日別アーカイブ: 2016年9月17日

青猫創刊号

 

「シテ句会」として隔月で行ってきた句会を、今年4月から毎月の開催とし、また参加者がシテの会員以外のメンバーが多くなってきたことから句会の名称も7月の句会から「青猫句会」に改めました。

そこで青猫句会のメンバー(現在9名)がそれぞれ今まで句会その他で作ってきた俳句等を一冊の同人誌にまとめることにしました。私自身は季刊『シテ』本体に毎号俳句を12句載せていますし、自分のブログでも毎月3回程度自作の俳句+短文を発信していますが、そのような発表媒体をお持ちでない方も多いので、他者への披露と批評をいただくべくきちんとした印刷物にしたらどうかということになったものです。

今回はその1号=創刊号というわけですが、7名が俳句を各11句、2名が俳句に関係する小論、1名が写真を載せています。内容は全部はとても紹介しきれないので、各人から1句ずつまたは一部のみご紹介します(敬称略)。なお『青猫』は当面は不定期刊行ですが、できれば年2回くらい発行できればいいなと考えています。

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最初は私で「空深く」と題する11句。この2年余の間に句会に出したり『シテ』に載せたものの中から選句しています。昔も今も変わらぬ自然というのはあり花鳥風月ももちろんいいのですが、そうでない句も詠みたいとつねづね思っています。表紙にも使っていただいた<虫売りの鳴かぬ虫懐に放つなり>はどうでしょうかね。虫売りといっても昨今のカブトやクワガタなどではなく、鈴虫や鉦叩といった鳴声の美しい秋の虫をさしています。懐に放つ、とはどういう意味かは読者にお任せします。

次は佐藤歌音の「つばめの家」11句です。タイトルにもなった<今年またつばめの家となりにけり>もいいのですが、<給食のやや小ぶりなる桜餅>をあげます。じつは元の句に私が手を入れています。給食と桜餅との組み合わせはとてもおもしろいので、句意をいかしてすっきりさせました。実際には給食だからといって特別小ぶりということはないと思うのですが、もっと食べたいと希求するほど美味しかったのでしょう。

3番手は大場昭子「逢ひたきは」11句です。<はつものの豆ごはん炊きまみむめも>は座五のまみむめもが、白いご飯のなかに点在する薄緑色のエンドウ豆をイメージさせます。白と緑の対比がたいへんきれいで、韻を踏むだけでなくやはりここは「ま行」でなくてはいけません。

4番目は相蘇清太郎「目覚め」11句。<黒猫のごおと息せり星月夜>はちょうど私も8月18日に14歳の愛猫をみとったばかりでもあり、ちょっとこたえました。たしかに最後は大きくゆっくりと息をして、それでぱたりともう動かなくなるんですね。死んで星になるなどとは私は夢想はしませんが、きれいな星空が、長年かわいがっていた猫を失った哀しさをいっそう強く感じさせます。

今井富世「稲光」11句からは<稲光きのこ買わずに帰りけり>。稲妻が光ったことと茸との関係はなんだかよくわかりませんが、よほど近くで激しい雷光があったのでしょうか。あまりにも美しい夕焼けや激しい夕立、狂おしい地吹雪など、予期しないような自然のドラマに遭遇すると、つい世情の瑣事など忘れてしまいますね。

南悠一「およそそれから」11句。<数式の解かれ谷は山吹となす>は一見あれっと思うような句ですが、春先にあの黄金色の山吹の群落を思い起こすと、さもありなんという気がしました。それも不意にそうした光景に出くわすと、難問の答えが出たときのような驚きと開放感があります。現代的な句。

俳句の最後はあべ小萩「風潤む」です。<冬麗のかたちに楷のたたずまひ>ですが、楷は東南アジア原産のウルシ科カイノキ属の落葉高木で、孔子廟に植栽されているなどにより「聖なる学問の樹」とも。私は知りませんでしたが、そういった背景を含んでの冬木の端正な姿ということでしょうか。伝統的俳句を長く詠まれているとのことで11句全体が安定的な詠みぶりですが、あえていえば優等生的ですこしもの足りない気がします。

さて小論も2篇あります。ひとつは齋藤豊司「ある映画館の始まりと終焉」。氏の連綿たる映画との関わりを披瀝しているのですが、酒田市のかつての映画館「グリーンハウス」のことや俳優成田美三樹夫、久保田万太郎の句<湯豆腐やいのちのはてのうすあかり>などが登場します。有名な映画のワンショットなどは俳句の世界ともよく通じるものがあります。場面を提示するだけで、それをどう解釈するかは観客にまったく委ねられているという点で。

もうひとつの小論は私の「俳句の五七五という定型」です。定型のもつ利点を飯田龍太の<一月の川一月の谷の中>といった有名句を拝借しながらざっと述べたものですが、けっして五七五を絶対視しているわけではありません。定型でない句や、季語についての思考は追って述べていくつもりでいます。

『シテ』は文章のみの冊子ですが、『青猫』では写真も積極的に展開しています。表紙を含む今回の3点の写真は土田貴文。ヤグルマソウの花序のアップ、窓辺の雨、高圧電線の鉄塔、いずれも詩情のあるいい写真です。私のコンデジでは絶対撮れません。

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『青猫』を読まれたい方は http://www.e-o-2.com/ までご連絡ください。また青猫句会は毎月第三水曜日の18:30~21:00に本間美術館近くの「アングラーズカフェ」にて開催しています。見学だけでも可能ですので興味関心のある方はぜひおいでください。