月別アーカイブ: 10月 2011

苔滝

 

苔滝というのは私が勝手にそう呼んでいるのですが、落差4mほどの滝ながら、異様に色が黒いですね。これはじつは岩の色が黒いのではなく、岩全体にナガサキホウオウゴケという濃緑色の苔が隙間なくびっしり生えているためです。先日10月22日に紹介した「湧泉いろいろ」の3つ目の山ノ神ノ沢にある滝ですが、十数年前に湧水の調査をしていて最初にこの滝を目撃したときはたいへん驚きました。苔むしている滝はそれが湧水であれば珍しくありませんが、滝本体の岩全面が苔でおおわれている滝というのはほかにはあまりないと思います。

ナガサキホウオウゴケ(Fissidens  geminiflorus)は10月26日に本ブログに載せたエゾホウオウゴケと同じくホウオウゴケの仲間ですが、後者が「湿った日陰の岩の上などに生える」のに対し、前者は「常に水がかかるか水中の岩に生える」という違いがあります。それも滝のように非常に流れの速い、他の苔はとても進出できないようなところに生えていることが多いのです。ただし雨水が中心の、増水時に砂礫が流れてくるような滝や急流には見当たりません。あくまでも湧水か湧水主体の流れが安定した沢に限られます。図鑑にはナガサキホウオウゴケは「水しぶきがかかるような岩の上に生息」というような記述が圧倒的に多いのですが、鳥海山の場合は私が観察したかぎりではむしろ完全な水中にこそ多いように思います。

 

激しい流れに適応するようにエゾホウオウゴケにくらべ全体に細長くひょろっとしており、葉の長さも3mm程度で細長の形。手で触ってみると硬くてざらりとした感触です。柔らかくてぴろぴろしていたのでは滝では生きていけません。

よくこんなところにと驚嘆するような場所に生きているナガサキホウオウゴケですが、しかしよく考えてみれば水温と水量が安定していて他の競争相手がほとんどいない湧水の滝や急流は、彼らにとってはそれはそれで安穏とした天国かもしれませんね。

 

クサビ作り

当工房の家具はホゾを外まで出してクサビ(楔)を打って止めることが多いのですが、そのクサビの作り方を順を追って解説してみました。たぶんプロの木工家の方にはおなじみの方法だと思いますが、アマチュアの方だと機械設備の関係もあるので意外にご存知ないかもしれません。むろんこれが唯一の方法ではありません。もっといい方法をご存知または実践されている方はぜひ教えてください。

作例ではクルミ材で幅11.3mm、角度5度、長さ55mmのクサビを作っています。幅が11.3mmなのはホゾの厚みが11mmなので、それに対応するように若干の余分を見込んでいるためです。角度は場合によりもっと大きいことも小さいこともあります。

1)乾燥し目のよく通ったクルミ材で(できれば柾目のほうがベター)、厚さ11.3mm、幅5〜10cm、長さ50〜100cm程度の板をこしらえます。幅と長さは手元にある材料で適当でいいのですが、木端(側面)は正確に出ていなければなりません。厚みもノギスで計るなどして厳密にします。この板を横切盤などで長さ55mmずつに切りますが、この切断面の木口も木端同様に正確にそろっていなければなりません。


2)長さ55mmに切った板を瞬間接着剤で横につないでいきます。小口が一直線になるように、また平面に段差ができないように慎重に行います。写真ではヘンケル社のロックタイトの「タフボーイ」という瞬間接着剤を使用していますが、乾性が速く衝撃にも強く、容器の使い勝手もいいのでおすすめです。


3)木端の継ぎ目の部分はクサビには使えないので、すぐに分かるように赤鉛筆で両面にマーキングします。柾目の板だと木口をよくよく見ないと継ぎ目かどうか判断できないので、先にやっておいたほうがいいです。


