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コーヒーブレーク 28 「イナイ人ハ」

 

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夕焼けや万年後には蛞蝓之國

通称「俳句甲子園」と呼ばれている全国高校生俳句選手権の昨年の最優秀句は広島県立広島高校・青本柚紀さんの<夕焼けや千年後には鳥の国>である。いい句だとは思うが、「最優秀賞」というのはどうなんだろうね?という気がする。文学の世界では高校生ともなれば大人扱いにしてしかるべきだろうから、もっとすごい句はなかったのかとつい考えてしまう。/さて人類は千年後にははたして存在しているだろうかというとまあ微妙なところか。近代以降のわずか200年程度でどれだけ世界が(地球が)変貌したかを思うと、千年先というのは予想もつかない感じではある。ただ上の青本さんの<千年後は〜>の句では鳥類が繁栄しているように詠まれているが、それはないだろう。農薬や放射能の汚染でももっとも影響を受けやすい生物のひとつはまちがいなく鳥類のように思われるので、人類にとってかわる生き物はもっとべつなものではなかろうか。まして一万年後ならね。/上記の私の句は言うまでも青本さんにささげるオマージュです。ついでに言うと俳句にかぎらず「高校生らしい作品」「高校生らしくない作品」云々という批評は私は大嫌いだ。それは高校生をばかにしているだけです。

イナイ人ハ手ヲアゲテ八月十五日

小学生から高校生くらいまでを対象に、私は野山へガイド役としてくり出すことがときどきある。私自身は言わないが、子どもたちの班長や気をゆるした引率の教諭などが「はい、いない人は手をあげてください」などといって点呼をとることがある。むろんそれ自体はたんなる冗談であり、全員がそろっていることが点呼をとるまでもなくわかっているからこその言葉なので、べつに目くじらを立てるようなことではない。/しかし彼らといくらも年のちがわない若い人が先の大戦ではおおぜい兵隊として召集されて、その多くが死んだ。あるいは爆弾や栄養失調や疎開先での抑圧等により小さな子どもたちがたくさん死んだのだ。

るりたてはきべりたてはと翔びきたる

ルリタテハ、キベリタテハともわりあい珍しい蝶で、しかも非常に美しい蝶である。それぞれ漢字では瑠璃立羽・黄縁立羽と書くが、前者の翅は濃紺の地に外縁近くに空色の太目の帯が前後に入り、後者は小豆色の地に外縁の黄色の太い帯とそのすぐ内側の青い斑紋。他に似た色彩模様の蝶はなく、かなり離れた位置で遭遇してもそれとすぐわかる。/日本産の蝶は220種余りしかなく、さらに東北地方くらいに地域を限定すれば実際に遭遇可能な種はずっと少なくなる。またそれぞれに翅に特徴的な色合いや模様を持っているので、顕花植物と同様に種の区別がしやすい。したがってその気があれば、小学生くらいでも蝶を見分けるのはそう難しいことではない。

 

写真はヤマボウシの果実。初夏に白い大きな花を咲かせるミズキ科の樹木で、実は赤く熟すと甘みがあっておいしい。

超仕上鉋盤の刃のケース

 

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当工房には丸仲鉄工所製の古い超仕上鉋盤があります。約30年前に工房を開設しその後1年ほど経って、出入りの木工機械屋さんが「中古の出物があったから」と言って持ってきたものです。運搬設置費込みで12万くらいしたと思いますが、最大250mm幅まで機械で仕上げ削りができるのは非常に魅力的でした。(刃のセット角度90度の場合。)

通常の自動鉋盤または手押鉋盤は円柱状の鉋胴に2枚または3枚の刃を仕込んだもので、その鉋胴がモーターの力で高速回転することで材料をすこしずつ削っていきます。したがっていくら切れのいい刃であっても多少なりとも波状の削り肌になるわけで、そのままでは仕上面には使えません。

それに対し超仕上鉋盤は、定盤に固定された刃に対して材料をベルトで送って削るので、原理的には手鉋で材料を削るのと同じです。むしろ刃の幅が手鉋よりずっと広いので刃の段差が刻まれることもないし、一定の圧力と速さで材料を削るので非常にきれいに削ることができます。逆目もたちにくいです。ただし削ろうとする材料自体が基本的に平面・通直でないとうまく削れませんし、当然刃の幅より広いものは削れません。その点は多少の反りやねじれ、幅広の板であっても臨機応変に削ることの可能な手鉋とは違います。

