月別アーカイブ: 1月 2011

定番の椅子

当工房にも定番といえる椅子がいくつかあります。そのなかで最近ではもっとも多く出ているのが写真の椅子です。材質はウォールナット(アメリカンブラックウォールナット)で、サイズは幅450mm、奥行455mm、高さ880mm、座面高さ380mmです。きわめてオーソドックスにしてスタンダードな椅子ではあります。

材質や、座面下の脚と脚をつなぐ貫(ぬき)の位置や方向などに若干のバリエーション、また座面の高さがお客様に合わせて変わることがありますが、全体的にはこのスタイルです。最近のスリムでスマートな市販量産品、または「工房家具」とも呼ばれる注文製作の椅子にくらべるとやや無骨かもしれませんが、私としてはこれが一つの最適解と考えています(唯一絶対的に正しいということではむろんありませんが、少なくとも私にはいちばんしっくりきます)。

まず貫は家具としての強度・耐久性を考えると欠かせない部材です。金属や一体成形のプラスチック、成形合板などであれば座板+幕板、あるいは座板のみでも大丈夫かもしれませんが、無垢の木では不安があります。貫がない場合、とくに前脚は上部の一カ所のみの接合になるわけですから。かなり大柄な方もいますし、皆が皆ていねいに椅子を扱ってくれるとはかぎりません。

座板は水平&フラットにしています。注文家具ではお尻の形に座面を彫り込んでいる例をよくみかけますが、当工房ではまずそれは行いません。長時間座る場合、寝ているときに何度も寝返りをうつように、体に無理な圧迫がかからないよう無意識のうちに座る位置や向きや姿勢を変えているはずです。その際に座面に固定的なくぼみやふくらみがあると逆にそれが邪魔で自由な姿勢がとりにくいと思います。傾斜も、ソファやイージーチェアといった「くつろぐ」ことを主目的とする椅子以外は付けません。真っ平らにすることで、読み書きや軽作業などの仕事をしやすくするとともに、踏み台や飾り台がわりにも問題なく使用することができます。同じ椅子を二つ三つ並べて、子どもならちょっとしたベッドがわりにもなりますね。

同様なことは背もたれにもいえます。幅を変えた3枚の背もたれは、平らな板を前の方(座ったときに背があたる面)だけわずかにくぼませています。半径2000mm程度の曲面です。もっときつい凹面にすると、座った最初のうちはすっぽり包まれる感じがするかもしれませんが、長い時間座っているとその曲面がわずらわしくなることがあります。座る人の体格も座り方もいろいろですから、あまり特殊にフィットしすぎないほうがいいと思っています。

写真では分かりにくいでしょうが、脚の外面のところどころに色の濃い部分がありますね。幕板や貫や背もたれの貫通したホゾをくさびで締めた跡です。乾燥材であっても完成後に温度湿度によって材木は若干の伸び縮みが生じますが、そのことも考慮してホゾ先を1~1.5mmほど出して仕上げています。さらにまた写真からは、いえ実物を見てもおそらく分からないと思いますが、幕板と貫は脚に対して2mmの大入(おおいれ)加工を施した後に、四方胴突の通しホゾ(平ホゾor小根付二段ホゾ)としています。大入があるのとないのとでは接合強度にかなりの差があるでしょう。

椅子は家具の中でも機能と耐久性が高度に要求され、かつ美しくなければなりません。よくできた椅子は一個の彫刻作品のようなものす。しかしなによりも大事なことは椅子本来の機能をきちんと満たしていることです。その余のことは重要ではあっても二の次三の次。もちろんそのことを十分に理解したうえであえて機能をいくらか犠牲にしてもオブジェとしての美しさを求めるといったことはあっていいと思います。

冬景色

毎日のように雪かきに追われています。自宅と工房と、合わせて最低でも1時間。降雪量が多いときや、工房の屋根からの落雪がはげしい時は除雪に2時間以上かかることもあります。除雪機械の導入で、以前よりは楽になったとはいえ、さすがにウンザリという気分です。

しかしわるいことばかりではありません。東北地方の日本海側は冬期間は晴天の日は極端に少ないのですが、大雪の後きれいに晴れ上がったときは思わず声が出てしまうほどの美しい光景がそこここに現れます。写真は残念ながら最近のものではありませんが、雪がたくさん降ったあくる朝の光景です。時刻は午前8時頃。陽が高くなり気温がすこし上がると樹上の雪はみな落下してしまうので、こうした絶景を味わえるのはほんのわずかな時間です。

