月別アーカイブ: 4月 2012

天然杉

酒田市の方から材料持ち込みでの座卓の製作依頼がありました。左の写真がその材料ですが、知り合いからいただいた天然杉だそうです。検分したところ幅135cm奥行85cm高さ33cmの座卓が製作できそうだということで、正式な図面と見積もりを提示しました。

材料持ち込みでのご注文も原則的にお受けしていますが、こうしたケースでいちばん心配するのが材料の状態です。お客さんのほうではもちろんそれなりの材料だと思うからこそこれを活かしたい、そうすれば材料代も浮くしと判断されるのですが、実際には必ずしもそうではないことがあります。材料がまだ乾いていない、割れている、腐れや虫食いや変色がある、異物をかんでいる、反り捩じれがあって所定の寸法に足りないといったことです。またそうした物理的な欠陥がないとしても、客観的にみてほんとうに優良な材料ということはめったにありません。

私たち木工人は仕事柄、それこそ極上の材料や非常に貴重な材料をいやというほど見ています。テーブル・座卓の甲板(天板)一枚が数十万〜数百万などはざらにあります。ときに1千万をこえるものも。そうした希少な材料に比べれば、お客さんが保管されている材料は、当然ではあるのですがほとんどの場合、たいへん失礼ながらあえて申し上げますが中級品以下です。もし材料支給でなければ製作者としては正直なところあまり使いたくないと思うようなレベルの材料であることも珍しくありません。リスクが大きすぎるからです。

むろんその材料に特別な思い入れや経緯がある、お金の損得に簡単に換算できるようなものではないという場合もありますね。だからできる限りはご希望にそうようにしたいと思っています。ただ、材料の程度のいかんにかかわらず加工の手間はそう大きくは変わりませんので、材料が並以下だと結果としてかえって割高なものに感じられてしまうかもしれません。材料費に対し「加工賃+諸経費」が倍くらいになるのがふつうですから、材料支給でもそれほど安くなるわけではありません。そこはぜひご理解いただきたいと思います。

 

『山歩きの雑記帳』13号

山形県酒田市の佐藤要さん(佐藤要写真事務所 tel 0234−23−3533)が発行しているA5判36頁ほどの冊子ですが、タイトルおよび「みちのくの山懐から」という副題が示すように東北地方の登山やハイキングや山岳にまつわる話題を載せた雑誌です。季刊くらいの間隔で出されているのでしょうか、すでに13号を数えています。定価は500円。

小誌ながら中身はたいへん濃いです。佐藤要さん自身が登山家であり写真家ですが、今回執筆の8名の方もそれぞれ熱烈な山岳愛好家。今号の記事で私がとくに惹かれたのは坂本俊亮「安楽城の怪峰・難峰」です。

山形県北部の現在の真室川町は1956年に安楽城(あらき)と及位(のぞき)のふたつの村が合併してできた町ですが、旧安楽城村は北に丁(ひのと)山地、東に弁慶山地をかかえています。両山地ともに標高は1000m前後ながら随所に険しい岩稜岩壁と深い谷を成し、登路はごくわずかしかなく山小屋は皆無です。近隣の鳥海山などに比べれば来訪者も雲泥の差。その存在すらよほど山に詳しい人でなければ知られていませんし、まして実際に登ったことのある人はかなり限られているでしょう。私自身も丁山地は主峰の丁岳(1146)、加無山(997)しか登ったことがありませんし、弁慶山地東面では弁慶山(887)と八森(799)くらいです。西面は二ツ山(937)・納屋森(920)・薬師森(668)・経ケ蔵山(474)・猪ノ鼻岳(約810)・胎蔵山(729)といったところ。

ただでさえ登る人の少ない丁山地で、しかも今回の号に載っていたのは雁唐山(1045)と影丁岳(987)と石蓋狩山(772)ですから、これはなめるように読むしかありません。影丁岳なる名前がいつごろ付いたのか知りませんが、丁岳への唯一のまともな登山道ともいえる秋田県側からの登路をたどって丁岳に登頂し、やれやれと思いつつ南西方面(山形県側)を眺めわたすと、明神沢の険谷の向こうに見える三角錐が影丁岳です。みごとな岩峰ですね。

じつは私もずっと昔、高校山岳部の頃ですが、明神沢を遡行して丁岳の直下まで至りながらも日没で時間切れ。増水の心配もあったので影丁岳(当時は無名峰)側の斜面途中のわずかな平坦地でビバークしたことがあります。翌日はスラブをなんとか登攀して稜線に出、そのまま丁岳に登頂するつもりだったのですが、途中のキレットに行く手を阻まれて断念。結局ふたたび明神沢に戻り対岸の急斜面を登行して丁岳頂上にたどりついた経験があります。当初の計画では県境稜線を東に縦走して甑山(981)あたりまで行くはずだったのですが、まったく無理でしたね。下の写真は2004年5月2日に丁岳頂上から私が撮影したものですが、これを見るたびに当時の惨憺たる山行を思い出します。写真中央の黒い垂壁が突破できなかったキレットの箇所です。右側の三角峰が影丁岳で、左側奥には弁慶山〜八森の馬蹄形障壁が青白くのぞいています。