4)クサビのカットは丸鋸昇降盤の定盤の蟻型溝に専用のマイターゲージをはめこんで行います(マイターゲージは新しい丸鋸昇降盤には付属品として付いてきます)。角度は2.5度右下がりにセット。ゲージに固定する定木の右端は鋸刃とすきまがないように、やや長めにゲージに止めてから一度捨て切りします。それから横つなぎしたクルミ材の右端を一回やはり捨て切りします。材料を直接指で押さえて作業するのは危険なので、必ず材料の上に別の押さえ板を重ね材料といっしょにマイターゲージに引きつけるようにしながら切ります。

5)さて最初の1個目のクサビですが、4)で端切りしたクルミ材を裏返して定木の端から「鋸刃の厚み+クサビの先端の厚み」ぶんだけ手元側を出します。この例では3mm+0.5mm=3.5mmです。クサビの先端はあまり細いと打ち込んだときに折れてしまいますし、太すぎると中まで入っていきません。下方にある小豆色の四角いものは強力な磁石で、側面のハンドルを半回転させて脱着します。これを昇降盤に吸着固定し、クルミ材の右端を突き当てることで、マイターゲージの定木からの出=クサビの厚みを規定するわけです。ただし鋸刃のすぐそばに磁石を設けると非常に危険なので、必ず写真のように鋸刃の刃口板手前まで後退したところに磁石をセットして、この位置でクルミ材の出を決めます。


6)鋸刃とクルミ材の位置関係をキープするために、写真のようにマイターゲージの後方にも磁石を2個固定します。これに当たるまでゲージを後退させて、その位置で材料を右の磁石に当てた状態が「定位置」となります。ちょっと分かりにくいと思いますが、クルミ材の右端はすでに2.5度に斜めに切れているので、裏返すことによって倍の5度で切れるというわけです。


7)クサビを1個切り出すごとにクルミ材を裏返してまた切る、これを何度か繰り返しているうちに、3)でマーキングした継ぎ目が間近くなってきます。この継ぎ目部分、また白太や節などの欠点がすこしでもあるところはクサビには使えませんので、そういうところが出てきたら捨て切りします。


8)クサビを切り離すとたいていは鋸刃のかすかな抵抗や風圧などでクサビが手元のほうに軽く滑走してくるのですが、写真のように鋸刃のすぐ近くに残ったままになることがあります。この場合、絶対に指でクサビを取り除いてはいけません。きわめて危険です。薄く「へたれ」な木の棒でそっとクサビを鋸刃から遠ざけます。なぜ「へたれ」かというと、剛直な木棒などでそれをやってもし回転中の鋸刃に接触すると激しい反発をくらうことがあって危ないからです。へたれならへたれが微塵になるだけで済みます。


9)上の記述で、切り終わったクサビが滑走してくると書きましたが、じつはたまに鋸刃にもろに引っかかって飛び跳ねてくることがあります。そのため私は万一を考えてポリカーボネート製のフェイスガードをかぶって作業しています。とくに切れ味の鈍った刃や、スムーズに動かないマイターゲージ、歪んだ板などの場合その可能性が大きいので要注意です。また写真のようにクルミ材が幅が長さよりも小さくなってきたら、いくら押さえ板を併用したとしても不安定で危険なので、これはもう捨ててしまいます。材料よりも指のほうがもちろんだいじですからね。

10)切り終わったクサビは、ホゾへの打ち込みがスムーズにいくように先端と元の四隅をノミで切り落とします。先のほうは30度くらい、元のほうは45度くらいといった感じです。これできっちり正確で同一なクサビがたくさん完成しました。

とまあこんな具合にクサビを作るのですが、ことばで説明するのはなかなか難しいですね。一度でも実際やってみれば、そうたいしたことではないのですが。クサビを作るのは正確にしようと思うとセッティングにかなり面倒なところがあり、10個作るのも100個作るのもそれほど極端な差はありませんので、よく使う材料と寸法のものは余分にまとめて作っておくようにしています。できたクサビはジップロックの袋に入れ、材種や幅と長さと角度を記入しておきます。数が非常に多い場合は、最初だけその個数&総重量を計って一個あたりの重さを算出しておけば、使用後はあとは全体の重さを量るだけでほぼ正確な残数を推定できます。

