月別アーカイブ: 4月 2012

春の雲

三日くらい前の写真ですが、鳥海山にかかる柔らかい感じの雲です。麓以外はもちろんまだまったくの雪山で冬山ですが、日差しもだんだん強くなってきて雲はもう春の雰囲気ですね。

 

iPhone 4S

言わずと知れた(?)iPhone 4S(アイフォーン4S)です。多機能携帯電話、スマートフォンの代名詞ともいえる米国アップル社の携帯電話ですが、じつにもってすばらしいです。

これまで3年間あまり使用していたのはやはりアップルのiPhone ですが、3Gという2代目のもの。したがってその後に出た3GS>4>4Sということで、3周遅れでようやくトップに追いついたかっこうになりました。年内には次のモデル=iPhone 5が出るというウワサもあるのですが、それはそのときにあらためて考えましょう。

数日前に交換したばかりでまだよく分かっていないところが多々あるのですが、間に3GSと4の二つのモデルが入っているせいか、その進化にはたいへん驚きました。まず液晶が非常に精細できれいです。じっと目をこらしてもピクセルが分からないくらいで、3Gとの差は歴然としています。とくに小さな文字は輪郭がにじまずくっきりしているので読みやすいです。ほとんど印刷物なみ。それからタッチスクリーンの反応がじつに適格ですばやくなめらか。まずねらいを外すことはありません。前機種でもとくに大きな不満はありませんでしたが、今回はそのスムースさの度合いが一段と向上しています。搭載カメラも画素数が8メガと上がり機能もずっとよくなったので、このiPhone 4Sがあればコンパクトデジタルカメラならなくてもいいかもしれません。

機能面の改良や向上もさることながら、なんといってもデザインがいい。全体的なバランスもいいですし、ほんとうに微細なところまでこれ以上はないだろうなと感嘆するほど煮詰められています。それでいて、非常によくできたデザインワークがたいていそうであるように、結果としてはそうした苦労の跡をみじんも感じさせないクールなたたずまい。私も木工人の一人として木製品のデザインを考え自ら製作しているわけですが、このiPhone 4Sのデザインはとても刺激的であり示唆に富んでいます。

携帯電話としての用が足りるだけでいいのであれば、スマートフォンでなくとも充分で、むしろ機能を徹底的に絞り込んだ「らくらくほん」みたいなもののほうが実用的ではあるでしょうね。お金もあまりかかりませんし。それに比べこのiPhoneをはじめスマートフォンは毎月の基本料&使用料がけっこうかかります。それが負担ではないといえばウソになりますが、しかしこのiPhone 4Sの外観およびインターフェースのデザインのすばらしさを一度体験してしまうと、他の携帯電話はまったく色あせてみえます。

 

黒柿の木取

写真が小さくて分かりづらいと思いますが、3枚ある板のいちばん上は孔雀杢の黒柿、その下の2枚は部分的に孔雀を含む上杢の黒柿で共木のブックマッチ。厚さは10〜13mm、幅は125mm、長さは割れなどをのぞいた有効寸法で450&930mmです。もちろん完全に乾いた板。

じつはこれは指物で箱を作るということで、他の方からの依頼があって当工房でラフな木取をしたものです。「孔雀杢で」という希望があったのですが、全部はとても無理なので、天板のみ孔雀杢の板とし、4枚の側板はなんとかそれに準ずるものにしました。側板の方の材料には若干の干割れがあるので、いいとこどりで再木取ができるように余裕をみました。うまくいけば左右と前後、それぞれの側板をブックマッチにできるかもしれません。

黒柿でかつ孔雀杢やブックマッチで箱物を製作するというのは、最高度にぜいたくな話です。費用的な面もむろんありますが、それ以前にそのような特別な黒柿材を用意することがすでに今日では超難問だからです。

 

猫柳

 

 

きのうの夕方、月光川縁を散歩していたらネコヤナギ(猫柳)がだいぶ膨らんでいました。名前の通り、銀白色の花穂が猫の肢体を連想させます。さわってみてもすべすべしたいい感じ。雌雄異株で、赤みがありやや粗い感じの花穂が雄株、銀白色でより緻密な毛の花穂が雌株とのこと。

一方すぐそばの河川公園の芝生の上にはタンポポが二輪だけ咲いていました。おそらくセイヨウタンポポだと思いますが、丈は3cmほどしかなく、ほとんど地面にへばりつくようにして咲いています。葉も小さいです。花びらが乱れているのは先日の猛烈な風のせいかな? もっと花茎が伸びて丈の長くなったタンポポのイメージからは遠く、同じ植物とは思えないほどです。ハコベの仲間も白い小さな花を咲かせており、ようやく春到来でしょうか。

