苔滝というのは私が勝手にそう呼んでいるのですが、落差4mほどの滝ながら、異様に色が黒いですね。これはじつは岩の色が黒いのではなく、岩全体にナガサキホウオウゴケという濃緑色の苔が隙間なくびっしり生えているためです。先日10月22日に紹介した「湧泉いろいろ」の3つ目の山ノ神ノ沢にある滝ですが、十数年前に湧水の調査をしていて最初にこの滝を目撃したときはたいへん驚きました。苔むしている滝はそれが湧水であれば珍しくありませんが、滝本体の岩全面が苔でおおわれている滝というのはほかにはあまりないと思います。
ナガサキホウオウゴケ(Fissidens geminiflorus)は10月26日に本ブログに載せたエゾホウオウゴケと同じくホウオウゴケの仲間ですが、後者が「湿った日陰の岩の上などに生える」のに対し、前者は「常に水がかかるか水中の岩に生える」という違いがあります。それも滝のように非常に流れの速い、他の苔はとても進出できないようなところに生えていることが多いのです。ただし雨水が中心の、増水時に砂礫が流れてくるような滝や急流には見当たりません。あくまでも湧水か湧水主体の流れが安定した沢に限られます。図鑑にはナガサキホウオウゴケは「水しぶきがかかるような岩の上に生息」というような記述が圧倒的に多いのですが、鳥海山の場合は私が観察したかぎりではむしろ完全な水中にこそ多いように思います。
激しい流れに適応するようにエゾホウオウゴケにくらべ全体に細長くひょろっとしており、葉の長さも3mm程度で細長の形。手で触ってみると硬くてざらりとした感触です。柔らかくてぴろぴろしていたのでは滝では生きていけません。
よくこんなところにと驚嘆するような場所に生きているナガサキホウオウゴケですが、しかしよく考えてみれば水温と水量が安定していて他の競争相手がほとんどいない湧水の滝や急流は、彼らにとってはそれはそれで安穏とした天国かもしれませんね。