 

十数年前に真室川町によって高坂ダムのほうから石蓋狩山の懐経由で尾根伝いに丁岳に至る登山道が開かれたそうですが、依然として上級者向きの難コースのようです。往復で十時間ほどかかり、ザイル等の携行も必須だそう。一度行ってみたい気はしますが、一人ではちょっと無理かな。こんなコースではもしなにかアクシデントがあっても救助もままなりません。ほかにも丁山地では甑山や萱森・有沢山など興味深い山がたくさんあるのですが、はたしてこれから実際に登ることができるかどうか。

今号では三浦孝子「早春の弁慶山」、多羽田啓子「佐渡 アオネバ渓谷 花の谷」も良かったです。

 

烏が三羽

鳥海山の南西斜面にちょうどいまおもしろい雪形(ゆきがた)が出ています。西鳥海とも呼ばれる笙ケ岳(1峰は標高1635m)の下の雪面に右から、腰を曲げて種を撒いている爺さん(または婆さん)、その左足元にさっそく種をついばみにやってきたカラス、やや離れて木の枝に止まっていま飛び立とうと羽を上げているカラス、さらに左に騒ぎを聞きつけて飛んできている途中のカラスです。

笙ケ岳直下の種まき爺さん・婆さんはこの時期、毎年のように新聞やテレビなどに取り上げられますが、同時にカラスが3羽出現していることはあまり知られていません。「権兵衛が種撒きゃ、烏がつつく〜」とよく唄われますが、まさしくその歌そのままのじつにみごとな雪形です。季節的にもちょうどぴったりの内容ですし。

雪形は真っ白だった山の雪が徐々に溶け、それにつれてできる残雪の形、または地面の形を人や動物などに見立てたものです。前者がいわばポジ、後者がネガの雪形なわけですが、件の種蒔き爺さんや烏はネガの雪形ですね。ポジの雪形も他にあることはあるのですが、ネガに比べるとやはり分かりにくいです。また雪形はしょせん主観的な見立てなので、人によってはもっとたくさんの雪形を指摘することがありますが、ちょっと無理な連想も多く、一般の賛同を得ることは難しいと思います。それにいつも天気がよくて山がきれいに見えるとは限りませんので、最低でも1〜2週間はその見立ての形を維持できるような雪形でないとだめでしょう。

下の写真にもじつは種まき爺さんと対になる婆さんや(その場合は左向きが婆さんで右向きが爺さん)、鍋森の下に飼い葉桶に首を突っ込む馬も見えているのですが、上のような理由でわかりづらいかもしれません。おそろしいのは雪形は一度それとはっきり認識してしまうと、そのあとは嫌でもその形にしか見えなくなってしまうことです。

 

ショウジョウバカマ

 

 

山あいの渓流近くや林野の湿った場所で、雪が消えるそばからまず咲き始めるのがショウジョウバカマです。ショウジョウバカマ(猩々袴)はユリ科ショウジョウバカマ属の多年草で(Heloniopsis  orientalis)、和名は花を猩々の赤い顔に、葉を袴に見立てたものといいます。または能の猩々の衣装によるとの説もあるようです。

写真は鳥海山南西麓標高230mあたりの湧水の流れのそばに咲いていたものですが、沢筋の直近で比較的明るい開けたところに点々と生えており、ところどころ小群落を成していました。雪に圧迫されたロゼット状の根生葉はだいぶ痛んでいますが、その中心から短くかかげた花茎の先に淡紅色または紅紫色の花を数個横向きに付けています。まれに白色の花もあるはずですが、今回はみかけませんでした。

同所に咲いていたのはキクザキイチゲが少々くらいで、他の草花はまだこれからのようです。今冬はわりあい雪が多かったので、スプリングエフェメラル=春の妖精たちも出番が遅れているのかもしれません。

 

チヂレウラジロゲジゲジゴケ

 

菌類と藻類が共生する植物である地位類の一種で、たぶんチヂレウラジロゲジゲジゴケです。

なんとも奇妙な名前ですが「名は体を表す」の典型例で、下の写真で分かるように端のほうは自己相似性の形=フラクタルのようなあんばいに縮れているし、裏側は表側よりさらに色が白い。また子器は浅いお椀のような形で盤が褐色。その縁は鋸歯状に裂けている(肉眼ではちょっと分かりにくい)あたりがゲジゲジを連想させるということかもしれないですね。右上の大きい方で直径10cmくらいです。

花が咲く一般的な草木と比べると、苔や菌類やこの地位類はたいていはひどく地味で、研究者もずっと少ないです。ムカデゴケの仲間だけでも国内に40種以上あるそうですが、その見分けは非常に難しいでしょう。高等植物・顕花植物は愛好者が多く調べ尽くされている感がありますが、地位類などはぜんぜんそうではないので、すこし勉強すれば「もの知りですね!」くらいのことはすぐ言われるようになるかもしれません。

 