手順としてはまず自動鉋盤で一定の厚さと平面を出した材料を、ロールの跡などの凹みや傷を水を引いて膨らませ、乾いたらそれを一枚ずつ超仕上鉋盤にかけます。比較的幅がせまく、また数が多い場合は、手鉋で削るのとは比べものにならないほど短時間かつ少ない労力で材料を仕上げることができます。

この超仕上鉋盤用の刃はつごう3枚もっているのですが、専門の研磨店に出すときは最初に買ったときに入っていたボール紙のパッケージに入れて渡します。ところが後から追加で購入した刃でも十数年経つので、いいかげんそのパッケージがぼろぼろになってきました。このままではせっかく研いだ刃が傷つくおそれも大きいし、見た目にもちょっと恥ずかしい。

そこで専用の入れものを自作しました。材料はベイヒバで、8×60×232mmの大きさの刃を、一枚ずつ個別に余裕をもって収納できる大きさにしました。蓋は箸入れのようなスライド式です。写真の下が外観で、上が蓋をとって中に刃を入れたところです(研ぎ上がったものを実際に中に入れるときは紙に包んでから入れます)。

数年来の課題がひとつ解決しました。これで安心して研磨依頼と保管をすることができます。

 

O様邸リフォーム工事 その15

 

山形県庄内町のリフォーム工事は先月8月28日に「完成引渡」を行い、翌々日くらいからOさんご家族が生活されています。しかし木工事の遅れと、ガラスがかなり特殊なものであったために、5枚ある内部木製建具は後回しになっていました。

完成引渡の時点ではガラスのかわりにベニヤ板をはめこみ、それを使っていただいたのですが、9月になって入荷してきたガラスから順次、本来の建付と納品を行いました。これでやっとほんとうの完成ですが、その5枚の木製建具についてすこしくわしくご紹介します。デザインと製作は私(オーツー:大江進)です。

トイレと洗面脱衣室の戸

きわめてプライベートかつ他者の視線を避けたいトイレや洗面脱衣室といった部屋の戸は、基本的にクローズドにするのがふつうです。せいぜい使用中かどうかがわかる程度の型板ガラスやステンドグラスに似たものをはめた小窓を上方に設けるくらい。出入口だけでなく外窓もそれに応じて小さめにすることが多く、結果として暗くなり密閉感の強い空間になってしまいます。昔のトイレ(便所)などであればにおいの問題などもあり、また戸の面材の種類がきわめて限られていましたのでやむをえない理由もあるのですが、水洗の便器となり24時間運転の換気扇が着くようになっても、昔からのイメージはなかなか変えることがむずかしいようです。

しかしトイレも洗面脱衣室やお風呂もほとんど毎日使いますし、快適な生活をするのに欠かせないものです。ここで過ごす時間は実際計算してみるとかなり長いものになると思います。したがって必要にせまられてやむなく使う空間ではなく、そこにいること自体が一種の快感であり心が休まるような空間であればどんないいいでしょう。新築であれば間取りの段階からいろいろそれに向けて工夫することができますが、リフォームの場合は建物の構造から改変し間取りを変更することは強度的・コスト的にたいへん難しく、選択肢が限られてしまいます。

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そうした中で効果的なのはやはり窓や戸です。従来の固定観念にとらわれずに一から考えてみれば、要するに他の空間ときっちりと仕切ることと、視線をさえぎることができればそれでいいわけですね。ということでガラスです。もちろん透明なガラスではなく、照明や外光を必要なぶんだけ透過または遮断できる乳白色のガラスを採用しました。5mm厚の透明なガラスの片面(室内側)にセラミック塗料を焼き付けした特殊なものです。光線の遮蔽度は何段階かあるのですが、今回のトイレと洗面脱衣室に用いたのは約半分をさえぎることができるものです。また焼き付け塗装をすることで強化ガラスとなり、ふつうのガラスより丈夫で万一の破損の場合も破片が鋭利にならないので重大事故を避けることができます。

いいことづくめのようですが、はっきり言って面積あたりの単価は通常のガラスの数倍しますし、ガラスメーカーの特定の工場でしか作れないので納期がそうとうかかります。今回はお盆休みが間に入ったこともあって、注文してから入荷するまでちょうど1ヶ月かかってしまいました(通常でも3週間だそうですし、下記の強化型板ガラスの場合でも2週間)。

写真1枚目は トイレのドア。袖壁なしのフルオープンのドアです。2枚目は洗面脱衣室の引き戸で戸袋収納式です。ドアのほうの把手はオリジナルで作製したアメリカン-ブラック-ウォールナット製のもの。引き戸の引手はステンレス製のシンプルな市販品です。