 

 

 

 

 

 

ホゾ切鋸

この前も書いたように、当工房ではホゾ組は外まで貫通させてクサビで締めることが多いのですが、後でそのホゾの頭を1〜2mm程度残して切り落とします。あるいは抽斗内部や背板や駒止の駒などをステンレスの木ネジで止めてから、その下穴に打ち込んだダボ(短い丸棒)の余分を切り落とします。その際に活躍するのが写真上の鋸(のこぎり)です。

下方の鋸が通常のもので、ごく薄い鋼に7寸目くらいの細かい刃が刻んであり、そのままではへなへなしすぎるので身を厚い丈夫な背金で押さえています。替え刃式ですが良く切れるので、30年以上前からこの手の鋸を細かい細工によく使用しています。写真のものはレザーソー工業というメーカーのレザーソーという製品です。玉鳥というブランド名のほうが有名でしょうかね。

それで切れ味がすこし鈍ってきた鋸刃を上のように短く切断し、合わせて背金と柄も半分くらいまで詰めました。クサビの頭やダボの頭をカットするときに空間的な余裕がなく、下のようなふつうの既製品の鋸ではつかえてしまってうまく切れないときに使います。見た目は文字通り寸詰まりで不格好ですが、重宝します。もちろん「ダボ切り」などと称する小振りな鋸も売られているのですが、自作で間に合うのならそれにこしたことはありません。

ダボなどには接着剤を併用することも多いので、細工用の本来の鋸をその接着剤で汚したくないという理由もあります。付着した接着剤は、鋸身を背金からはずして丸ごとしばらく水に浸けておけば、酢酸ビニールエマルジョンなどの水溶性接着剤ならきれいに落ちてしまいます。鋸を水に浸けるなどという非常識なこともいわゆる「廃物利用」なら平気です。もっともレザーソーの刃自体がもともと錆びにくいようなコーティングが施されているのですが。

 

カミキリムシ

材料置場でクロガキ(黒柿)をチェックしつつ他の材料も整理していました。その中にめちゃくちゃに虫に食われたヤマザクラの板が一枚ありました。工房に持って行って、ぼろぼろの樹皮を取り去ってみると、虫が食った跡が中からきれいに現れてきました。

まるで迷路といった感じですが、これはこれでずいぶん面白みがあります。まさに自然が成す不思議さのひとつで、樹皮の表面と材木との薄いわずかな隙間を虫が縦横無尽にすすんで、樹皮のほとんどと白太のまだ比較的やわらかい部分をすこしかじったようです。こういう材料は望んで得られるものではなく、まったく偶然の産物。製品にへたに使えばキッチュ、ゲテモノ趣味にしかなりませんが、上手く使えばもしかしたらとびきり魅惑的なものになるやもしれません。

微細な木屑(つまり虫が食んでその腸を通過した糞か?)をタワシでこすり落とし、穴に詰まったものをエアブローしていたら、なんとその穴から幼虫が3匹出てきました。写真の右上に見えている白いふたつの物体がそれです。これはカミキリムシの幼虫で、俗に鉄炮虫と呼ばれるやつですね。身体はフニャフニャでひどく柔らかいのに頭部だけは硬く、その強力な顎で木を噛み砕くんですね。すごいです。

幼虫は工房の石油ストーブの上に置いてあぶって食べてみました(野放しにはできませんからねえ)。こうばしくておいしかったです。

 

4/3の胴腹ノ滝

4月になってもまだまだ寒い日が続いています。その上3日の夜から4日にかけては台風なみの強風が吹き荒れ、トタン屋根がはがれたりビニールハウスの損壊、停電などの被害があちこちで出ました。さらには驚いたことに自宅から工房に向かう途中で、電信柱が数本傾いていまにも倒れそうになっている光景に出会いました。おそろしいです。

写真は4月3日午前9時頃の胴腹ノ滝ですが、遠くからでも一目で分かるほど水量が増えています。月光川や日向川といった河川のほうはいま雪解け水でかなり増水していますが、胴腹ノ滝の湧水もこのところ急速に湧出量を増やしつつあります。水温は右が8.9℃、左が8.8℃で、前回3月26日に比べ左右とも0.1℃高くなっています。気温は7.3℃でした。また鳥居の前の表流水は5.4℃と、前回より0.9℃も上がっています。

まだしばらくは日によって雪がちらつくことがあるようですが、さすがに積もりはしないので、胴腹ノ滝の湧水も順調に増えていくと思います。引き続き推移を見守ります。

 

 

