月別アーカイブ: 12月 2010

父の死

12月28日の午後6時すぎに父が死亡しました。食べ物の誤飲から呼吸不全、そして心不全となっての急死です。91歳の誕生日を間近にしてのできごとでした。

4年以上施設に入所し、今年になってからだけでも誤飲や肺炎などで何度も救急車で病院に運ばれていました。そのたびに目にみえて体力の低下をきたしていましたので、兄弟・親族は覚悟していたとはいえ、やはり実際にそのときになってみるとうろたえ悲嘆にくれ、たいへんでした。それでも30日に通夜、そして大晦日の31日の今日が葬儀と火葬で、なんとか正月前に一区切り終えることができました。

父は自分の代一代で会社を立ち上げ築いてきた人間で、私の木工業に対しては心配しながらもたくさんの助言や協力をしてもらいました。けんかもしましたが、なにもないところから非常な苦労の末に、それなりの技術者・経営者となりえたという点で、私と父とは深く共鳴するものがあったように思います。

しかしながら残念なのは、父の期待に十分にはこたえることができていないことです。

今回の父の死を、ひとつの道標として、今後もより高みをめざしていくつもりでいますので、今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。

洗面所の戸棚

あるお得意先でお風呂と洗面脱衣所を改築されました。そこで部屋がせっかく新しくなったので、タオルやら洗濯用小物などの物入れとして長く使用してきた藤のラックをなくし、木で新しく作ることになりました。それが写真の戸棚です。材料はすべてクルミ(オニグルミ)で、サイズは幅607mm、奥行320mm、高さ789mmとコンパクトなもの。中に固定の棚板が2枚あります。高さを抑えているのは上に脱衣かごをのせるため、奥行が浅いのは設置場所のスペースの関係と、収納するのが主にタオル類のためです。

ご予算の関係もありできるだけ簡略な作りとしました。また材料のグレードも最上級のものではありません。が、背板等にいたるまですべて無垢の木ですし、扉の鏡板はブックマッチ(本を開いたような左右対称の木目使い)です。本体側面と天板は5枚組み手です。

できあがってみると、こういうシンプルで小さめの戸棚もなかなかいいものだなと私自身も思いました。

五厘ノミ

家具作りはかなり細かな加工も多いので、数値は基本的にmm(ミリメートル)単位です。大きめの家具でも図面はみなmm表示ですし、作業する場合もmmですべて指示・確認します。部材の接合部などの要所は、さらに細かい0.1mm単位の精度が必要です。それなのに写真の五厘のノミって、いったい?

じつは私は木工を始める前は、首都圏方面で大工をしていました。工務店に見習で入り、20代後半の数年間を大工として建築現場で働いていたのですが、そこではまだ圧倒的に寸尺の世界でした。私はもちろんそれまでずっとメートル法で育ってきましたから、はじめはたいへんで、ひそかにセンチやミリに換算しながら作業をしていましたが、じきに慣れてしまいました。また寸尺のほうが大工仕事の実情には適しているとも思いました。建築の場合はサイズが大きいこともあり、mmではやはり作業する上では細かすぎるのですね。構造材などは乾燥収縮で1mmや2mmはすぐに変わりますから、あまり細かく言っても実際上意味がありません。

私が工務店に勤めて大工仕事をしていたのはもう30年近い昔の話になりますが、木工房を始めてからも材木屋さんとか大工さんなど、外部の人と話をするときはやはりメートル法より尺貫法でした。とくにすこし年配の方と話をするときは何尺とか何寸何分でないと話がスムーズにすすみません。手道具もその流れで、いまだにサイズを尺・寸・分で呼び習わすのが慣例です。ノミの場合もいちばんよく使う10本組の追入ノミ(おいれのみ)でも、小は一分から大は一寸四分まで、1分から2分刻みで段階的にそろえてあるのが普通です。ところがどうしても1分、すなわち3mm以下の溝や穴の加工をしなければならないことがたまにあります。そういうときに出番となるのが五厘ノミです。

刃先は1.5mmの幅しかないので、ふだんせいぜい一分のノミしか見たことがないと異様に細くきゃしゃに感じます。しかし、当然ですが、サイズは小さくともきちんとノミの基本的な形をしています。切れ味もたいへんいいです。あまり数が出ないからかもしれませんが、値段は六分(約18mm)のノミと同じくらいしたと思います。