せっかくのガラスですのでそれを最大限活かすように木枠は周囲の4辺のみで、中桟などはいっさいありませんし、枠の寸法も強度的に安心できる範囲内でできるだけ細めにしています。面取りも複雑な飾り面をほどこしたようなものではない、ごくあっさりしたものです。

リビング&ダイニングと廊下との戸

今回のリフォーム工事の対象外のリビングから、トイレや2階への階段などに行くときの引き戸ですが、以前の後付けの蛇腹式のドアを一本引きの全面ガラスの引き戸に変更しました。廊下側に引き込めるので戸袋はなしです。写真はリビング側から写しています。もう一枚は新しくなったキッチン&ダイニングルームから、やはりトイレや2階に行くときの引き戸で、同じく四方枠+全面ガラスですがこちらは食卓わきの壁面を有効に使いたいこともあって戸袋収納式です。

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この2枚の引き戸のガラスは先のトイレならびに洗面脱衣室のガラスとは異なり、いくらか視線をさえぎる程度の型板ガラスです。人の姿はぼんやりながらもはっきりわかります。今もっとも多く使われている型板ガラスは霜がおりたような不規則な細かい凹凸のある「カスミ」ですが、それではあまりにもありきたりなので、細かい斜めのチェック模様の凹凸がある強化型板ガラスにしました。カスミに比べモダンでおしゃれな感じがします。通常の型板ガラスに対し強度は3〜5倍くらいあり、万一割れた場合でも粒状の破片となります。

勝手口のドア

全部で5枚作った内部木製建具のうち、4枚は全面ガラスですが、1枚だけは上半分がリビングやダイニングと同じ斜めチェックの強化ガラスで、下半分は3枚の柾目板を使った鏡板仕上げです。全体の幅が740mmほどあるドアの鏡板に無垢の板をはめこむと温度湿度の影響で伸び縮みしたさいに割れてしまうおそれがあります。そこでここでは板を3分割とし、間に雇いざねを介することで伸び縮みに対応できるようにしています。

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ドアの向こうは電気温水ボイラー(エコキュート)を置いた1畳の土間で、写真とは別のアルミサッシのドアをさらにあけて裏庭に出ることができるのですが、あくまでも通用口なので全面ガラスではかえってそぐわないでしょう。ただ日中は室内にできるだけ光はほしいので上はガラスにしました。把手はトイレと同じくアメリカン-ブラック-ウォールナットでこしらえたオリジナル品です。ウォールナットは素のままで赤味をおびた濃い茶色なのでアクセントにもなると思います。ドアの左下に付いている黒っぽいものはマグネット式のドアキャッチャーです。

戸のロックなど

さて以上で5枚の建具を説明しましたが、じつは今回最後まで悩んだのがトイレと洗面脱衣室のロックです。使用しているときに不意に開けられることがないように戸をロックしたいのですが、同時に万が一にも中で人が倒れてしまったときには外からそのロックを簡単に外せるようにもしないといけません。単なるロックだけであれば市販の金具などがいろいろありますし、ドアハンドルなどと最初からセットになったものもふつうにあります。しかし今回は既成のドアハンドル等を使わないことにしたのと、部屋全体のデザインとの相性のこともあり、たいへん苦労しました。

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結局、メインは木製で、あとは市販のボルトやナットやマグネットを利用してオリジナルでひとつずつ作製しました。1枚目はトイレのドアロックですが、回転軸のボルトはドア枠を貫通して外まで抜けています。なべ頭のボルトの頭のほうが室外に出ているので、非常時にはプラス2のドライバーでそのボルトの頭を半回転すればロックを解除することができます。問題はただボルトを通して内外で締め付けたのではロックするときも解除するときも硬くて回せなくなるので、先にロックのレバー側の木にナットを埋め込んでおかなければならないことです(写真ではそれは裏にかくれているので見えません)。

またドアを閉めて外に出たときに反動で勝手にロックがかかってしまっても困ります。それを解決するのがマグネットの埋め込みです。ロックを外して丸棒のハンドルを上に上げると磁力のキャッチが効くしかけです。これなら不意にレバーが倒れてロックがかかることはありません。ちなみに写真にはコンセントカバーも写っていますが、プラスチック製ではなくアルミ合金製のすこしヘアラインがかかったものです。今回はすべてのコンセントカバー類をこの手のものに統一しました。

