としては不適な気がします。したがって花の名前が先にイメージとして固定され普及してあって、この花に蛍を入れて云々はその後の作り話かもしれません。
一方、提灯のことを火垂(ほたる=中に火を入れてつり下げる)とも呼ぶことから、昆虫のホタルも植物のホタルブクロも語源はむしろ両方ともそちらからきている可能性が大きいようです。