家具作りはかなり細かな加工も多いので、数値は基本的にmm(ミリメートル)単位です。大きめの家具でも図面はみなmm表示ですし、作業する場合もmmですべて指示・確認します。部材の接合部などの要所は、さらに細かい0.1mm単位の精度が必要です。それなのに写真の五厘のノミって、いったい?
じつは私は木工を始める前は、首都圏方面で大工をしていました。工務店に見習で入り、20代後半の数年間を大工として建築現場で働いていたのですが、そこではまだ圧倒的に寸尺の世界でした。私はもちろんそれまでずっとメートル法で育ってきましたから、はじめはたいへんで、ひそかにセンチやミリに換算しながら作業をしていましたが、じきに慣れてしまいました。また寸尺のほうが大工仕事の実情には適しているとも思いました。建築の場合はサイズが大きいこともあり、mmではやはり作業する上では細かすぎるのですね。構造材などは乾燥収縮で1mmや2mmはすぐに変わりますから、あまり細かく言っても実際上意味がありません。
私が工務店に勤めて大工仕事をしていたのはもう30年近い昔の話になりますが、木工房を始めてからも材木屋さんとか大工さんなど、外部の人と話をするときはやはりメートル法より尺貫法でした。とくにすこし年配の方と話をするときは何尺とか何寸何分でないと話がスムーズにすすみません。手道具もその流れで、いまだにサイズを尺・寸・分で呼び習わすのが慣例です。ノミの場合もいちばんよく使う10本組の追入ノミ(おいれのみ)でも、小は一分から大は一寸四分まで、1分から2分刻みで段階的にそろえてあるのが普通です。ところがどうしても1分、すなわち3mm以下の溝や穴の加工をしなければならないことがたまにあります。そういうときに出番となるのが五厘ノミです。
刃先は1.5mmの幅しかないので、ふだんせいぜい一分のノミしか見たことがないと異様に細くきゃしゃに感じます。しかし、当然ですが、サイズは小さくともきちんとノミの基本的な形をしています。切れ味もたいへんいいです。あまり数が出ないからかもしれませんが、値段は六分(約18mm)のノミと同じくらいしたと思います。