21年目にして

ご注文でひな飾り用の棚板を製作中です。これまでお客様が使われていた雛壇はスチール製のものですが、わけあって木製の5段のものに交換します。雛壇については後日またくわしく説明したいと思いますが、その材料として倉庫から引っ張りだしてきたのが上の写真のスギ板です。

厚みが19mm、幅は30~45cm、長さ3m。両面無地または上小の上等な板が十数枚あります。とくに杢が入っているわけでもありませんし、一枚で戸板になるほどの巨大な板というわけでもありません。サイズはいくらか大きい部類ながらごく普通の素直なスギ板です。写真はすでに今回の雛壇に必要な材料を木取したあとのものです。けれどもここでわざわざ取り上げるのは、これらの板がじつは21年前に原木で購入し製材してもらった材料だからです。

スギは比重のわりには丈夫ですし耐久性もあるので建築材としてはよく使われるのですが、年輪の濃い部分(秋材)と薄い部分(春材)との硬さに大きな差があることや、白太(辺材)と赤身(芯材)の色合いの差が著しい上に白太の割合が多いこと、表面が柔らかく傷つきやすいことなどから、家具材には不向きな材料といっていいと思います。実際スギでできた家具の製品はほとんど見かけませんし、当工房でもこれまでごく少ない製作例しかありません。

そのスギを21年前に丸太で購入し製材してもらったのは、クルミやクリといっ広葉樹の原木を購入した際に「これもついでに持っていってもらえないか?」と材木屋さんにすすめられたからだったと思います。無地の板がとれそうだったのと、たぶん値段も安かったのでOKしたのでしょう。上等な板であればメインの家具材としては使えなくとも、なにかしら用途があるかもしれません。けれども結局出番がなく倉庫の片隅に埋もれていました。それほどたいした金額ではないにせよ、長い間明確な使う予定もなく眠っていたのでは材料の良し悪しにかぎらず「不良在庫」以外のなにものでもありません(大きな声では言えませんが、そういう不良在庫がほかにもいろいろ……)。

今回の雛壇はできるだけ軽く作らなければならないこと、布でおおうので見栄えはそれほど気にしなくてもいいこと、そして予算的に潤沢ではないことなどの諸条件がありました。それならちょうどぴったりということで「あのスギ板」が21年目にしてやっと出番となったのでした。やれやれ、です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA