月別アーカイブ: 3月 2011

クリスタルグラス

私は酒はあまり飲みません。暑いときにビール一二杯くらいでたくさんという程度。ウィスキーもワインも日本酒もおいしいとは思うのですが、量的にはまったくの下戸です。その私のところになぜか飲酒用のハイクラスの器があります。左はスウェーデンのコスタボダ(KOSTA BODA)のタンブラー、右はドイツのローゼンタール(Rosentahl)のブランデーグラスです。

もう30数年も前のことになりますが、東京で小さな広告代理店に勤務していた頃に、仕事がグラフィックデザインということもあってデザイン的なものに広く興味関心がありました。乏しい給料の中からかなり無理してデザイン関係の本や雑誌を購読したり、展示会に出かけたり、専門店で買い物をしたりしていました。写真のグラスはたしか銀座高島屋の洋食器売場で買い求めたと思います。当時で5000〜10000円くらいしたかもしれません。今だと10000~20000円くらいの感じでしょうか。

そんな高級なグラスを二十歳そこそこの、ジーパン&Tシャツの若造がじっと眺めているのですから、店員にはけげんな顔をされましたが、でもお客はお客です。それこそ清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、それぞれ2個買いました。むろん別々の日にです。

左のクリスタルガラスでできたタンブラーは通称「象の足」と呼ばれていたような気がします。底に九つの丸みを帯びた突起があり、たしかに象の足のような印象ですね。大きさは径90mm、高さ87mmながら重さは448gもあり、ずっしりと重いです。その反面、飲み口の上辺は厚さ1mm余とごく薄くできています。「手作りグラス」によくあるようななにもかもが厚くぼってりとした鈍重な感じはまったくありません。ろくに酒が飲めないながらも、これでシングルモルトウィスキーのオンザロックを傾けると、じつにいい気分です。

右のはやはりクリスタルガラス製でスタジオラインというシリーズのもの。なによりもその極薄のスタイルにほれてしまいました。上縁の厚さは1mm、足の太さも6mmしかありません。大きさは径90mm、高さ110mmで重さは106gです。「象さん」の1/4。ぱりんとすぐに割れてしまいそうな危うさがすてきです。これに注ぐブランデーはやはり安物では似合わないぞ、というわけで、これも気違いじみた話ですがマーテルのコニャックを買ってきました。

品物のデザインは見た目だけでは分かりません。一見とてもよさそうに見えたのに実際使ってみると具合がわるいということは珍しくありません。自分のお金で買い求め自分で使い込んでこそほんとうの価値が分かる、評価ができるのだということを、このクリスタルガラスの器で痛感しました。

端金のマスキング

端金は「はしたがね」とも読みますが、ここでいうのは「はたがね」のほうです。四角または丸い棒状の竿の一端に半固定された端板(はしいた)が設けられ、竿の途中には可動の羽子板(はごいた)があり、このふたつの板で木材などを締め付けて接着したり加工の目安となる線をまとめて引いたりするための道具です。昔からあるオーソドックスなものですが、木工にはとくになくてはならない大事な道具です。

当工房ではこの端金を大小合わせて90本ほど使っていますが、板同士を接着させて幅広の板にするなどの際に接合部からはみ出た接着剤が端金に付着しないようにしないといけません。こびりついてしまうと後で羽子板がうまくスライドできなくなるばかりではなく、もっと深刻なのは接着剤が端金の金属や汚れなどと反応して材料にシミを作ってしまうことです。このシミは意外に頑固で、木材の表面だけでなくときに1mm以上も深く内部まで汚染してしまうことがあります。

これを防ぐには接着剤の付いた材料と、端金とが直接接触しないようにしなければなりませんが、当工房では通常、写真のように端金の竿のほうに養生テープを貼っています。締め付ける対象はそのつど寸法が違うので、前のものより長いぶんにはテープを貼り足せばいいのですが、前のものより短い場合はテープをはがさなければなりません。そういう貼ったりはがしたりの手間は若干ありますが、コマ(木の小片)などを間にかうのに比べると端金が安定して使えますし、シミつきを完全に防ぐことができます。

ただしこの方法に用いるテープはなんでもいいわけではありません。要するに、貼るのが簡単+必要な間はしっかりとくっついている+はがそうとすれば簡単にはがれる+どんな接着剤でも裏に浸透しない+値段が安い、といった条件を満たさないとだめです。当初はいわゆる通常の紙製のマスキングテープを使っていたのですが、端金のマスキングとしては作業性があまりよくない(手できれいにちぎれない、長時間貼ったままにしておくとはがすのが難しくなり糊残りする、など)。

