大入

 

当工房で制作した家具の説明にしばしば「大入(おおいれ)」という言葉が出てきますが、その理由を先日訊かれたので、あらためて説明したいと思います。写真は以前にこしらえたテーブルの脚部で、下の方で横に寝ているのが長手の幕板、中央が脚(左側が上)、上の立っているのが妻手の幕板です。

部材の接合はホゾ組を基本としています。上のテーブルの例でいうと脚にホゾ穴を二方向から開け、幕板の端に小根付ホゾを作りホゾ穴に差し込みます。テーブル類の脚のように強度を要する場合はホゾ先を脚の表側まで貫通させクサビを打ち込んで固定します。幕板は脚に対して当然ながら同じ高さで組むのですが、ホゾは通常長手側が下、妻手が上になるように脚の内部でぴったり交差しています。幕板に開いている小さな長方形の穴は、脚部と甲板を駒でとめる際の駒用のホゾ穴です。

これだけでも目の通った乾燥材を用い加工精度がよければかなり丈夫に組みあげることができます。ホゾの根元のほうにはふつう、相手の部材に平面密着させる胴突(どうつき)というところがあります。これがあることで表に現れる部分の長さを正確に定めることができるので、なくてはならない必須の箇所といえます。しかしホゾを設けた部材とホゾ穴を開けた部材とは、ホゾの部分で接合しているだけです。部材の断面が仮に厚さ6cm幅9cmあったとしても、胴突を天地左右の四方に設けまたホゾ穴側の部材の残り強度を考慮すると、ホゾの大きさはせいぜい厚さ4cm幅7cmくらいの大きさにしかできません。部材断面が6×9=54cm^2に対して、4×7=28cm^2と半分の大きさです。

しかしこれに大入を加えることによって強度をさらに増すことができます。それは胴突の部分も相手の部材にすこしだけ(2〜3mmくらい)潜り込むような加工をすることです。面取りをし仕上削りも終えたホゾ側の部材を、ホゾ穴側の部材に仮組して胴突まわりを正確にけがきます。次いで仮組を解除してからけがいた線の内側を、線より0.2〜0.3mmくらい小さく全面均一の深さに彫り込みます。深さは2〜3mmほど。トリマーに径6mmのストレートビットを装着してやるとやりやすいでしょう。いえ率直なところトリマーが使えるようになってこその大入加工であって、そうでなければこれほど面倒で精緻な加工などやってはいられません。仕上げは5厘(1.5mm)からの追入ノミで慎重に手で行います。

ホゾ側の部材の断面寸法は、いま彫り込みをした大入の穴よりわずかに大きくなっているので、実際に本番の組立をする前に胴突の回りを1mmほど面を取り、さらにまんべんなく端部を木殺(きごろし)します。木殺とは木の繊維・構造を破壊しない程度に玄翁やハンマーなどで軽く叩いて部材を圧縮することです。木殺された部分は組立後に湿り気を与えることで膨張復元します。

ホゾ組みだけでなく大入も加えた接合は、部材の断面全体で外力を受けるので、ホゾとホゾ穴のみによる接合に比べずっと強くなります。また無垢材の宿命ともいえる温度湿度の変化による材の膨張収縮を逃がす役目も果たします。

大入はじつは大工仕事で、とくに和室の造作(仕上・化粧材の加工取付)の場面などでは珍しくない作業です。私も今の家具作りの前は大工仕事を5年ほどやっていたので、そこでは大入はごくふつうの接合方法でした。しかし現在、家具作りでこの大入を恒常的に採用している木工房・木工家はかなり稀だと思います。理由は簡単で、通しホゾ+クサビ締めだけでもめんどうなのに、さらに大入までやったのでは採算を取るのが難しいからです。とりわけ大入は、完成してしまえば外観からは大入がほどこしてあるのかないのか、きっちり加工してあればあるほどまったく分かりません。他人が、あるいはお客さんが分からない理解できない部分によけいな手をかけるのは、商売的にははなはだまずいわけです。

例えば無垢材で椅子を製作するとします。基本的な外観がまったく同じだとしても、接合箇所を表には現れない形式のホゾ組にとどめるのと、上記のように通しホゾ・クサビ締め+大入までほどこすのとでは、椅子1脚の製作所用時間に3割前後の差が出ます(出ました)。その3割の差をそのまま価格に上乗せできるかどうかはかなり難しいことです。当工房ではコスト的にはきびしいのですが、製品の耐久性と美観からいえばやはり大入までほどこすのがベターであるとの考えから、お客さんにはていねいに説明しながらなんとかこの技法を堅持していきたいと思っています。

 

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