鳥海山の西の裾は日本海に没していますが、秋田県にかほ町と山形県遊佐町とで県境のはさむ両側が「三崎公園」となっています。鳥海国定公園の一部でもあります。南北1.5kmくらい、標高は約60mほどです。一帯は、ここから東に約8km離れたところにある「猿穴」という噴火口から約3000年前に流れ出した膨大な溶岩流に覆われており、凹凸が多く非常にけわしい地形です。ここを旧三崎街道が通っているのですが、昔から難所として知られていた険しい街道でした。
さて1枚目の写真は三崎公園のいちばん南側にある「不動崎」を国道7号線沿いのさらに南側の地点から眺めたものです。山の左側がおおむね枯れた茶系色なのに対して、右側はきれいな緑色です。尾根を境にしてくっきり植生が分かれていることがわかります。左はイタヤカエデ、ケヤキ、ヤマザクラ、カシワなどの落葉広葉樹、右側は常緑の広葉樹であるタブノキが主体です。
タブノキはクスノキ科タブノキ属の常緑高木で、樹高は10〜15mくらいになります。分布は本州では東北中部以南とされ、沖縄・朝鮮・中国・台湾と、比較的温暖な気候のところに生えている樹木です。別名イヌグス、タマグス、ヤマグス、ツママ。朝鮮語のトンバイ(独木舟)という方言がなまってタブ、そしてそのタブを作る木のことをタブノキと呼んだという説もあるようです。
基本的に温暖な地の樹木なので、雪がたくさん積もるところや寒風にもろにさらされる、常に気温が零下になるようなところには生育できません。「自然植生の群落」としては秋田県にかほ町金浦の勢至公園のものが最北のようです(すこし前までは飛島が北限と私も説明していたのですが、ちがいましたね)。したがって三崎公園の場合は、北西の寒風が直接当たる風衝側には生えることができず、風下の風背側にだけ生えています。にかほ市の九十九島の中でやはり風下側にだけタブノキが生えている島がありますし、女鹿や鳥崎・吹浦・箕輪、そして飛島でも同様に風下でかつ陽がよく当たる南側にしかタブノキが生えていないところが何カ所もあります。
夏場だとどこもかしこも緑一色なので、上に述べたような植生の違いは遠目には、また素人目にはほとんどわかりませんが、今の時期だと誰でもはっきりくっきり指呼できます。(※ 写真は12/22撮影)
植生だけでなくこの写真からは、猿穴溶岩が海に向かって急激に流れ落下ったようすもよくわかる。
南端の駐車場に車を置いて、海岸よりの崖の上にのびる遊歩道をすすんでいくと、ほどなく東屋がある。これより左は崖であり、東屋から尾根に向かっての右側の斜面もあまりに風が強くまた潮の影響もあるのか、ススキと低灌木のみの植生である。夏場にはノカンゾウ(野萱草)が咲き乱れるという。
東屋のすぐ近くに屹立する大岩。向こうが南だが、なにやら亀のような形である。岩かげから身を乗り出して海を眺めているような(実際に亀岩とでも名付けられていたような記憶が昔あるが)。