雪は冷たくつらく嫌なものですが、同時にこの上なくきれいで暖かくありがたいものです。わざわざ遠くに出かけなくとも、日常的にそうした「美の瞬間」に出会えるのは、雪国ならではと思います。



手袋をして刃研ぎ

きのう(1/10)防水透湿素材の手袋「テムレス」を紹介しましたが、なにを隠そう、じつは先日来このテムレスをはめてノミやカンナの刃を研いでいます。私にとってはこれは画期的なできごとです。

刃物を研ぐのは微妙な手加減・指加減が必要ですから、これまでは必ず素手で行っていました。しかし冬期間はこれはかなりつらい作業です。とぎ水はすこし湯を足して暖かくできますが、刃物自体はひどく冷たくなっていますし、研いでいるうちに気化熱の作用でしょうか、指がかじかんできます。刃物をとり落としそうであぶないし、指先は鉄さびで黒くなり荒れてきます。研汁研泥で脂っ気がみな吸い取られ皮膚ががさがさ。冬になるといつもアカギレで悩まされてきましたが、最大の原因がこの刃物研ぎで、それは分かっていてもなすすべがなく、せいぜい事後にワセリンなどのクリームを塗るくらいでした。

ところがものは試しと思ってテムレスをはめて刃物研ぎやってみたら、大正解でした。薄く柔らかく弾力性があり、滑り止め加工もされているので、素手で行うのとさほど変わらない感覚で刃物を研ぐことができます。微妙な力加減の差がないわけではないので、まだ若干の不備不満はありますが、それはすぐ慣れると思います。懸念していた中研ぎのときの刃先のまくれ(刃返り)の確認も、素手で研ぐ場合よりはいくぶん大きめにしないといけないかもしれませんが、手袋をはめたままで問題なくできました。

手が濡れず、中で蒸れることもほとんどないので、長年の悩みの種だったアカギレはこれでずいぶん軽減しそうです。昔かたぎ・職人かたぎの人からは「ゴム手をして刃物を研ぐなんてとんでもない!」と言われそうですが、いいんです、私はべつに精神修養のために刃物を研いでいるわけではありませんから。

テムレス

手が蒸れにくいから「テムレス」というじつに分かりやすいというか安易というか。一昨日(1/8)に続いて作業用手袋の話です。メーカーはやはりショーワグローブで、最近マイナーチェンジした製品だと思います。全体が「裏布+発砲ウレタン層+防水ウレタン層」の三層構造になっていて、湿気は通すけれど水は通さないという透湿&防水性の特殊な素材でできています。透湿防水素材といえばゴアテックスやシンパテックスが有名ですが、まあそれと似たようなものかもしれません(値段はぜんぜん違いますが)。数値的には透湿度1157g/m2・24hrと表示されていました。

いわゆるゴム手としては薄く軽く、最初手にはめた感じではひ弱そうで不安になりますが、実際使ってみるとけっこう丈夫です。柔らかめの素材なので、外圧をうまくいなす感じでしょうか。冬でもごわごわしません。先のほう半分くらいには滑り止め加工もほどこされていますし(写真の色の薄い部分)、油分や洗剤などへの耐性も高いので、いろいろな水仕事や汚れ仕事に向いていると思います。細かい作業にも対応できました。ただし高濃度の薬品や溶剤には向いていません。揮発性ガスにも要注意です。

従来のゴム手だと外からの濡れの心配はないものの、長時間の使用や暑い時期などは自分の汗で中がぐっしょりになってしまいます。嫌なにおいもしてきます。冬は一度湿っぽくなった手袋は、次に使うときはたえがたいほどの冷たさの「氷の手袋」と化してしまいます。このテムレスの場合、それらの不快感が激減します。値段は600円弱くらい。私は用途によってLLとLとを使い分けています。

組立グリップ

ショーワグローブ株式会社の製品で、私の愛用の作業用手袋です。その名も「組立グリップ」。この手袋は縫い目なしのナイロン編地に、手の甲以外をニトリルゴムでコーティングしたもので、薄く軽く柔軟性があります。全面をコートしているわけではないので、蒸れにくくなっています。装着しても指先の感覚はかなり残るため、小さな部品の組立や細かい作業、筆記なども楽にできます。