 

10/20&27の胴腹ノ滝

 

 

上の写真が10月20日の正午頃、下の写真が10月27日の朝8時頃の胴腹ノ滝です。15日に掲載した9/28&10/11は徐々に水量が落ちてきていたのですが、今回もさらに減ってきました。

ただし20日と27日とでは水量としては一見ほとんど同じように見えますが、拡大して細部を比較してみると27日のほうがわずかに多いようです。前日までの数日間、降水量はたいしたことがありませんが雨が降ったので、その影響かもしれません。滝の湧水の温度は、20日は右・左とも8.9℃(気温16.5℃)、27日が右8.8℃、左8.7℃(気温9.3℃)でした。8.7℃という温度は7月21日以来のものです。このまま冬に向けて水量と温度が基本的に下がり続けていくのかどうか、注目したいと思います。

それにしても寒くなりましたね。朝晩、もしくは日によっては日中もストーブを点火することが多くなってきました。鳥海山も標高1400m付近の千畳ヶ原あたりまで部分的に白くなってきましたし、この胴腹ノ滝でも鳥居直前の湧水メインの沢の温度は10.1℃と、気温(9.5℃)より高くなってしまいました。湧き水というとイメージとしては圧倒的に「冷たい水」ですが、もちろんそれは相対的なもの。これからは湧水は「あたたかい水」になってきます。

 

エゾホウオウゴケ

 

漢字で書くと蝦夷鳳凰苔。鳳凰は孔雀に似た中国の想像上の鳥ですが、なるほど鳥の羽を思わせるようなかたちです。ホウオウゴケ科ホウオウゴケ属エゾホウオウゴケという苔です(Fissidens  bryoides)。鳥海山でも低・中山域の湿った日陰の岩などに生えているまあふつうの苔ですが、さわやかな緑色または黄緑色の色合いといい、ユニークな形といい、とても風情のある美しい苔だと私は感じています。

ホウオウゴケの仲間は世界で900種ほどもある大所帯だそうですが(日本には約40種)、葉が茎に2列に羽状に並んでいるのが共通した特徴です。またホウオウゴケ属では、葉の基部に葉が折り畳まれて重なる「腹翼」という特有の構造をもっています。

湧水を調べていると種々さまざまな苔に出会いますが、このエゾホウオウゴケなどといったごく一部の苔をのぞけば、私には正確に種を特定することができません。一見したところ同じように見えても細部や顕微鏡レベルで異なることが多く、「○○の仲間かなぁ」くらいのところまで言えてもそれ以上に歩をすすめることは不可能です。肉眼で識別できるような大きめでかつ多彩な色と形の花が咲く、一般的な植物とはそこが決定的に異なります。

じつは私も苔には興味があって、むかし図鑑などを一式買い込んだことがあるのですが、知れば知るほど種の特定が難しく、ほどなく挫折してしまいました。顕花植物にくらべれば愛好者ははるかに少なく、いくらかでも知識を身につければ渋すぎる趣味としてちょっと自慢できるんでしょうけどね。

 

縦挽ノコ刃

昇降丸鋸盤の縦挽の刃がすこし切れ味が落ちてきたので、新しい刃と交換しました。いつもだと再研磨済みの予備の刃に替えるのですが、今回は2年ほど前に買ったきりでしまい込んでいたカネフサの新品「CNチップソー」に替えてみました。このモデルはカネフサのカタログには載っていないややイレギュラータイプのもので、カネフサの営業所に電話してこちらの希望を伝えて送ってもらったものです。