胴腹ノ滝

鳥海山中で山形県側でもっとも有名な湧泉といえば、なんといっても写真の胴腹ノ滝(どうはらのたき。どっぱらのたき)でしょう。崖の途中から2本の滝となって湧水が流れ落ちています。お堂の後ろの左右に白く写っているのがその滝です。写真は今月21日に撮影したもので、今はかなり雪が積もっているはずです。

滝の高さは4メートルくらいですが、一年中水温9度前後の、冷たく清冽な水が豊富に湧いています。大雨が降った後や雪解けの時期はすこし水量が増えるようですが、雨水が直接流れ込んでいるわけではありません。比較的近いところで地中に浸透した水が地下水を押し出しているのだと思います。

以前は知る人ぞ知るくらいの湧泉だったのですが、20年ほど前にテレビや新聞などに紹介されるようになってから急に有名になりました。遊佐町白井新田地区の岩野の集落をすぎて、二ノ滝渓谷に向かう車道に入って間もなく、胴腹ノ滝入口の大きな看板があります。駐車場はなく路上駐車となるため、他の車の通行を妨げないように、すこし先の右折カーブのところでUターンして下り向きに縦列駐車するのが暗黙の約束。昔とちがって冬期でもこのカーブのところまでは町で除雪するようになっています。150mほど杉林の中を歩くと滝が見えてきます。

地元の人だけでなく他市町や県外などの遠方からも、滝を見に来たり湧水を汲みに来るひとがたくさんいます。春から秋にかけて休日で天気のいい日などはおおぜいの人で混雑するほど。私も最近は週に1回くらい、空のペットボトルを数本持参して飲料用に水を汲みに行きます。ときどきお賽銭箱に100円を投入します。町の施設などではなく、個人の私有地で、歩道の整備や滝のまわりの清掃などもみな個人がおこなっています。心ある方はカンパしてくださいな。

胴腹ノ滝の湧水は硬度が9~10程度と非常に低く、ミネラルその他の混じりけのすくないとても柔らかな水です。いわばノンミネラルウォーター。鳥海山には驚くほどたくさんの湧泉がありますが、そのなかでも群を抜くいい水のひとつだと思います。私は紅茶やコーヒーをよく飲みますが、ここの水でいれるとやはり一段とおいしく感じられますね。

もじゃもじゃ

工房窓際族の多肉植物、第三弾です。トゲだらけで、一見サボテンとまちがわれそうですが、ベンケイソウ(Crassulaceae)科セダム属のヒントニー(Sedam hintonii)という多肉植物です。サボテンの場合はトゲは葉が変形したものですが、このヒントニーのトゲは葉の一部で、柔らかいです。触っても痛くありません。トゲというより毛ですね。葉自体も柔らかですから、ていねいに扱わないとすぐに傷だらけになってしまいます。クリーム色の小さな花が春〜初夏に咲きます。

細く白い突起が一面に付いている「もじゃもじゃ」した感じや、葉の青白い色合いもすてきですが、じつはこれは栽培はけっこうな難物。原産地はメキシコで高山性のものなので、高温多湿にはめっぽう弱いようです。1993年に知人から分けていただいたものですが、二株のうちの片方はこじれて二三年で消滅。もう片方の写真の株も何度かの危機をくぐりぬけ、ようやく15cm×15cmほどの群生にあいなりました。

ごくごく乾燥気味に育て、日光もたっぷりあててやると葉が密に詰まっていいと思います。水や肥料はちょびっとしか与えてはいけません(灌水は月に2回程度。肥料はハイポネックスなどの液肥を3000倍くらいに薄めて、たまに)。花が咲く前に茎がぐーっとのび、咲き終わるとその茎は枯れてしまうので見た目がわるくなるのですが、へたに切り詰めると根元までぜんぶ枯れてしまいます。やっかいです。

