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繭なの?

工房の掛時計の秒針が白っぽくなっているのは前から気がついていました。針はアルミの薄板に艶消の黒で塗装しているので、不具合が生じてそれが変色してしまったのかと考えていたのですが、しかし最近その白さが尋常ではありません。

それで時計を壁から外して確かめてみたのですが、驚愕の事実がそこにありました。なんと秒針の表面がなにかの糸で隙間なく覆われています。じつに緻密で見事な仕事ぶりです。極細の細い糸でできているので蛾などの昆虫や蜘蛛のしわざかもしれません。ひょっとしてこれは繭ということでしょうか。ペーパーナイフの先でその白い皮膜の一部をはいでみると下から黒い塗装面が無傷で出てきましたので、塗料の変質ではないことは明らかです。それにもし変色などであるならば時針や分針も同様に白っぽくなるはずです。

それにしても動いている秒針だけを「そいつ」がせっせと網掛けするとはなんとも不思議です。ちっ、ちっと小刻みに1秒ごとに動くことが逆に「そいつ」の本能を刺激するのでしょうか? ぜひその作業風景をこの目で観察してみたいものです。「そいつ」に心あたりのある方はぜひ教えてください。

この時計以外にも秒針がむき出しで稼働中の時計は工房にあと2台あり、あらためてそのつもりで見ると、写真の掛時計ほどではありませんがやはり秒針だけが白っぽくなっていました。

 

かきかた鉛筆

 

家具作りにも木軸のふつうの鉛筆を使います。デザインを考えたりラフスケッチを描いたりするさいの必需品ですし、製作の途上でもなにかと出番が多いです。加工の最終的な目安となる線(墨)は、より精度が必要なので細いシャープペンシルでひきますが、おおざっぱな削りや切断といった作業や部材の名前や向きなどをしるすには六画軸の通常の鉛筆を用いることが多いです。

その鉛筆の残り本数が少なくなったので文具売り場に行ったら、上のような鉛筆が置いてありました。三菱鉛筆の「uni★star」というシリーズの「uni Palette」という商品です。パレットという名前からもうかがわれるように黒鉛の鉛筆ながら軸が何色にもきれいに塗られています。暖色系統と寒色系統があるらしく、HBの暖色と2Bの寒色をそれぞれ一箱ずつ購入しました。値段は定価だと500円かな。

箱のラベルに「かきかた」という文字もあるので、どうやら小学生低学年などを主な購買層として想定しているようです。しかし、これは私のような「もの作り」の現場にいる大人にとっても非常に魅力的な鉛筆といえます。机上の仕事ならともかく、実際の製作は木屑や木片や機械・道具が散乱する中で行われることがふつうなので、鉛筆もいわゆる「大人っぽい」色調、つまり小豆色や暗緑色やエコロジー的な無着色のカラーリングではたちまち行方不明になってしまうおそれがあります。その点この「uni Palette」のような鮮やかな色の鉛筆ならとても目立つので所在がすぐに分かります。紛失もしにくいでしょう。

同種の黒鉛筆ながら、まるで色鉛筆のように軸色を塗り分けるという発想は、一種の「コロンブスの卵」といっていいと思います。私としてはさらに欲をいえば、2Bが赤系統、Bが黄色系統、HBが緑、Hが青、2Hが紫にし、それぞれ一箱6×2本セットとすればその6本が赤なら赤の範囲で微妙に色調を変える。そして30本全体ならべるとなめらかな諧調を描く、くらいにすれば完璧です。ただそれだとコストがかかりすぎて「かきかた」鉛筆の範疇・価格では無理でしょうね。

 

角ノミの刃研ぎ

ホゾ穴などの四角い穴をあけるときは角ノミ盤という機械を用います。200V三相交流電源でうごく機械で、床置きで設置し高さ155cm重量は300kgほどあります。穴をあけるのは基本的にはボール盤と同様にドリルを回転させて行うのですが、写真のように四角い中空のノミ(ケース)と、その穴の中を高速回転する専用のキリ(内錐)とが常にワンセットになっています。

ノミを強く押し付けて材料に切れ込みを入れ、そのそばからキリが削り取っていくことで四角の穴をあけていきます。穴の大きさ=ノミの大きさになるので、当工房でも3.2mmから30mmまで20種類近くのサイズの角ノミの刃を用意し、必要に応じて交換していきます。ホゾ穴はたいてい真四角より長方形の場合が多いのですが、材料を載せた台を前後左右ハンドルで移動させることで、縦長あるいは横長の穴を正確にあけていくわけです。