驚きました。切れ味がぜんぜん違います。径305mmで刃先は50枚の超硬チップ、刃厚は2.0mm、鋸身厚1.5mmと、これまでの縦挽刃と基本的にはだいたい同じですが、硬い広葉樹の厚板を切っても刃先がぶれることなくすいすい切れます。もちろん新品だからというだけでは決してありません。他の刃は研磨直後でもこんなふうにスムーズには切れませんので、あまりの違いにびっくりしました。こんなことならもっと早く交換すればよかったな。

その違いは刃全体の加工精度もあると思いますが、おそらく制振機構がうまくはたらいているためではないでしょうか。刃の側面に縦長の大きめのスリットと、極細のM字型のスリットと2種類のスリットが開けられていますが、これが材料からの抵抗や熱を効率よく抑え、あるいは逃がしているのではないかと思います。

カネフサ(兼房株式会社)は切削工具・刃物の国内のトップメーカーですが、当工房ではここ10年くらいはほとんどカネフサの刃のみを購入・使用しています。木工機械を導入したときにオマケみたいに付いてくる刃や、ホームセンターなどで売っている刃にくらべると値段は高いですが、じゅうぶんそれだけの価値はあります。

 

特別栽培米

 

工房は自宅から車で10分くらい離れています。村はずれにあって飲食店などは一軒もありません。むろん経費や時間的な理由もありますが、昼食はほとんど工房内の台所で自炊しています。昼食だけなので栄養バランスとかはとりあえず考慮するほどのこともありませんし、特別ごちそうを工房での作業中に食べたいとも思いませんので、メニューはだいたいシンプルなスパゲッティか、ご飯+みそ汁+漬け物といったところです。

妻の実家で米を作っているので自宅の米はそれを分けてもらっていますが、工房の昼食用の米はふつうにお店で購入していました。毎日米を炊くわけでもなく、一回で1合(約150g)程度しか炊きませんので、消費量はたかが知れています。しかし今回は思うところがあって齋藤武さんの特別栽培米を購入しました。新米のコシヒカリとササニシキです。

齋藤武さんは鳥海山の遊佐町で有限会社鳥海山麓齋藤農場を経営しており、主に水稲と野菜を少し作られています。水稲は無農薬または減農薬の有機栽培です。鳥海山は湧き水が非常に豊富であるということを本ブログでも幾度も書いていますが、齋藤さんとこの稲も鳥海山の山裾の田んぼで湧水や雪解け水をたっぷり吸って育った稲です。冷たい水なので平地にくらべ収量は落ちますが、うまみはそのぶん凝縮されているとか。

さっそく炊いてみました。1日目はササニシキです。さっぱりしたクセのない味で、他の食べ物の味がひきたつしたくさん食べられそうです。若い頃のように何杯もおかわりしても飽きずに食べられるので、それには最適の品種かもしれません。二日目はコシヒカリです。ササニシキとは対極的にもっちりして甘みの多い品種。ごはん自体がおかずがわりにもなるような米で、数ある品種のなかでも現在圧倒的な人気があるのはうなずけます。ただたくさん食べると口にもたれる感じがあるかも、です。炊飯の水はいずれも胴腹ノ滝の湧水を使いましたが、予想どおりにたいへんおいしいご飯でした。

ただ残念なのは炊飯器で、工房用にと2年ほど前に買ったいちばん安い機種で、現在主流のIH(誘導加熱)式ではなく、容器の底からヒーターで加熱する旧タイプのもの。インターネットで調べてみるとIHにさらにさまざまな機能や工夫がプラスされ、値段も定価でなんと10万をこえる炊飯器もありました。実売価格5万前後はたくさん。そこまでこだわる気も余裕もありませんが、せめて2万程度のIH式炊飯器に「そのうち」買い替えしたいと思います。いい米なのにいまの炊飯器では逆にもったいないです。

 