ぎゅうぎゅう

うちの多肉植物は半分ほったらかしなので、あまり披露したくない気もしないわけではないのですが、先日12/23のセンペルビブム(たぶん)に続いての第二弾はベンケイソウ科タキツス属のベルラ(Tacitus bella)です。1属1種の植物で、初夏に真っ赤な大きめの花を咲かせます。昔はわりあいに珍品だったはずですが、その後人工交配の園芸品種も何種類か増え、いまではそれなりに普及しているようです(私は園芸品種にはまったく興味がありませんが)。ただし世話をやきすぎるとすぐ機嫌がわるくなりがちで、栽培はそれほど容易とはいえないかもしれません。

17年前の1993年に小さな株を園芸店で購入した時は、鉢の中央に親株が一つあり、仔株が二三付いていたくらいだったと思います。ラベルを見ると径5.5cmとあります。買ってすぐにプラスチック鉢を陶器の鉢に替えたのですが、その後はずっと同じ鉢のままここまで増えてしまいました。17年も植え替えなしでちゃんと生きて成長もしているというのは、ちょっと尋常ではないかも。最初の親株は枯れてしまったかわりに、仔株から出た孫株がその隙間を埋めて、現在は20頭がぎゅうぎゅうにひしめきあっています。全体で幅13cmほどあります。いかにも窮屈ですね。

先のセンペルビブムと同様にごく短い茎に多肉質の葉が密に付いていますが、このベルラは地を這うようにぺったんこな感じです。葉と葉の隙間もほとんどありません。やはり冬場は赤みを帯びて、全体がすこしくすんだ赤紫色になります。

多肉植物の紅葉

茎や葉、根などが通常の植物の形態にくらべ、いちじるしく肥大したように見える植物で、そうした部位の柔組織に水分を蓄えています。このような植物を多肉植物とよびます。まあ俗称で、植物学の正式な用語ではありませんが、以前よりはだいぶ一般的に名前も実物も浸透してきたようです。

写真の植物は、近くのスーパーで一昨年に買ったもの。たしか300円だったと思います。工房の事務所の窓際に他のサボテンや多肉植物十数鉢とともに並べています。水やりは5月から10月までの半年間でなんと合計10回程度。半月やそこら水やりをしなくてもぜんぜんへこたれないのがこの種の植物のいいところです(むしろ水や肥料をやりすぎると腐れたり徒長してしまいます)。一般の草花ではそうはいきません。

この多肉ははじめからラベルもなく種名はわかりませんが、たぶんベンケイソウ科センペルビブム属の多肉植物です。整然と並んだ肉厚の三角葉がきれいです。夏場はもっと緑色で赤みはわずかしかないのですが、10月下旬に今年最後の水やりをし、その後冬になるにつれ全体が赤くなってきました。寒さが続くとさらに赤みが増してきます。花も咲くみたいですが、それよりも冬場のこの「紅葉」を愛でるというのがこの仲間の本領のようですね。

それにしても買ったときに植えられていたフニャフニャのプラスチックの苗ポットのままです。それにもかかわらず大きさは倍以上になって、現在は4頭全体で幅13cmほどにもなりました。まるっきり鉢からはみだしています。けなげですね。来春はいいかげん植え替えせねば。

ケヤキ鶉杢

ケヤキのいささか変わった杢で、今回のは鶉杢(うずらもく)です。ウズラは小さな卵がスーパーでも売られているように、体長20cmほどのキジ科の小さな鳥。体色は褐色の地にベージュや茶色などの濃淡のまだら模様があります。ちなみに卵の殻の斑点は鳥の個体によってパターンがほぼ決まっているらしく、卵を見ればそれを産んだ親が特定できるそうです。ウズラは食用としてだけでなく愛玩用にも古くから飼われてきたようで、身近に見慣れた存在の鳥といえるかもしれません。

そのためか、材木で鳥の羽毛を重ねたような雰囲気の模様が出ているものを鶉杢と呼んでいます。前回12/21のケヤキ変杢(かわりもく)は年輪自体が不規則に波打ち揺らいでいましたが、鶉杢は年輪とはべつの、しかも比較的規則ただしい細やかな凹凸(濃淡)の模様です。ケヤキの杢では圧倒的に玉杢が有名ですが、鶉杢は珍しいです。

