月別アーカイブ: 9月 2011

横堰


 

先日(9/11)、鳥海山南西麓白井新田地区の横堰(よこぜき)という用水路を探索しました。約200年前に作られた農業・生活用水路で、流水のほとんどが湧水です。

この地区の湧水はだいたいが吉出山という大昔の溶岩流の末端に位置する湧泉からのもので、南西方向に流れています。横堰はその流れに対してほぼ直角に交わる形で北西方向に流れています。すなわち地形に沿って縦に流れる湧水を、等高線に沿って横向きに集め流れるのが横堰ということです。

主だった湧泉だけでも10カ所ほどあり、その湧水を集めながら、また水田や人家等に配水しながら、およそ3km近く林間をくねりながら流れる人工の水路です。大部分は素掘りで粘土や岩がむき出しになっているので、漠然と眺めていると「ああ、きれいな渓流だな」と思うかもしれませんが、自然にできた川ではありません。

今回はこの横堰を、西側の末端になる藤井公民館近くから、東側の最上流部にあたる胴腹ノ滝まで、水路沿いに7人で歩きました。ただし水路の点検管理のためにいちおうは歩けるようになっているというだけなので、薮になっていたり足下の凹凸が大きいところもあります。登山道や遊歩道ではありません。

この探索は、しらい自然館主催の「山形学」地域連携講座の今年度第3回目の活動でした。しかし、今回私は講師役をつとめたので、写真を撮るような余裕はありませんでした。掲載した写真は別の日のものです。

作図

 

写真は当工房で作製した家具の図面です。パソコンでCAD(図面作成ソフト)で作製したものではなく、昔ながらの簡易ドラフターを用いての手書きです。A4サイズの1mm方眼紙に縮尺5分の1で描いています(大きめの家具の場合だと1/10)。それをリコピーして方眼の薄青の線を消して、本図面とします。

注文品の場合はリコピーした図面、つまり白黒の線だけの図面ではお客さんには分かりにくいので、本体部分を色鉛筆などで彩色し若干の注釈を追記などして渡します。注文品ではなく完全な単品製作のときは写真のような図面すら作らず、メモ程度で済ませることも少なくありません。当工房ではデザインを考え実施図面を描き実際に製作するのもみな基本的に同じ人間なので、それほど詳しい図面を必要としません。

もしもっと大所帯であるとか、製作のみの受託であれば、つまり図面をかく者と製作する者が異なっている場合はかなり詳しい図面が必要不可欠になると思います。全体の三面図(平面・立面・側面図など)だけでなく、部品ごとの詳細図も必要です。また、技術者ではない人が最終決定を行うなどの場合はイラストや模型も用意しなければならないかもしれません。それほどにいろいろな前準備が必要となれば、やはり専用のアプリケーションソフトを駆使して図面を描いたりモデリングしたほうが効率的でしょうね。

個人の小さな木工房でも、パソコンで図面を作成したり3Dソフトでデザインの検討を行っているところも最近では珍しくありませんが、私の場合はいまさらそういうソフトを使いこなすだけの勉強をするのもたいへんだし、出費も痛いです。他のソフト同様に、一度導入するとパソコンのOSが変わったりした場合でもずっとデータを引き継いでいけるのか不安があります。なによりも少なくとも今現在、手書きのスケッチや図面でじゅうぶん間に合っているので、このままでいいかなというところです。

分決

 

ある家具の製作途中です。素材の木から若干の余裕をもって切りだし、鉋盤などで仕上がり寸法よりやや大きめに削ります。それを積み重ねたりしないでできるだけ個々ばらばらに、風通しがよく直射日光が当たらないところに1週間ほど放置(養生)します。そのあと再度(もしくは再三)手押鉋盤と自動鉋盤にかけて各パーツの厚みと幅を最終的に決めます。これを「分決め(ぶぎめ)」と呼んでいます。

分は寸尺の分(約3mm)のことですね。写真はその分決めがすんだ材料ですが、青色のクーピー(極太の色鉛筆の芯のような筆記具)で記してある数字が厚みと幅のそれぞれミリ寸法で、矢印は鉋盤を通した際の切削方向です。

このあと図面をにらみながら長さを決めますが、最初の木取りからこの分決めあたりまでが、実は製作における最大の山場です。自然素材なので不均一な材料ですし、無欠点の材料ということはまずありませんので、強度や見栄えや材料コストを考慮しながら、適材適所に配分するのは容易なことではありません。とくに大きめの家具の場合は、どの材料をどこに持っていくかで悩みに悩んで、毎回頭の中が白くなるような思いがします。

木取りがうまくいったと思っても、色味や小さな傷や干割れや変色などは実際削ってみないと分かりません。素材の反りや曲りが少なくない場合は、ほんとうに所定の寸法に上がるのかどうかも、実際削ってみないことには確信できません。したがって、木取>一時下拵え>養生>二次・三次下拵え>分決めまで無事にすすんではじめて一安心できます。

分がきっちり決まれば、あとはいつも通りの加工を順々とすすめるだけなので、むしろ気持ち的には楽です。最終的な品物の出来不出来も分決めまでの上がり具合で半分、この後の加工で残り半分が決まります。