それで試行錯誤の末に8年前くらいから採用しているのが建築の養生用テープです。リンレイテープの「養生用ポリエステルクロス650」の25mm幅。この種のテープはホームセンターでもどこでも売っていますが、粘着力が強すぎたり丈夫すぎて手で切りにくい、幅が38mmや50mmと広すぎるなど、端金用には向いていないと思っています。

この「養生用ポリエステルクロス650」ですが、近辺のホームセンターなどでは扱っていないので工業資材専門のインターネットのサイトから通販で入手しています。手持ちがなくなってきたので補充したいのですが、東日本大震災および福島第一原発の事故の影響もあって受発注が滞っているようです。地震・津波はそれ自体は天災ですからある意味で受容するしかないのですが、後者はあきらかに愚劣きわまる人災、それも戦争に匹敵するくらいの激甚人災といっていいでしょう。事態は日々・刻一刻悪化するばかりで、ほんとうに日本はどうなってしまうのか。暗澹たる思いで見つめています。

スチールのひな壇

当工房で作った木製の雛壇について3/18にご紹介しましたが、作り替えることになったもとのスチール製7段の市販の雛壇が写真のものです。一段あたりの幅や奥行き・高さなどは、今回オール木製で作り替えたものとだいたい同じですが、これは全体で7段あります。すべて鉄の折板でできていて、それぞれのパーツをボルトや、パーツ同士の凹凸などで組立・固定するようにできています。

筋交いにあたるものも2カ所にありますが、鉄板がごく薄いこと、とくに骨組みの強度不足のためにへなへな・ぐらぐらします。素材が薄いのは全体の重量を軽減する意味もあってやむを得ないかもしれませんが、どうにも納得できなかったのが鉄板の切り端の処理。シャーリング(切断)もしくはプレスで打ち抜いたままで、まったく後処理がなされていません。バリが残ったままです。

これは非常に危険で、組立や分解・収納時に素手でさわったらまちがいなく怪我をします。お客様も手を切ったことがあるそうですし、最初私が参考までに拝見させていただいたときも、事前に注意をされていたにもかかわらず指先をほんのすこしですが切ってしまいました。

全部組み立ててしまえばそれなりに安定し自立するのですが、それまではふらふらするし、うっかり触ると怪我をするおそれがあるなどのことから、雛祭りの時期になると気にはなりながらも設置がとてもおっくうで、結局見送ってしまったこともたびたびあったとか。それはそうですね。私も寸法等の確認・検討のために工房で組み立ててみて実感しました。

お客様がこのスチールの雛壇を買われたのは約30年前ですが、いくらその昔とはいえこういう危ないものをよく製造販売していたものです。今なら製造物責任法(PL法)でまちがいなくアウトです。

母の死

私の母が3月14日の午前8時すぎに死亡しました。87歳でした。10年前にくも膜下出血で倒れ、あいにく5月の連休中のためもあって手当がおくれ脳梗塞に陥りました。それからほとんど意識がないまま寝たきりになっていました。

この間にも何度も危機的状態がありましたし、しだいに体力も衰え身体も見るからに小さくなってしまいました。胃ろうで最低限の栄養は補給できていましたが、筋肉や骨はほとんど使われないためにやせ細っています。それを骨拾いのときに実感しました。

昨年12月28日に父が旅立ってからわずか2ヶ月半。ある程度は覚悟していた事態ですが、世の中のほうも未曾有の大地震、津波、原発事故の大混乱。悲嘆にくれているというわけではありませんが、無常感が強くあります。

ひな壇

ひな飾りの棚です。ずっと昔にお客様が買い求められた雛人形と、それを飾るためのスチール製の7段の雛壇があったのですが、人形本体以外の付属物とスチール棚は廃棄処分することになりました。そして木製5段の雛壇に作り替えたのが上の写真です。人形はとりあえずの仮置きです。材料は貫だけはクルミで、他はすべてスギ。サイズは幅1180mm、奥行き840mm、高さ825mmです。

雛人形は一年のごく短い期間しか飾りませんので、新たに木製の雛壇に作り替えるにあたり、いくつかの条件がありました。それは、1)女性一人でも組立と分解が簡単にできる、2)できるだけ軽くコンパクトにする、3)ぐらついたりせず長く使えるだけの強度、4)布で隠れるとはいえ見栄えもそれなりに、5)値段はあまり高くならないように、といったものです。けっこう難問といっていいと思います。

1)については部品数を少なくすることと、その部品が何でどこに使うのかが一目で分かるようにしました。具体的には階段状の側板2枚、それを通しホゾ+くさびで固定する貫3本、通常より大きめのくさび6本、蛇腹式に一体化した棚板&蹴込板が2組、という構成です。結果、棚板をのせなくてもしっかりと自立するだけの強度が得られました。ぐらつきはまったくありません。右の写真は工房で撮影した、布をかぶせる前の雛壇です。棚板と蹴込板とはステンレスの長蝶番で連結しています。はじめは5段計10枚の板をすべてつないで一体にしたのですが、女性が一人でセットするにはやや重いかなと思ったので、上2段分と下3段分とに分割しました。