写真は部分を拡大したもので、実寸は幅30cm弱。2枚ある板の全体の大きさは厚さ約40mm、幅470mm、長さは1050~1070mmで、共木(ともぎ。同じ丸太から採れた材木で、とくに連続的な板や角材同士をさすこともある)です。鶉模様になっているのは全体の半分くらいですが、その他の部分もさざ波のような細かい杢になっています。

当工房にとってはけっして安くはない材料でしたが、こういう変わった杢の材料は偶然出会ったそのときに無理してでも買わないと、あとからはほとんど入手の可能性がありません。

ケヤキ変杢

ケヤキの杢板です。大きさは厚み約48mm、幅45cm、長さ210cmというところ。よく乾いた一枚板です。全面にではありませんが、変わった杢が出ています。写真上が木表側、下が木裏側(いずれも一部分を拡大)。こういうのはいったいなんと呼べばいいのでしょうか? ケヤキの銘木でよくみかける玉杢ではないし、鶉(うずら)杢や笹杢ともちがう。いろいろな要素が複雑に絡まったかんじの杢です。

ケヤキで家具などを作ることは、じつをいうと当工房ではあまりありません。工房を始めてから26年になりますが、その間にわずか数例程度です。誰でもケヤキの名前は知っているように、材料としては昔から非常に定評があり優れたものであることはたしかなのですが、そのぶんケヤキ材を専門に、もしくはメインに加工している木工所は少なくありません。しかし材料単価も格段に高いですし、どうしても伝統的和のイメージが強く出るので、当工房で扱うのは難しい材料だと思っています。

以上のような理由もあって、玉杢などのありがちな超高級材にはさほど興味がわきませんが、写真のようなちょっと普通ではないケヤキ材はとてもおもしろいと感じます。イレギュラーであるぶん、値段的になんとか手が出る範囲だということもありますが。

めったにない材料を前にして、これをどう活かすか、思案中です。

縦挽用丸鋸刃

製材された板や角材などを、製作するものに応じて再度のこぎりで引き割ります。たいていは昇降盤と呼ばれている円盤状の刃の付いた機械で行いますが、材木を繊維に沿って縦に切るのか、繊維を横や斜めに断つようにして切るのか、切断の精度や効率はどの程度のものが要求されるのかなどによって何種類もの刃を使い分けます。

写真の刃もそのひとつで、下のアップの写真ではKENEFUSAのブランド名の下に細かい数字で305×2.0×1.5×25.4×50×CNと記してあります。左から刃の直径305mm、刃幅2.0nn、ノコ身厚さ1.5mm、中心の穴径25.4mm、刃数50、タイプはCN、という意味です。縦挽専用の刃で新品です。刃先に溶着されている超硬合金チップはPRO-Kという種類。材木の抵抗による刃先のぶれを抑え、摩擦熱を逃がすための特殊なスリットが2種類、5カ所にほどこされています。この刃は機械刃物の専門メーカー、兼房(カネフサ、KANEHUSA)のものですが通常のカタログには載っていません。掲載されている刃よりもっと薄く、かつ50枚刃のものがほしかったので、兼房の営業所に直接電話し希望を伝えて送ってもらいました。

縦挽専用刃で直径305mmのものは、じつはほかにも3枚あるのですが、1枚はまったく同じもの、2枚は昔購入した他のメーカーのものです。1枚は丸鋸昇降盤を購入した際におまけで付いてきたものだったかもしれません。一見したところでは、さしたる違いはないようですが、実際に仕事で使ってみると切断精度や耐久性に大きな差があることが分かります。他の2枚の刃は値段は安いし、大きめのホームセンターなどでも売っているたぐいのものですが、刃先は肉眼でみても分かるほどぶれるし、長持ちしません。今回1枚同じ刃を追加注文したのも、研磨に出した刃のかわりに装着した刃が、研磨済みの刃にもかかわらずぶれが大きく「これじゃ仕事にならん」と感じたからです。切断面にナイフマーク(刃先の跡)がくっきりというのでは話になりません。

当工房で使用している機械用の鋸刃はほとんどが兼房のものです。もちろんすべての刃が他のメーカーのものより優れているということはおそらくないでしょうが、弱小零細木工所としてはいくつもの刃を試用し比較テストしてから採用&購入などということはできるはずもありません。つまりこれまでの経験則からいって兼房の刃にしておけばまず大きなはずれはないだろう、ということです。