4/11&20の胴腹ノ滝

3枚の写真はいずれも4月20日午前12時すこし前のものです。前回掲載した4月3日に対し11日→20日と水量がどんどん増えています。激しく落ちる水の音といい、その水の豊富さといい、この時期にはじめて胴腹ノ滝に接する人はまさに「おお滝だ!」と誰しも驚くのではないでしょうか。落差は3.5〜4mといったところです。湧水温は左右のそれぞれの滝壺のところで計っているのですが、水量が多く水しぶきでびしょぬれになるので雨具を着用して計測しています。

湧水の温度は4月11日・20日ともに右が8.9℃、左が8.8℃。これは4月3日と変わりません。11日はまだ気温のほうが低かったので水が温かく感じましたが、20日は気温14.3℃だったので反対に水が冷たいと思いました。昨年の記録をみると11月29日以降は気温のほうが水温より低くなっていますので、約5ヶ月ぶりに「冷たい湧水」というイメージが名実ともに復活したというわけです。逆に言えば約5ヶ月間はじつは「温かな湧水」だったのですね。

 

 

 

夕焼けの鳥海山

 

今日の夕方5時50分頃の鳥海山です。日没間近かで、雪をかぶった鳥海山が赤く染まっています。私は20代の10年間ほどは県外で暮らしていましたが、それ以外はずっと鳥海山の麓で暮らしています。つまり何十年もの間、数えきれないほど鳥海山を眺めてきたわけですが、いまだにその美しさと神々しさにつよく打たれることがあります。今日もそんな日でした。

 

黒柿集合

 

ずらりと並んだクロガキ(黒柿)の板。横幅で合計1.4m、高さは1.8mくらいですが、枚数にして10数枚あります。しかもその多くは黒柿の杢のなかでも最高峰といわれる孔雀杢です。ただしこの「集合写真」ではよく分かりませんが、杢のところにあいにく干割れが生じているものが少なくないのがまことに残念でなりません。

孔雀杢等の極上杢ではない、もっとふつうの黒柿ならもうすこしありますが、いずれにしろ防腐・清澄剤などに柿渋をほとんど使わなくなった今日では、黒柿は少なくなる一方です。超希少材といっていいでしょう。黒柿は古来より銘木中の銘木として重用されてきたこともあって、単価的にも世界でもっとも高価な木材のひとつです。

私はとりわけこの黒柿が大好きで、これを用いての製品をいろいろ作ってきました。しかし私が木工房オーツーを設立した28年前と比べても、黒柿はおどろくばかりに品薄となり値段が上がっています。銘木店に問い合わせても価格以前にもの自体がまずありません。たまにあってもサイズがごく小さなものや、孔雀杢などには及びもつかない並杢や染み同様のもの、未乾燥材といったことが大半です。

カキノキは本来は年輪が目立たない白っぽい散孔材で、黒柿の黒い紋様はいわば異物。そのためでしょうか、みごとな杢だと思うとちょうどその杢のあたりに割れが入ることが多いのです。黒柿は乾燥がきわめて難しい材料です。今もしこの孔雀杢の板が干割れや染みや腐れといった欠点がない材料ならば、ずっと昔ならともかく現在ではこの写真ほどの量だけでウン百万するかもしれません。無欠点の孔雀杢の6尺板一枚が30万といったところかな。

私がこうしてブログに黒柿のことを書くと、決まって「ぜひ材料を譲ってほしい」という方が現れます。しかしながら、そもそも私は材木商ではありませんし、ほかに売るほどたくさんの黒柿を持っているわけでもありません。たとえば上の写真の孔雀杢はすこし欠点があるとはいえ、私には虎の子中の虎の子です。今手放してしまったらもう二度と入手できない可能性が大です。申しわけありませんが、黒柿は売ることはできません。

 

発送

 

フォトスタンドBタイプ2個の発送作業をしているところです。インターネットを通じて家具類はたまに、小物類はときどきご注文をいただくことがあります。今回は大阪府の方からでした(Sさん、ありがとうございました)。

当工房では製品を家具店・雑貨店などに卸すことや委託販売などは現在行っていませんので、現物や作っている工房・人物などを実際に一度もご覧になることもなくご注文をいただくことは、たいへん恐縮であり、またたいそうありがたいことと受け止めています。小さな工房ですので家具の在庫は通常はありませんし、小物類もせいぜい数個〜20個程度の在庫があるだけです。在庫切れの場合でも、多少の日時をいただければできるだけ対応しますので、どうかよろしく願います。

※フォトスタンドBタイプについては、2011年7月13日および12月16日の記事を参照してください。価格は化粧箱入り税込定価3800円、送料は個数・金額にかかわらず一回500円です。

 在庫20個ほどあります(2014.11)。

変だ

さしさわりがあるので詳しいことは書きませんが、へんな家だ、と私は思う(すみません)。新築ぴかぴかの家ですが、張り出した玄関の上に既成品のアルミ+ポリカーボネートの風除室みたいなものが載っかっています。洗濯物干場でしょうかね。屋根両端の突起も、外壁の偽石張りも……。う〜ん、なんだかなー。