写真の角ノミは 15mmの大きさのものですが、キリが黒っぽくなっているのは穴をあけたときに摩擦で木が焦げたためです。硬めの木に深い穴をあけるのはただでさえそうとうの抵抗があるのですが、切れ味の劣った刃で無理に穴をあけると不正確でみっともない穴になるだけでなく、最悪の場合煙を出し火事のおそれさえあります。そのためすこし切れがわるくなってきたらすぐに刃を研ぐようにしなければなりません。

キリは先端の底刃と剣先の2カ所を目立てヤスリで、ノミは先端の内側を円錐形の回転砥石で研削します。ノミの外側は研いではいけません。ホゾとホゾ穴とは0.1mm以下の精度で応対させるので、うっかり外側を研磨してしまうと穴の大きさが変わってしまいます。ノミは深穴をあけても「抜け」がいいように、ほんわずかですが先端のほうが広がるような形状にメーカーで作ってあるので、その形を崩さないようにします。

研ぎの頻度は、材料の種別やホゾ穴の数や大きさに左右されますが、快適な切れ味を保つには1〜3台程度の椅子やテーブルの加工が終わるごとに研がなければなりません。手持ちの刃物と同様に、うまく研がないとかえって切れなくなり保ちもわるくなるので、やはり熟練が必要です。

 

後頭部

ゴルゴ13だったら「後ろに回るな!」バシッ!といったところですが、後頭部はなぜか無防備感があり愛嬌があります。わが家のトントは白地に茶虎とキジ虎とアメリカンショートヘアの太い縞とが入り交じったような紋様の猫で、雑種の典型ですが、耳のところはほぼ左右対称の模様になっています。それがまたとても愛らしいと思います。

スカイブルーの首輪はビニールレザーにガラス粒のダイヤもどきを埋め込んだもので、同じ型で色が淡いピンクのものもあります。さらにまた茶色のヒョウ柄と白黒の雪ヒョウ柄のもあって、ときどき「着替えて」います。もちろん何かに強くひっかかったときには外れるセイフティー金具付きの首輪です。

9月26日に17歳半で死んでしまったミャースケは、首輪をたいへん嫌がり結局いちどもまともに装着したことはなかったのですが、トントもマーブルもなぜだか仔猫のときからぜんぜん平気。いずれも室内飼いにしているのですが、なにかの拍子に戸外に出てしまう可能性もあり(実際二三度出たことあり)、その際の迷子札であり飼い猫であることの目印にもなるので、やはり首輪は欠かせません。

 

ペーパーウェイトの注文

 

愛知県の方からペーパーウェイトDタイプの黒柿のご注文をいただき発送したところ、とても喜んでいただきました。写真はその現物ではありませんが、同じタイプの品物です。

この型のペーパーウェイトはこれまで約160本作っていますが、材質は黒柿をはじめ、セン、タモ、トチ、クリなどです。いずれも縮みとか波杢とかスポルトといったちょっと変わった材料のもの。形状も細部にいろいろと工夫はあるのですが、大雑把にいえば長さ180mmの棒状のものなので、通常のノーマルな材料では変化に乏しく面白みに欠けます。ペーパーウェイトとしての実用的な機能を満たすだけでなく、天然の木のもつ魅力や幻妙さをお伝えしたいというねらいもありますから。

ただ、重しとして中にステンレスの丸棒を封入するために一度材料をまっぷたつに切って溝を彫っていますから、そのことで内部応力が変わりひずみが出ます。ふつうの通直な材料でもそうした変化が生じるのですが、杢のよく出た材料はそれだけ物理的には不均一不安定なので変化の度合いも大きく、結局もとに戻らず製品にならないものが2割前後生じてしまいます。写真のペーパーウェイトも側面に小さなひびが入っていることが塗装時に分かったので、工房の事務所で自家用として使っているものです。

これまでも何度か書いていることですが、黒柿は年々ものすごく貴重&希少な材料になっています。孔雀杢に代表されるような黒い紋様が微細にバランスよく出ているもの、しかも薄板ではなく彫り物などにも適する程度の厚みと幅・長さがあり、なおかつ乾燥していてすぐに細工できるような黒柿となると、目の玉が飛び出るような値段です。世界的にみても現在もっとも値段の高い材木のひとつであることはまちがいありません。最上のものは立法メートル換算で3000万くらいします。

