日別アーカイブ: 2017年2月21日

厳冬期の猿穴

 

2月26日に鳥海山・飛島ジオパークのガイドの仲間と、鳥海山西面の観音森(685m)と猿穴(763m)に探索に行く予定ですが、計画&呼びかけ人の私は2月19日に下見に行ってきました。「探索行」と名うっているのは伊達や洒落ではありません。観音森は古い火口丘ですが、猿穴は約3000年前に大量の溶岩を日本海まで流出させた噴火口跡です。その噴火口も地図には猿穴ひとつしか載っていませんが、じつは周辺に他にもいくつかあるらしいことがわかりました。

昨年11月12日と16日に行って、猿穴とその東側・北東側に他の噴火口跡があることまでは確認できたのですが、それ以上は猛烈な薮に阻まれたことと時間切れのため中断せざるをえませんでした。なにしろ「道なき道の山登り」をふつうにやってきた私でも根負けするほどの密生し曲がりくねったたいへんな薮です。これでは見通しのきかない夏場は無理だろうということで、積雪のあるうちに下調べをして見当はつけておくべしとひそかに思っていました。

それで2月19日に単独で下見に出かけたのですが、だいぶ締まってきたとはいえ観音森集落から10km近くの雪道をラッセルしながら登るのは、体力の衰えを痛感する私にはじっさいのところかなりきびしい。それで前に冬期に登ったことのある観音森はパスして、猿穴にのみ向かうことにしました。おそらく1週間程度前のものと思われる足跡がついていましたが、その日は他にはいっさい人影がありません。試しにと思って入手したアルミのスノーシューを履いていったのですが、具合はいまひとつです。平地や緩斜面はいいのですが、すこし急な斜面の登行やトラバースはだめですね。やはり輪樏(わかんじき)がおすすめです。

林道と一部林間の登行とを交えて2時間40分かけてやっと猿穴に到着しました。その後1時間半ほど猿穴周辺を探索したのですが、大きな収穫がふたつありました。
1)猿穴の北側一帯にも、明瞭なすり鉢形状ではなく規模も小さいが、10カ所以上の噴火口跡がある。単なる地面の凹凸ではない。
2)猿穴をのぞく他の噴火口跡に風穴(ふうけつ)を少なくとも5カ所確認。

 

追記 2月26日にジオパークのガイド仲間3人と再度猿穴に行ってきました。小猿穴の風穴でできた雪面の穴の温度を調べたところ、外気温マイナス1.1℃に対し穴の中の雪上より1.5m下の気温は0.7℃。つまり1.8℃の温度差がありました。また猿穴の内壁北西面にも2/19にはなかった風穴らしき穴が対岸からですが見えていました。

猿穴&小猿穴の北側一帯の小さな噴火口跡群は、ちょうど標高740mの等高線に沿うような形で小高い縁が半周しており、その大きな凹みの中に噴火口跡がたくさんあるといった案配のようです。風穴による雪面の穴は前回同様いくつかありました。

新たな積雪が前回より多かったので、交替でラッセルしながらも、観音森集落から猿穴の登り口まで3時間もかかってしまい、予定していた観音森登頂は時間と体力の関係でまたもや見送りとなってしまいました。

 


猿穴までの行程の後半は観音森林道をひたすら歩く。カモシカやタヌキやテンとおぼしき足跡があるものの、獣や鳥などの姿はない。風はそれほど強くはないものの、気温はマイナス5℃くらいか。雪は吹きだまりをのぞけば10cmくらいしかもぐらず、歩くには比較的楽なほう。樹々に積もった新雪が美しい。


猿穴到着。観音森集落から2時間40分もかかってしまった(夏だと2時間弱)。積雪は3mくらいか。私のカメラでは猿穴の全景(直径約80m)は1カットには入らないので、左から右へと3枚に納めた。1枚目には遠景に川袋川上流と大平北の噴火口跡などが写っている。3枚目の右端には平野部(遊佐町杉沢地区)もすこしのぞいている。


1枚目は、猿穴の東側にあるすり鉢状の噴火口跡。直径は約25m。形状的には猿穴に似ており近接しているので「小猿穴(こさるあな)」と呼ぶことにする。南東側の縁から北東方向を眺めたもので、噴火口縁の最高点の小ピークの左下になにやら岩が露出しているところがある。その露出したところが2枚目の写真であるが、雪庇をかわして近づくとなんと暖かい空気が立ちのぼって来た。この下に風穴(ふうけつ)があって地中から暖かい空気が煙突のように上がってきているのであろう。穴の幅は2mほど。予想外の発見に小躍りする。


猿穴と小猿穴の北側一帯にも、すり鉢状のはっきりした噴火口跡ではないものの、小規模かつ非円形の噴火口跡がすくなくとも10カ所以上あった。雪面の凹凸がそれである。遠景のなだらかな稜線は猿穴の噴火口の縁。


猿穴と小猿穴の北側一帯の噴火口群のうち、猿穴に最も近い噴火口跡のところにあった風穴(ふうけつ)。幅は3mくらい。雪面にぼこぼこと穴が開いており、覗くと数メートル下まで地下道のようになっている。風穴そのものはその地面のところにあるのだが相対的に暖かい空気が常に出ているので、雪が積もらないのだと思う。


猿穴の頂上(噴火口縁の最も高いところ)付近からほぼ真西に直線で1.25km離れたところにある観音森。遠景は日本海で、観音森頂上の右斜め上にうっすらと飛島が見える。観音森上部には高木が生えておらず麓からも真っ白に見えるのは、一度皆伐されて昭和30年代くらいまで牛馬の採草地であったため。たしかに強風がもろに当たるとはいえ、それだけで樹が生えないわけではない。


同じく猿穴の頂上付近から庄内平野を展望する。日本海と庄内砂丘が鶴岡くらいまで見えている。中景に白く点々とあるのは雪をかぶった建物の屋根やビニールハウスなどであろう。