ちょっと吸い付くくらいの感じに摩擦があるので、重い物を持っても滑りにくく最小限の握力・腕力ですみます。ニトリルゴムのコーティングは鋭利なもの尖ったものに対しても抵抗力があり、素手で触れるにはあぶないようなものでも比較的安心して触ったり持つことができます。びしょ濡れでなければ水や油や土砂などで汚れたものも大丈夫。防寒性もすこしあります。

これまでは作業用の手袋といえば、ドライなら綿の軍手で滑り止めのポツポツが付いたものが定番でしたが、汚れが染み付きやすいし、指先などもわりあいいすぐに穴が開いてしまうのが悩みでした。汗でぐちゃぐちゃにもなりがちで不快だし、かといって洗うとなかなか乾かない……。細かい作業には不向きで、はめたり外したり。

そんなときに近くのホームセンターで一昨年ほど前に見かけたのが「組立グリップ」。半信半疑ながら使ってみたら大正解でした。木工の作業・加工の8割くらいはこの手袋をはめた状態でできます。刃物の研ぎや木工部材の水引といった水仕事と、ボール盤などのむきだしの回転をともなう機械の操作以外はまずほとんどオーケーです。特に冬場の冷たい季節は大助かりです。おかげで寒い時期にはつきものだった手指のあかぎれがだいぶ軽減しました。耐久性もずいぶんあるので、むしろ従来の軍手より安上がりかもしれません。

同様の手袋は他のメーカーからも出ていますが、二三ためしてみたところ私にはショーワのこの製品がいちばんぴったりきました。サイズも手袋は私はふつうLLなのですが、組立グリップの場合は手指にぴったりフィットしてこそ命なのでLサイズです。値段はお店によりかなり違うようですが、だいたい300円弱。

私の腕時計

私が現在使用している腕時計3種類です。いずれもセイコー、オリエントといった国産の一般的なメーカーの製品で、値段もみな3万円以下のものです。

いちばん使用頻度が高いのが左のマルマン製の時計で、ステンレス製の頑丈なケースとバンドなので、仕事にも登山等の野外活動にも活躍しています。もう10年以上愛用しているので、あちこちに擦り傷はついていますが、一度も故障などはしたことがありません。精度も数ヶ月に1分程度の誤差です。あ、バンドだけ一度交換しましたかね。

カジュアルにちょっと気分をかえたいときは真ん中の赤い文字盤の時計にしたり、たまにブレザーを着るときなどはその服装に合わせて右の時計を選んだりしています。最近の電波時計やソーラー充電式ではありませんが、電池交換は3年に1回くらいですし、秒をあらそうような生活はしていませんので、私にはこれで十分です。

極端に安価な時計は、やはり精度や耐久性に難があると思いますし、見た目にもチープですが、国産の数万円クラスの時計なら問題がないでしょう。性能的にはもう十分であとはデザインですが、その点では私もほかにいろいろ気になる時計がないではありません。しかし、単なるネームや装飾に何十万も出す気はさらさらありません。他の職業ならともかく、広い意味でデザイン関係の仕事にたずさわっていながら、いわゆるブランド品の腕時計をしていたら、とてもカッコわるいと思います。たぶんそれだけでもうデザイナーとしてはアウトでしょう。

除雪機

YAMAHA(ヤマハ)の小型除雪機です。YS870Jという機種で、除雪能力は1時間あたり50トン、除雪幅715mm、投雪距離16mといったところ。エンジンは空冷4サイクル単気筒251ccで、6.3kW・8.5馬力。普通のオートバイ並みのエンジンです。除雪機というと赤く塗装されているものがほとんどですが、YAMAHAの除雪機はメーカーのカラーであるコバルトブルーで統一されています。赤色よりも新鮮で、逆に目立ちます。

工房の敷地はおよそ100坪くらいあります。工房は平屋のトタン葺きで、約50坪。その大きな屋根から落ちる雪ははんぱな量ではありません。降雪が多い日だと落下した雪で窓が塞がってしまいます。もちろんそのままでは室内がうす暗くなってしまいますし、ガラスが割れてしまうおそれもあります。また今は地方においては生活に仕事に自動車が必需品なわけですが、降った雪をそのままにしていたのではその車が出入りできません。