黒柿はカキノキの古木にごくごく稀に出現する銘木で、古来から銘木中の銘木として珍重されてきましたが、柿渋の利用が激減するとともにカキノキの大木もいまやほとんどなくなってしまい、必然的に黒柿も消滅しつつあります。あまりにも値段が高いので、当工房のような零細弱小木工房ではなかなか買えませんが、ペーパーウェイトに仕立てた場合でもお客さんのいちばん人気はやはり黒柿なのです。

まあ材料として希少価値があることと、それでなにかをこしらえた場合にその「製品」や「作品」の良し悪しはまた別ですし、自分が気にいるかどうかはさらにまた異なる話です。黒柿はむろん私自身もとても好きですが、他にも魅力的な木はたくさんあります。ペーパーウェイトに仕立てて面白い木というのは、たいてい材料単価も高いことが多いのですが、すこしずつそういう木を集めていますので、製品化したらこのブログで順次披露していくつもりでいます。

 

明がらす

先日研修で遠野市に出かけた際に、宿泊先の売店で「明がらす」という名前(登録商標)の菓子を買ってきました。写真はその容器の紙箱ですが、名前もロゴもパッケージもすぐれたデザインだと思います。

このお菓子は明治時代初めに、まつだ松林堂の初代松田隆さんが「くるみ糖」と称して製造販売。その後、二代目松田桂次郎さんが、くるみの切り口が、明け方に飛ぶカラスのようだということで「明がらす」と命名したといいます。

菓子自体はみな食べてしまったので(大半は私。甘党ですから)、下の写真はまつだ松林堂のHPから拝借したものですが、周囲の凹凸は日の出を、ゴマのつぶつぶはスズメを、そしてクルミの断片は3本足のカラスをイメージしているそうです。3本足のカラスといえば「八咫烏」(やたがらす)で神様の使い、縁起物ですね。

「明がらす」は米粉・ゴマ・クルミを主原料とし、保存料や着色料といった添加物をいっさい加えていない、素朴かつ奥行きのあるお菓子ですが、単に味の云々だけでなく、上記のような「物語」や「背景」が非常にうまくかもしだされていると思います。私自身、このお菓子はこれまで食べたこともなく名前もまったく知らなかったのですが、売店で数ある土産品の菓子類のなかで最初にかついちばん目を引いたのがこの「明がらす」でした。伝統的な元祖何々というと、時代錯誤で野暮ったい、あるいは大げさな見せ方のものが少なくないのですが、これは抑制がきいていて簡潔でとてもいいと思いました。

十川眞紀さんの織物

 

もう終わってしまいましたが、先月23日から29日まで酒田市の清水屋デパートの画廊で、十川眞紀さんの個展が開かれました。十川さんは酒田市在住の織り作家で、とりわけモダンタイプのタピストリーでは第一人者です。写真はそのときのダイレクトメールで、きびそ(生皮苧)という絹の糸を用いたタピストリーの一部を拡大したものです。

きびそは蚕の繭のいちばん外側の部分の糸、つまり蚕が最初に吐き出す糸で、太さが不揃いなために一般には品質の劣るものとして用途も限られます。しかし逆にそのランダムな風合いがおもしろいということで、それをうまく活かしてタピストリーやバッグやショール、マフラーなどを作られています。

ギャラリーにはフェルト製のバッグや帽子なども飾られていましたが、私自身はやはりタピストリーがとても見応えがありました。モチーフはいずれも太い十字=クロスを繰り返し展開したもので、白や黄や赤など、基本的な色合いもさまざまでしたが、なかでもDMにも使われた黄緑色のタピストリーがいちばん私は気に入りました。ゆるやかなグラデーションを描く地の中に浮かぶクロスが、春先に萌えいづる草の芽のようでもあり、幾何学的パターンの非常に現代的なコンセプチュアルアートのようでもあります。いいなあ〜。

 

鳥海山二態

仕事の打ち合わせで今日は朝早くから山形市へ行きました。終日よく晴れていたので、標高がある程度高い山はみな雪をかぶって上のほうが白くなっているのが分かりました。ふだんだと車を運転しながらではどれがどの山なのか見当がつきにくいのですが、今日は一目でそれと区別できるくらいによく見えました。鳥海山はもちろんのこと、丁岳、萱森、加無山、甑山、神室山、小又山、火打岳、杢蔵山、船形山、面白山、黒伏山、大東岳、神室岳、雁戸山、葉山、月山、湯ノ沢岳、母狩山、弁慶山、八森、といった山々です。