湧泉いろいろ

一昨日10月20日は鳥海山の湧水・表流水の調査で二ノ滝〜渡戸、山ノ神〜高瀬峡〜二ツ沢などに出かけたのですが、その中からいくつかの湧泉をご紹介します。

高瀬峡の遊歩道に入って間もなくヒノソの蔭ノ滝に向かう道が右に分岐します。湧水の沢である二ツ沢を渡ってすぐにまた、左に分かれる枝道がありますが、じつはこれは杉林の中を通って10分ほどで長坂道に合流する非正規の道です。なぜ正規ではないかというと、もともとはヒノソが増水していて渡れないときのバイパスとしての作業道だからです。高瀬峡遊歩道の第一吊橋ですでにヒノソを越してしまうので、ヒノソの増減にかかわらず左岸から右岸へと安全に行き来できるわけです。ちゃんとした登山道ではないので季節等によっては若干分かりにくいところもあり、基本的に地形図を読める程度の力がないと逆に道に迷ってしまう可能性もあるので安易にはおすすめできませんが、ヒノソの徒渉対策として覚えておくと便利です。

さてその道が長坂道と出会うT字分岐の20歩手前の右側に湧泉があります。それが1枚目の写真です。水量は大・中・小でいえば中クラス、温度は7.8℃でした。T字分岐を右に向かえばすぐにヒノソの長坂道徒渉点ですが、そのすぐ下流右岸にも大きな湧泉があります。

 

次に、そのT字分岐を左に向かうと数分でふたたび二ツ沢と出会います。長坂道はこれを渡り越して笙ケ岳のほうに行くのですが、この二ツ沢の源頭付近の湧泉が2枚目の写真。湧出箇所は多数あるので、全体の水量としては大です。水温は7.3℃。流水の中にも畔にもとにかく苔がじつに見事です。鳥海山広しといえどこれだけ苔がきれいに密に繁茂している沢はそういくつもないと思います。

 

駐車場のある山の神にもどりますが、その直近の沢が通称「山ノ神ノ沢」です。この沢も二ツ沢と同様に100%湧水の沢ですが、もともとはヒノソにまっすぐ落ちていたものを200年前の白井新田開拓時に人工的に用水として掘削して藤井〜野沢へと流れを替えてしまいました。この沢の源頭付近にある湧泉が3枚目の写真です。水量は大で、水温は7.8℃でした。この湧泉へは山ノ神ノ沢の左岸ぞいに上流側・東北東方向へ約300mほど歩きますが、これも二ツ沢源頭の湧泉と同様に登山道はありませんので、要注意です。

 

紅葉

 

昨日の午後3時40分ごろの鳥海山です。9月28日のブログで書いたように、2008年くらいから猛威をふるっていたウエツキブナハムシがようやく収束したようで、そのおかげで今年は紅葉がとてもきれいです。

写真をよく見ると上部1/3くらいから頂上にかけてはすでに枯れ色になっていて、中腹の標高1300〜600mあたりが赤く色づいています。その下はまだ緑色がまさっていますね。鳥海山は中腹にブナが多いのですが、ウエツキブナハムシはブナの葉の表面を食べるのでそれが減ったことで紅葉が今年は順調にすすんでいるようです。ブナの葉そのものは赤ではなく橙色になるのですが、他の落葉広葉樹の紅葉が昨年までのようにブナの(食害による茶色の)変色にじゃまされないために、山全体としては赤く色づいてみえるのでしょう。

手前は刈り取りの終わった稲田ですが、8月15日の記事「棚田」に載せたのとほぼ同じ場所の田んぼです。

 

ハイバックチェア

 

 

当工房の定番的な椅子。背もたれがやや高めにできているのでこの種の椅子はハイバックチェアと呼ばれています。寸法は幅440mm、奥行450mm、高さ870mm、座面高380mmです。材質はクルミ(オニグルミ)です。