大入

 

当工房で制作した家具の説明にしばしば「大入(おおいれ)」という言葉が出てきますが、その理由を先日訊かれたので、あらためて説明したいと思います。写真は以前にこしらえたテーブルの脚部で、下の方で横に寝ているのが長手の幕板、中央が脚(左側が上)、上の立っているのが妻手の幕板です。

部材の接合はホゾ組を基本としています。上のテーブルの例でいうと脚にホゾ穴を二方向から開け、幕板の端に小根付ホゾを作りホゾ穴に差し込みます。テーブル類の脚のように強度を要する場合はホゾ先を脚の表側まで貫通させクサビを打ち込んで固定します。幕板は脚に対して当然ながら同じ高さで組むのですが、ホゾは通常長手側が下、妻手が上になるように脚の内部でぴったり交差しています。幕板に開いている小さな長方形の穴は、脚部と甲板を駒でとめる際の駒用のホゾ穴です。

これだけでも目の通った乾燥材を用い加工精度がよければかなり丈夫に組みあげることができます。ホゾの根元のほうにはふつう、相手の部材に平面密着させる胴突(どうつき)というところがあります。これがあることで表に現れる部分の長さを正確に定めることができるので、なくてはならない必須の箇所といえます。しかしホゾを設けた部材とホゾ穴を開けた部材とは、ホゾの部分で接合しているだけです。部材の断面が仮に厚さ6cm幅9cmあったとしても、胴突を天地左右の四方に設けまたホゾ穴側の部材の残り強度を考慮すると、ホゾの大きさはせいぜい厚さ4cm幅7cmくらいの大きさにしかできません。部材断面が6×9=54cm^2に対して、4×7=28cm^2と半分の大きさです。

しかしこれに大入を加えることによって強度をさらに増すことができます。それは胴突の部分も相手の部材にすこしだけ(2〜3mmくらい)潜り込むような加工をすることです。面取りをし仕上削りも終えたホゾ側の部材を、ホゾ穴側の部材に仮組して胴突まわりを正確にけがきます。次いで仮組を解除してからけがいた線の内側を、線より0.2〜0.3mmくらい小さく全面均一の深さに彫り込みます。深さは2〜3mmほど。トリマーに径6mmのストレートビットを装着してやるとやりやすいでしょう。いえ率直なところトリマーが使えるようになってこその大入加工であって、そうでなければこれほど面倒で精緻な加工などやってはいられません。仕上げは5厘(1.5mm)からの追入ノミで慎重に手で行います。

ホゾ側の部材の断面寸法は、いま彫り込みをした大入の穴よりわずかに大きくなっているので、実際に本番の組立をする前に胴突の回りを1mmほど面を取り、さらにまんべんなく端部を木殺(きごろし)します。木殺とは木の繊維・構造を破壊しない程度に玄翁やハンマーなどで軽く叩いて部材を圧縮することです。木殺された部分は組立後に湿り気を与えることで膨張復元します。

ホゾ組みだけでなく大入も加えた接合は、部材の断面全体で外力を受けるので、ホゾとホゾ穴のみによる接合に比べずっと強くなります。また無垢材の宿命ともいえる温度湿度の変化による材の膨張収縮を逃がす役目も果たします。

大入はじつは大工仕事で、とくに和室の造作(仕上・化粧材の加工取付)の場面などでは珍しくない作業です。私も今の家具作りの前は大工仕事を5年ほどやっていたので、そこでは大入はごくふつうの接合方法でした。しかし現在、家具作りでこの大入を恒常的に採用している木工房・木工家はかなり稀だと思います。理由は簡単で、通しホゾ+クサビ締めだけでもめんどうなのに、さらに大入までやったのでは採算を取るのが難しいからです。とりわけ大入は、完成してしまえば外観からは大入がほどこしてあるのかないのか、きっちり加工してあればあるほどまったく分かりません。他人が、あるいはお客さんが分からない理解できない部分によけいな手をかけるのは、商売的にははなはだまずいわけです。

例えば無垢材で椅子を製作するとします。基本的な外観がまったく同じだとしても、接合箇所を表には現れない形式のホゾ組にとどめるのと、上記のように通しホゾ・クサビ締め+大入までほどこすのとでは、椅子1脚の製作所用時間に3割前後の差が出ます(出ました)。その3割の差をそのまま価格に上乗せできるかどうかはかなり難しいことです。当工房ではコスト的にはきびしいのですが、製品の耐久性と美観からいえばやはり大入までほどこすのがベターであるとの考えから、お客さんにはていねいに説明しながらなんとかこの技法を堅持していきたいと思っています。