写真上は遊佐町から眺めた午前7時頃の鳥海山、下は真室川町の国道344号から眺めた午後3時頃の鳥海山です。数日前まではまだ上のほうだけが白かったのですが、今日はほとんど麓まで全面雪をかぶっています。真室川町からの写真は南東方からみた鳥海山ですから、いつもは南面〜西面だけ見ている私にとっては、ぜんぜん別の山のような感じがします。鳥海山は複合成層火山で、単体の山としては巨大といっていい山なので、眺める方向によって姿形がずいぶん変わり印象がそれぞれ異なるあたりも、大きな魅力のひとつといっていいと思います。

 

 

大槌町再訪と民泊研修 2

大槌町&遠野市行の2日目(11/26)です。前日泊まったたかむろ水光園をあとにして、まず「遠野ふるさと村」に向かいます。ふるさと村は1997年に開園した野外博物館で、広大な敷地に古い南部曲り家を移築しかつての山里のようすを再現しています。

ここのビジターセンターで、NPO法人 遠野山・里・暮らしネットワーク、遠野民泊協会の方から、約20年にわたる一般農家等の宿泊者受け入れについての説明をおききしました。現在110軒の農家が受け入れ可能だそうで、南隣の住田町にもさらに34軒の協力がある。とくに4〜5年前から民泊が盛んになり、ワーキングホリディというスタイルやドライビングスクールとの提携など、さまざまな取り組みをされているといいます。遠野市全体が一大観光地みたいなものですが、お盆の頃は帰省客も含めて人口が2倍くらいになるそうですから驚きます。またいわゆるIターンやUターンの人も増えており、農業を始めたり、インターネットや交通網の普及を利用しての翻訳業や作家、写真家といった仕事の方も少なくないようです。

質疑を含めて1時間半ほどのレクチャーでしたが、宿泊等の受付窓口の仕組みや料金やその精算方法、旅館やホテル等とのかねあいなど、かなり詳細な実態まで教えていただき、たいへん参考になりました(まあ遊佐町と遠野市とでは直接的な競合はないでしょうし)。

それが終わってからは園内の曲り家で、こし餡を餅米粉で卵形にくるんだ湯団子の「けいらん」という、昔ながらの郷土食(菓子)作りを体験し、昼食もいただきました。私の感想では昨晩のたかむろ水光園のものよりおいしかったです。下の写真は炭俵を積んだ荷車ですが、車軸以外は木製で、こういった型のものは珍しいのではないでしょうか。

 

午後からは遠野山・里・暮らしネットワークの事務局の方の案内で、民泊に参加している実際の農家を2軒訪問しました。奥寺晴夫さん宅と菊池喜久子さん宅ですが、これも宿泊やワーキングホリディの農作業手伝いの実際のようすを具体的に説明していただき、非常に参考になりました。とりわけ印象的だったのは奥寺さんの「自分よりもっと技術知識にひいでた人はいるが、子どもや学生への応対が上手とは限らない」「きちんと説明すれば刈払機やトラクターの操作もやってもらってだいじょうぶ」といった言葉です。たいへんだから心配だからやらないのではなく、前向きに解決していこうとする姿勢がすばらしいです。スポーツでいえば一流のアスリートよりも一流のコーチやインストラクターがいまは必要なんだということでしょうか。

午後2時半くらいに遠野市をあとにして帰路につき、7時半頃に遊佐町にもどってきました。来るときとちがって天気もよく、晩秋の景色を眺めながらのロングドライブでしたが、いろいろな意味で収穫があったと思います。私は往路・復路ともにパネルバンに同乗したのですが、運転は他の人に全部やってもらったので恐縮しきりです。ずっと以前は2トン4トンのパネルバンを自ら運転して東京あたりに家具の納品に行ったりしていたんですが、もう自信がないです。

 

11/19&29の胴腹ノ滝

 

 

鳥海山も上のほうはすっかり雪に覆われてしまいましたが、写真上が11月19日昼過ぎ、写真下が11月29日朝の胴腹ノ滝です。滝の湧水の温度は19日は右・左とも8.8℃(気温13.1℃)、29日が右8.8℃、左8.7℃(気温7.1℃)です。水量は若干の変動はありますが定かではなく、ほぼ同じとみていいでしょう。晴れた日の日中以外は湧水のほうが気温よりも温かくなってきました。「湧水は冷たい」という一般の常識がすでにくつがえっています。

昨年の例にならうなら、積雪がもっと下のほうにまでおよんでくると大きな変化があると思いますので、推移に注目したいと思います。