かくて雪かきは否応無しにしないといけない冬期間の必須作業ですが、以前は私以外にも助手やら見習やらがいたので「人海戦術」で除雪を行っていました。重労働にはちがいありませんが、数人で手分けして行えば30分くらいでだいたい終わります。ところが私一人で木工の仕事をするようになってからは、あまりにもそれはたいへんで、えらく疲れるだけでなく体のあちこちが痛くなってきました。時間的にも日によっては雪かきだけで半日以上終わってしまうありさまです。

これではいけません。除雪機はけっして安い機械ではありませんし、直接モノを産み出すわけではありませんが、雪かきに多大な時間と体力を費やしたのでは本末転倒です。弱小零細木工所にとっては胃が痛くなるような値段でしたが(約40万)、4年前の冬に、思い切って購入しました。

導入してみると、やはりいいですね。とても楽です。もちろん雪を削って投げ飛ばす刃はむき出しですし、飛ばす雪の方向や場所を選ばないと建物や車や人を傷つけてしまいます。除雪機本体の進行と雪のかき出しとその雪を飛ばすのと、同時に3〜5つくらいのレバーを操作しないといけないので、慣れないと難しいです。極端に湿った雪はシューターに詰まってしまいますし、屋根からの膨大な落雪や、大型の除雪車が道路を運行して両側に小山になった雪などを、うちのような小型除雪機で安全かつ手早く処理するのはけっこうなノウハウが必要です。

これまでたとえば2時間はかかった雪かきが、機械を導入したことでせいぜい20~30分で済むようになりました。体力的にも何分の一かです。ただ予想外だったのは、人手でやっていたときは基本的にはあるいは常識的には自分のところの敷地内とその敷地に面した道路だけでよかったのですが、除雪機を持つようになってから近隣の住人や村の人からそれよりもうすこし広い範囲の除雪を暗黙裡に期待されるようになってしまったことです。具体的には工房とは反対側の広い路側帯(幅5m以上)、地域の集会所の駐車スペース、ゴミ集積所の周辺などです。農家の方がトラクターを使って除雪をすることもあるので、私が毎日必ずしなければというほどではなく、まあ半分くらいの分担ですが。

近隣の人たちを見ていると、個人で除雪機を購入・稼働しているところはごく少数です。ご老人がたが一生懸命に手作業で雪かきをしています。たいへんだけど手でなんとかなる、若い人は日中働きに出ているからその間おじいさんやおばあさんがやる、といった感じなのです。当工房よりはたぶん経済的余裕もありそうなのですが、除雪機なんて「もったいない」ということでしょうか。

その結果、除雪に要する時間は以前と大きくは変わらず、ふつうの降雪時で1〜2時間といったところ。ガソリンが月に2000~4000円くらい。これも言うなれば地域に対するボランティア、社会貢献のひとつです。

蛇やら獣やら

旋盤(ろくろ)で削ってこしらえたトチノキの被蓋くり物です。大きさは直径10~12cm、高さは4cmくらいです。

縮みが入った材に、さらに虫穴のピンホールや不規則な変色が生じています。材料面では昨年の12/16に載せた「栃変杢角形被蓋くり物」と似ていますが、腐朽の程度はこちらのほうがすすんでいますし、変色の入り具合も異なっており、製品として使える部分はごく少なかったです。濃い茶色〜濃褐色の部分も多くは、きれいとはいいがたい感じの単なるシミでしかないのですが、ごくわずかながらそのシミがおもしろい形になっているものがありました。ヘビとかキツネとかヒツジ、カモなどの動物です。

ただこれはいい形だと思って削ってみると、どんどんその最初の形が崩れてしまい、結局ものにならないものもありました。内部が腐ってぐずぐずになっている場合もあります。また、鉱物質(石灰質?)らしい異常に硬いものが濃色部分に含まれていることがあり、加工中にカンナなどの刃物の刃がこぼれてしまうといったやっかいな面もあります。

こういった変則的な製品は、ひとによって評価・関心が大きく分かれると思いますが、それぞれが一点ものでもあり、さいわい全部お買い上げいただくことができました。ちなみに蛇は古来から水神様などとして縁起物でもありますね。

※掲げた製品はじつは一昨年に製作したものですが、前のホームページが2年間停滞したままでしたので、それに掲載できなかったものの一部を当ブログにてあらためて披露することがあります。