構想が決まるまでわりあい頭を悩ましたのですが、完成して納品し、雛人形を飾ったところ、お客様にはたいへん喜んでいただきました。人形だけのほうが他の付属品がごちゃごちゃあるより品がありますし、すっきりしていいですね。部屋の雰囲気にも合っていると思います。

ところが、です。こうして人形も仮置し笑顔で眺めていたら大きな地震が! そうです、3月11日午後2時46分に発生したマグニチュード 9.0の東日本大地震です。かなり強く長い時間揺れましたが、酒田では震度4強で、人命・建物・その他にも大きな被害はありませんでした。しかしながらその後の太平洋側での津波や福島の原発事故はみなさんご存知のとおりです。とくに原発については予断を許さない、きわめて逼迫した状況にいま現在(3/18夜)もあります。

スーヤバール

旧のホームページでいちど取り上げた材料ですが(>右のリンク欄で「旧ホームページ」をクリック>「Day Design」の目次>204頁にアクセス)、そのときの材料よりもっとずっとボリュームがあり、「葡萄杢」の感じがよりいっそう分かるかもしれないと思うので、再度取り上げます。

大きさは厚み約80~90mm、径430~470mm。これで重さが16.5kgですから、計算上は比重0.95もあることになります。たしかに実際持ってみると、概観から予想した重さの倍以上はある感じがします。不用意に持つとぎっくり腰のおそれも。それくらいずっしりと重いです。

スーヤバールはThuja burl と書きますので、スーヤ(または、ツヤ)の瘤材ということになりますが、Thujaはヒノキ科のクロベ属の学名ですから、これだけでは種名までは分かりません。材木屋さんの話ではモロッコ産らしいのですが、アフリカ大陸北西部の国に針葉樹というのもちょっと想像がつきません。

スーヤバールは黄褐色の地に濃い斑点がクラスター状に不規則に散らばる様子が珍重されるようです。豹のような紋様でもあり、これは葡萄杢の一種といっていいでしょう。今回の材料は厚みがあり干割れなどもほとんどないので、いろいろなものが作れそうです。

湧水量の変化

胴腹ノ滝はわき水ですが、天候や季節によって水量が変化します。滝は左右ふたつあり、その下の流れも大きな岩間を流れ下るので、「水路の断面積×流速から時間当たりの流量を出す」のはかなり難しいです。しかし正確な水量でなくとも写真からもその変化はおおよそ分かります。掲げた写真は上から12/21、1/25、2/1、2/27、3/7のものです。

1枚目の12/21では雪が降り始めてはいますが積もるほどではなく、滝の周辺もまだ緑色です。このあと12月末頃から降雪がだんだん多くなり、年が明けたあたりからは滝周辺もみな真っ白になっていきます。

2枚目の写真は1/25のものですが、雪が積もり始めてから約1ヶ月近く経っています。12/21にくらべ明らかに滝の湧水量が減っているのがわかります。今冬は年末から2月はじめくらいまでほぼ毎日降雪があり、5年ぶりの大雪ということで里でも雪かきに苦労しました。

3枚目は2/1ですが、積雪は5枚の写真の中では最大です。ただ水量は1/25とほぼ同じです。

ところが4枚目の2/27になると一転してまた水量が増えています。降雪も2月になってからはだいぶ減ってきて、滝の周辺にも緑がよみがえってきています。晴れの日もときどきあり、日照時間も長くなってきました。

このまま暖かくなり水量も増えて春をむかえると思っていたのですが8日後の3/7、最後の写真です。水量は1/25・2/1のレベルにまたもどってしまいました。前回の撮影のすぐ後、3月になってからまた降雪と積雪があり、気温も平地で氷点下になっていました。

さてこれだけの記録ではうっかりしたことは言えませんが、私なりの推測をあえて述べます。胴腹ノ滝の湧水の供給源ははるか上部の鳥海湖(1600m)〜万助小屋(1000m)〜渡戸(650m)といった冬期間完全に雪に閉ざされ凍結してしまうエリアからだけではなく、冬でも地面が部分的にのぞいたり、気温が緩んで積雪が解けてそのまま地面に浸透してしまうような、標高のもっと低い部分=400~250mをも少なからぬ供給源としているのではないかと思います。吉出山とその周辺、および吉出山北方の上ノ山ノ神のあたりです。

