愛知県の方からペーパーウェイトDタイプの黒柿のご注文をいただき発送したところ、とても喜んでいただきました。写真はその現物ではありませんが、同じタイプの品物です。
この型のペーパーウェイトはこれまで約160本作っていますが、材質は黒柿をはじめ、セン、タモ、トチ、クリなどです。いずれも縮みとか波杢とかスポルトといったちょっと変わった材料のもの。形状も細部にいろいろと工夫はあるのですが、大雑把にいえば長さ180mmの棒状のものなので、通常のノーマルな材料では変化に乏しく面白みに欠けます。ペーパーウェイトとしての実用的な機能を満たすだけでなく、天然の木のもつ魅力や幻妙さをお伝えしたいというねらいもありますから。
ただ、重しとして中にステンレスの丸棒を封入するために一度材料をまっぷたつに切って溝を彫っていますから、そのことで内部応力が変わりひずみが出ます。ふつうの通直な材料でもそうした変化が生じるのですが、杢のよく出た材料はそれだけ物理的には不均一不安定なので変化の度合いも大きく、結局もとに戻らず製品にならないものが2割前後生じてしまいます。写真のペーパーウェイトも側面に小さなひびが入っていることが塗装時に分かったので、工房の事務所で自家用として使っているものです。
これまでも何度か書いていることですが、黒柿は年々ものすごく貴重&希少な材料になっています。孔雀杢に代表されるような黒い紋様が微細にバランスよく出ているもの、しかも薄板ではなく彫り物などにも適する程度の厚みと幅・長さがあり、なおかつ乾燥していてすぐに細工できるような黒柿となると、目の玉が飛び出るような値段です。世界的にみても現在もっとも値段の高い材木のひとつであることはまちがいありません。最上のものは立法メートル換算で3000万くらいします。
黒柿はカキノキの古木にごくごく稀に出現する銘木で、古来から銘木中の銘木として珍重されてきましたが、柿渋の利用が激減するとともにカキノキの大木もいまやほとんどなくなってしまい、必然的に黒柿も消滅しつつあります。あまりにも値段が高いので、当工房のような零細弱小木工房ではなかなか買えませんが、ペーパーウェイトに仕立てた場合でもお客さんのいちばん人気はやはり黒柿なのです。
まあ材料として希少価値があることと、それでなにかをこしらえた場合にその「製品」や「作品」の良し悪しはまた別ですし、自分が気にいるかどうかはさらにまた異なる話です。黒柿はむろん私自身もとても好きですが、他にも魅力的な木はたくさんあります。ペーパーウェイトに仕立てて面白い木というのは、たいてい材料単価も高いことが多いのですが、すこしずつそういう木を集めていますので、製品化したらこのブログで順次披露していくつもりでいます。
「ペーパーウェイトの注文」への1件のフィードバック