横切用治具 その2

昨日、横切用治具について書きましたが、これで材料を一定の長さに切ったりする場合の注意です。スライドテーブルに写真のようなストッパーをクランプして切るのですが切落し側はけっしてフリーな状態にしてはいけません。切り終わったとたんにその切落材がノコ刃とストッパーの間にクサビのように働いて、切落材がはねとんでくることがあります。またノコ刃を痛めることも。

したがって、1)ノコ刃を元の位置にもどすまで切落材を手でしっかりおさえるか、2)切り落とす側ではなく残す側の木口のほうにストッパーをセットする、のが原則です。ただ2)の方法がとれず、1)で押さえるには切落材が小さすぎて危険な場合は、3)左の写真のように材料全体を捨て板で押さえ、捨て板ごと切断します。

さらに材料の形状や寸法などによって上記1)〜3)のいずれも不可能な場合は、4)材料厚よりノコ刃の高さを0.5mmくらい低くして切り、残りの部分を手鋸などで切り落としたあとに再度丸ノコできれいに切ります。このケースでは一度材料を横切用治具から外す必要があるので、切り落とす側ではない反対側にも一時的なストッパーを設けます。

横切用治具を用いての切断ですが、仮に材料の長さが500mmでこれを約150mmずつ切り取るとします。切断して組み立てて木口が最終的に表にあらわれない場合は通常どおりに切ればいいだけですが、もし木口が表に出る場合は、5)「二度切り」します。というのはノコ刃が材料の抵抗を受けて木口の切断面に切削痕(ナイフマーク)が残ってしまうことが多いからです。木材は不均一な自然素材なので、切断されることによって内部応力が変化して多少なりとも変形しノコ刃がその力で左右にぶれるからです。

二度切りするときは最初の切断は所定寸法より片側1mm程度ずつ長く切ります。横切り用の刃はふつう縦挽刃より厚みがあり、当工房ではカネフサのAN15という厚さ3mmのチップソーを標準で使用しています。一度目の切断での残りが1mmくらいであれば3mm厚の刃ですから、切るそばから木屑になってしまうので刃はほとんど抵抗を受けることなく二度目を切り終えることができます。横切用治具と機械と刃の精度がよければ、ナイフマークは肉眼では識別が難しいくらいにきれいに切ることができます。

状況により切り落とし対象の寸法が1mmとかではなく、やむなくもう少し長くなってしまう場合ももちろん出てきます。もしそれが3mm未満=刃厚未満か、10mm以上あればそのままふつうに切断します。しかしもし3mm以上6mm未満の場合は要注意です、それは切り落とした材料が横切用治具のノコ刃の通り道に落ち込んでしまうことがあるからです。これは切落材が先述のストッパーとの間にはさまってしまうのと同様にクサビのように働いて治具や刃を痛めてしまう可能性がとても大きいです。かなり危険です。この場合は必ず、4)または5)の方法で切断します。

以上横切用治具を用いての材料の切断方法についていろいろ書きましたが、要はいかにして安全にかつ正確に切断を行うかです。今回は横切りについての話でしたが、同様の手順や注意については丸鋸昇降盤での材料の切断についてもたくさんあります。それはまた次回とします。

横切用治具 その1

じつは当工房には横切盤がありません。アマチュアならともかく、プロの工房に横切盤がないのは尋常ではありません。横切盤というのは据置型の大型電動丸ノコ機の一種で、名前の通り1m×2mといった大きな材料を台にセットして、その台ごとスライドさせて材料を切断する機械です。木材を切るための丸ノコ機械のもっとも基本的な「昇降盤」に、さらに横切り用のスライドテーブルを付加したものといっていいでしょう。

材料を縦に挽き割るのは昇降盤で行い、さらにそれを横方向に切断したり溝をつけたりするのを横切盤で行うというのが標準的な作業手順です。ただ横切盤はその構造上、とても幅をとります。機械の周囲にも材料を持って歩くだけのスペースが必要なので、横切盤1台で少なくとも4畳半くらいの空間が必要になります。当工房でも材料等をもっときちんと整理すればそれくらいのスペースを確保できないこともないのですが、手製の横切用治具でいちおうなんとか間に合うということで、開業当初から結局そのまま今日まできてしまいました。また2.7mまで切れる特大のパネルソーがあり、大物の切断はそれでできることもあってよけいに横切盤とは縁遠くなっています。

写真はその自作の横切用治具です。テーブルは50×90cmほどで、これを昇降盤の上に置き、定盤に刻まれてある蟻溝に沿って前後にスライドさせることで材料の加工を行います。見た目はひどくチープですが、切断精度は1/20mmくらい出ているのでじゅうぶん実用になります。ただし材料を押さえながら治具ごと動かすので、高速回転する刃が手元近くに位置することになり、うっかりすると大怪我してしまいます。