標高の高いエリアからの浸透水は胴腹ノ滝で湧水として現れるまでにそれだけ時間がかかり、途中の季節変動や月・日変動を吸収し均してしまうために、そのぶんの水量はほぼ一定して一年中流れ出します。これを仮に「ベースの湧水」とします。しかしもっと標高の低いところからの浸透水は湧出するまでの時間がずっと短いために変動を均される間があまりないまま、ベースの湧水に上乗せするかたちで流れ出すのではないか。これを仮に「オプションの湧水」とします。水温は8.4~8.7℃ほどで大きな変化はありません。

鳥海山の湧水は私が確認しているだけでも200箇所以上ありますが、水量の大小とその安定性は比例しません。胴腹ノ滝のように全体としては豊富な湧水量ながら季節や天候によって目に見えるほどに変化するところもあれば、水量はごく少ないながら年間ほとんど変化しないところもあります。その違いはおそらくどこをどう通ってその水が湧き出ているか、つまり透水層の地層の深さや岩質のちがいだろうと考えています。そのちがいによってベースの湧水とオプションの湧水の割合がそれぞれ異なるのだろうと。

ぬいぐるみの兄弟

2/9のブログで「猫のぬいぐるみ」を披露しましたが、一匹ではさびしかろうということで、もうひとつ色違いですが通販で購入しました。全身真っ黒の猫です。ぬいぐるみにはとくに性別はないのですが、子どもはオスだと言っているのでこれは姉妹ではなく兄弟なのでしょう。

21年目にして

ご注文でひな飾り用の棚板を製作中です。これまでお客様が使われていた雛壇はスチール製のものですが、わけあって木製の5段のものに交換します。雛壇については後日またくわしく説明したいと思いますが、その材料として倉庫から引っ張りだしてきたのが上の写真のスギ板です。

厚みが19mm、幅は30~45cm、長さ3m。両面無地または上小の上等な板が十数枚あります。とくに杢が入っているわけでもありませんし、一枚で戸板になるほどの巨大な板というわけでもありません。サイズはいくらか大きい部類ながらごく普通の素直なスギ板です。写真はすでに今回の雛壇に必要な材料を木取したあとのものです。けれどもここでわざわざ取り上げるのは、これらの板がじつは21年前に原木で購入し製材してもらった材料だからです。

スギは比重のわりには丈夫ですし耐久性もあるので建築材としてはよく使われるのですが、年輪の濃い部分(秋材)と薄い部分(春材)との硬さに大きな差があることや、白太(辺材)と赤身(芯材)の色合いの差が著しい上に白太の割合が多いこと、表面が柔らかく傷つきやすいことなどから、家具材には不向きな材料といっていいと思います。実際スギでできた家具の製品はほとんど見かけませんし、当工房でもこれまでごく少ない製作例しかありません。

そのスギを21年前に丸太で購入し製材してもらったのは、クルミやクリといっ広葉樹の原木を購入した際に「これもついでに持っていってもらえないか?」と材木屋さんにすすめられたからだったと思います。無地の板がとれそうだったのと、たぶん値段も安かったのでOKしたのでしょう。上等な板であればメインの家具材としては使えなくとも、なにかしら用途があるかもしれません。けれども結局出番がなく倉庫の片隅に埋もれていました。それほどたいした金額ではないにせよ、長い間明確な使う予定もなく眠っていたのでは材料の良し悪しにかぎらず「不良在庫」以外のなにものでもありません(大きな声では言えませんが、そういう不良在庫がほかにもいろいろ……)。

今回の雛壇はできるだけ軽く作らなければならないこと、布でおおうので見栄えはそれほど気にしなくてもいいこと、そして予算的に潤沢ではないことなどの諸条件がありました。それならちょうどぴったりということで「あのスギ板」が21年目にしてやっと出番となったのでした。やれやれ、です。

黒柿キーホルダー

黒柿のキーホルダーで、私自身が数年来使用しているものです。上は除雪機の鍵で、下は仕事兼私用のバン(日産のバネット)の鍵。黒柿は箱物やペーパーウェイトなどを製作した際の残りの材で作ったもので、大きさは16mm角×80mm、リングは径30mmのステンレス製のキーリングです。工房の電話番号や車両番号などを打刻しています。

黒柿は他の材料とちがって、どんな小さな端材であってもまず捨てることはありません。小さくともそれなりに味がありますし、価格的にはおそらく世界で最も高価な木材のひとつです。m3あたり400~3000万くらい。おまけにそれは急激に品薄になってきており、このままだと遠からず「幻の木材」になってしまいそうな状況にあります。最大の原因は防腐剤や清澄剤としての柿渋の需要の減退でしょう。

この黒柿キーホルダーは製品としての在庫がすこしあります。シングルタイプと、一本の材をふたつに切り分け紋様が連続するペアタイプと。ご希望があれば数字・アルファベットの刻印もいたします。