デザイン的にはごくスタンダードなもので、座面は完全フラット&水平、背の傾斜もそれほど強くありません。座の高さも市販の一般のものよりすこし低めにしてあるので、ダイニングテーブルやデスクなどどんな用途にも対応できると思います。テーブル類の甲板高さは標準として650mmを想定していますが、ご注文で作る場合はさらに低く620mmくらいまで下げることがあります。椅子の座面もそれに合わせて低くします。

特徴としてはホゾを相手の外まで貫いてクサビで締めてあることです。また外観からはまったく分かりませんが、主要部分は「大入(おおいれ)」といって入る側の断面全体が相手側に2〜3mmほどくいこんでいます。また座板を受け、脚同士をつなぐ幕板は当然として、それ以外に幕板の下方でももう一段「貫(ぬき)」で脚同士を結んでいます。

現在では、貫がなくて幕板のみで締結してある方式の椅子が圧倒的に多いですが、当工房ではこの椅子だけでなく原則としてそのような方法は採りません。金属製ならともかく木製で「一点接合」は強度的に無理があると考えるからです。コの字ではなく最低でもロの字型で組む。座る人の体格はさまざまで、みながみな静かにそっと座るとはかぎりませんから。

その結果みた目にはいわば下半身がやや重く感じられるかもしれません。しかし椅子はなによりもまず生活の基本的な道具ですから、みてくれよりも機能性と耐久性がいちばんです。外目の美しさももちろん大事ですが、それは二番目以降の話です(両立できればいちばんですが、かなりの難問)。おそらくこの椅子なら災害にでもあわないかぎり数十年から百年くらいは保つでしょう。オール無垢材でホゾ組ですから、万一の場合の補修もききますし、使い込んでいくことによってまた別の魅力をましてくると思います。

むろん使い勝手や耐久性を多少そこなっても美観を追求することがあってもいいとは思います。手作りの家具の工房も、全国的にはたくさんあって、椅子をメインの家具にすえている工房も少なくありません。何を重視するかは実際いろいろで、お客さんはその中から選択すればいいだけですね。

 

打刻印

 

当工房では家具や木製小物に「製作者・製作年」を写真のような感じで入れています。工房名がオーツーなのでそのアルファベット表記のOと右下に小さい2、続いて西暦で年と月です。小物類で定番になっているものだと製作年のかわりに通し番号(シリアルナンバー)にしたり、両方を併記することもあります。変わったところでは記念品としてのご注文品に、贈り主や相手方の名前を、アルファベットに限られてしまいますが刻印することも。

元の数字やアルファベットは、機械類の製造番号などをしるすのに用いられていることが多い焼きの入った鋼鉄性の打刻印です。打刻印にはいろいろなサイズがありますが、当工房で使っているのは3、4、5mmのサイズ。1本ずつ順にハンマーで叩いてしるしていくのですが、微妙に傾いたり空きが不揃いになったりすることもあります。が、そこは「手作り品」の味ということで。ずれないように専用のホルダーにセットして、一度に打刻するやり方もあるようですが、量産品でもなければそこまでする必要はないと思っています。

ご注文で製作したものや、購入されてからそれほど時間が経っていなければどこの誰が作ったものか、どこの店で買ったものかは覚えていますが、年月が経ち、さらに代が替わったりすればそれも分からなくなってしまうでしょう。もしどこか痛んでしまい修理したいとか、お気に入りで追加でほしいと思っても、製作者などが不明では困ります。そのために製品のひとつひとつに打刻しているのですが、私はこの方法が自分でもたいへん気に入っています。

他の方法、たとえば真鍮のプレートを打ち付けたり、焼き印を押したり、あるいは最近ではレーザー照射で記したりといった方法があります。それぞれ一長一短だと思いますし好みの問題もあるでしょうが、打刻印は「目立ちすぎない」「そのつもりで見ればはっきり分かる」「何十年でも消えにくい」「低コストである」といった要素をすべて満たしています。他の木工房ではあまり見かけない方法である点も逆にいいかなと思っています。