これまで実際これで怪我を負ったことはありませんが、正直のところヒヤッとしたことはあります。そこでより安全を期すために刃の前後にカバーを付け加えました。手元の透明なプラスチックは冷蔵庫で以前使っていた冷水ボトルをカットしたもの、奥のコの字型の覆いはクルミの板で作り、スライドテーブルに2カ所ネジ止めにしています。この横切用治具では最大で厚み約60mm、幅400mm、長さは軽いものなら1800mmくらいまでは切ることができます。ただ角度切りは原則できないので、その必要があるときはさらに別の治具を追加でセットします。

材料の長さがきっちり正確にそろっており、木口が正確に直角に切れていれば、その端部自体がその後の加工の基準面になります。いちいち墨付をしないでもストッパーに端部を押し当ててホゾの胴突きを取ったりできます。もっともストッパーのセッティングにも厳重に注意するべきことがありますが、それはまた後日書くことにしましょう。

8/24&9/3の胴腹ノ滝

 

 

上は8月24日午前11時頃、下は9月3日午前9時頃のものです。温度は8月24日が右・左とも8.8℃(気温19.9℃)、9月3日が右9.0℃、左9.1℃(気温25.9℃)でした。水量はこの夏場では最も少なかった8月13日に比べ、24日はすこし増加しています。ところが9月3日になるとまた減って、8月1日とほぼ同じ水準になっています。

毎日欠かさず水温・水量と降雨量とを観測していればもっとはっきりしたことがいえるのかもしれませんが、8月18日前後に当地では洪水になりそうなくらいの大雨が降ったので、その影響が1週間ほど遅れて24日に出ている可能性があります。その後9月3日までは雨らしい雨が雨が降っていませんので、徐々に水量が減ってきたようです。ただ湧水温は6月28日と並んで最も高くなっていますね。

胴腹ノ滝を調べていると、たびたびアズマヒキガエルに出会います。写真の個体はかなり赤味が強いですが、腹部の白黒のまだら模様がとてもおもしろいです。そっと近づけば逃げないので、コンパクトデジカメで接写ができました(カエルが苦手な人はごめんくだされ)。

新聞広告

 

きのうの朝日新聞に載っていた宝島社の見開き広告です。あまりにも有名な写真。文字は「いい国つくろう、何度でも。」の大きなメインコピー、社名の二つだけ。じつにすばらしく、かつ辛辣な広告です。

写真は1945年8月30日、輸送機ダグラスC54「バターン号」から降りてきたダグラス・マッカーサーです。『ライフ』のカール・マイダンスによる撮影ですが、大日本帝国が名実ともにアメリカ(連合国)に敗れ、新しい国としてスタートすることとなった日を象徴する写真です。

宝島社のこの広告は、もちろん東北大震災の地震・津波、ならびに福島第一原発の事故によってたいへんな打撃を受けている状況、そしてそれがいっこうに収束する気配もないままに政局や目先の損得勘定に明け暮れている状態に対する一流の皮肉も交えていると私は思います。1945年の夏がそうであったように、また明治維新がそうであったように、残念ながらわが国は自力でこの国難を乗り切るだけの力も決意も哲学もなく、またぞろ外部の力を借りなければいけないのでしょうか。

 

充電式ディスクグラインダー

 

充電式ディスクグラインダーで、マキタのGA400Dです。右後方の黒く四角いものが14.4Vのリチウムイオンの充電池で、マキタのもっとも汎用性の高いBL1430です。

100Vのコードをつないで使うディスクサンダーはべつに2台あるのですが、装着している刃はダイヤモンドカッターであったり刃研ぎ用ディスクだったりとみな異なり、そのつど付け替えるのも面倒です。それに知り合いの木工家が充電式がとても便利と言っていたので、先日購入しました。汎用のバッテリーはすでにいくつも使っているので、充電池不付で本体のみです。これだと値段は定価で17000円と、100V電源の一般的な機種とほとんど変わりません。

充電式なのでハードに長時間使用するのには不向きですが、電源コードやドラムのセッティングなしに、すぐにどこでもグラインダーを使えるのは楽でいいですね。とくに野外でのちょっとした作業にはうってつけです。けれども短所もあります。充電池がプラスになるぶん、全長が6cmほど長くなり、重量も500gほどかさみます。

当工房ではこの汎用バッテリーBL1430に対応する充電式工具をたくさん使っています。ドリル、インパクトドライバー、アングルドリル、マルノコ、タッカ、クリーナー、フラッシュライト、蛍光灯、そして今回のディスクグラインダーと、計9機種11台です。一人で作業をしているので、当然ながら一度に一台しか稼働できませんし、装着や差し替えはワンタッチ、しかもリチウムイオンタイプになる前のような電池のメモリー効果や自然放電がほぼないので、充電池は機械の台数ぶんだけそろえる必要もありません。

昔の充電式工具というと機種ごとに電池もちがえば充電器もちがうことが普通で、当工房でも一時は5〜6種類くらいの充電池と3種類の充電器を併行使用していました。汎用性・融通性がほとんどなかったからです。充電池自体の性能がいまほどよくなかったので、その機械に合わせた専用の電源を設計するしかなかったのですね。

マキタの場合ですが、7年ほど前にリチウムイオンの汎用バッテリーが発売されるようになってから、充電工具の世界はがらっと変わりました。それは一種の革命といっていいと思います。