鳥海山の南西斜面にちょうどいまおもしろい雪形(ゆきがた)が出ています。西鳥海とも呼ばれる笙ケ岳(1峰は標高1635m)の下の雪面に右から、腰を曲げて種を撒いている爺さん(または婆さん)、その左足元にさっそく種をついばみにやってきたカラス、やや離れて木の枝に止まっていま飛び立とうと羽を上げているカラス、さらに左に騒ぎを聞きつけて飛んできている途中のカラスです。
笙ケ岳直下の種まき爺さん・婆さんはこの時期、毎年のように新聞やテレビなどに取り上げられますが、同時にカラスが3羽出現していることはあまり知られていません。「権兵衛が種撒きゃ、烏がつつく〜」とよく唄われますが、まさしくその歌そのままのじつにみごとな雪形です。季節的にもちょうどぴったりの内容ですし。
雪形は真っ白だった山の雪が徐々に溶け、それにつれてできる残雪の形、または地面の形を人や動物などに見立てたものです。前者がいわばポジ、後者がネガの雪形なわけですが、件の種蒔き爺さんや烏はネガの雪形ですね。ポジの雪形も他にあることはあるのですが、ネガに比べるとやはり分かりにくいです。また雪形はしょせん主観的な見立てなので、人によってはもっとたくさんの雪形を指摘することがありますが、ちょっと無理な連想も多く、一般の賛同を得ることは難しいと思います。それにいつも天気がよくて山がきれいに見えるとは限りませんので、最低でも1〜2週間はその見立ての形を維持できるような雪形でないとだめでしょう。
下の写真にもじつは種まき爺さんと対になる婆さんや(その場合は左向きが婆さんで右向きが爺さん)、鍋森の下に飼い葉桶に首を突っ込む馬も見えているのですが、上のような理由でわかりづらいかもしれません。おそろしいのは雪形は一度それとはっきり認識してしまうと、そのあとは嫌でもその形にしか見えなくなってしまうことです。