2枚目の写真は洗面脱衣室のロックです。これはさらに難問で引き戸が戸袋に収まる式なので、ロックは戸と戸袋との隙間(幅6mmほど)にうまく入る必要があります。最初に作ったものは厚みがありすぎて駄目。次に作ったのが写真のもので、木製ながら強度が出るように本黒檀(まぐろ)でレバーを作りました。受ける側は箱状にしたウォールナットの下部にステンレスのピンを埋め込んだものの全体を、戸枠を掘り込んで取り付けています。不意にロックがかからないようにするのにはやはりマグネットを利用しています。

3枚目の写真は戸袋式の引き戸に取り付けた埋込式のレバーです。本来は床板などの開口に使うもののようですが、ダイカスト製でかなり頑丈なうえに下部のボタンを推すとレバーが30度ほど持ち上がる方式や、見た目の美しさが気に入って援用しました。これがないと戸袋に収納した戸を外に出すことができなくなります。もしこの把手を出したままうっかり戸を閉めたとしても戸枠をひどく痛める心配はありません。

さて戸袋式の引き戸にした場合、開口部より幅の広い戸を納めることになるわけですが、どうやって最初に戸をそこに入れるか、です。大きくは二通りあり、戸を入れてから戸袋の枠のほうに別の枠を足す。もうひとつは開口部より狭い戸を作り、それを戸袋に入れてから戸のほうに框を付け足す、です。一長一短があるのですが、今回は後者の方法としました。

 

O様邸の水回りを中心とするリフォーム工事のレポートはこれにていちおう終了とします。読者の方でリフォームや新築工事をお考えの方で、もしこの件にご関心がございましたら、さらに詳しいご説明または現地のご案内をします(もちろんO様のご了解が必要ですが)。メールにてご連絡ください

 

独楽回しの舞台

 

この前、自宅に子どもたちが数人集まり、床のフローリングの上で独楽を回していました。独楽といってもベイブレードという今風のやつですが、尖った先端で床が傷だらけ。まだ築1年半の新しい家なのに……。

「ここでやっては駄目!」とは言ったものの、ただ叱るだけではかわいそうなので(ほかに適当な場所もないし)、仕事の合間に専用の舞台を作りました。市販のプラスチックのベイブレード用の舞台はスタジアムという名前で呼んでいるようですが、自作のは5.5mm厚の合板の四方に22×22mmの角材を回した、80×80cmの正方形です。自家用なので塗装もなしで簡略な作りですが、比較的軽くかつそう容易には壊れにくいようにはしないといけないので、この程度のものでも2時間くらいかかりました。

実際これで私も独楽を回してみると、他の独楽とぶつかりあってケンカさせるにはもうすこし舞台が狭いほうがいいようです。中しきりを設けて可変式にすればいいかもしれません。

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秋の高瀬峡の花

 

昨日地元の高校のフィールドワークの下見をかねて、鳥海山の高瀬峡を歩いてきました。湧泉からの水を麓の集落までひいているその人工の水路を水源地近くまで遡り、それから高瀬峡遊歩道をいちばん奥の大滝まで行きました。他に出会ったのは10人くらいで、薄曇りのおだやかな山行でしたが、いつものようにたくさんの花と会うことができました。

私自身の備忘録の意味もふくめて50音順に記すと、イヌコウジュ、ウツボグサ、オクモミジハグマ、オトコエシ、カラマツソウ、キツリフネ、キンミズヒキ、クロバナヒキオコシ、コナスビ、ゴマナ、サラシナショウマ、シシウド、ジャコウソウ、シラヤマギク、ダイモンジソウタマブキ、タムラソウ、ツリフネソウ、デワノタツナミソウテンニンソウトキホコリ、ノコンギク、ヒヨドリバナ、ホツツジ、ミヤマアキノキリンソウ、ミヤマトウバナ、モミジガサ、ヤマハギ、ヤマハッカ、といったところで29種ほど(青色のものは下に写真も掲載)。間違いがあるかもしれませんが、その場合はご指摘ねがえればさいわいです。

この中で私としては初めて実物と遭遇したのがクロバナヒキオコシです。ほぼ真っ黒にちかいシソ科の小さな花ですが、よく見るとたいへん魅力的な花です。休憩でなにげなく座った岩の2mほど先になんだか見なれない姿の植物が目に入ったので、近寄って調べてみるとクロバナヒキオコシでした。念願の花に会えてとてもうれしいです。

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オクモミジハグマ(キク科)

 

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クロバナヒキオコシ(シソ科)

 

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ジャコウソウ(シソ科)

 

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ダイモンジソウ(ユキノシタ科)

 

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タマブキ(キク科)

 

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デワノタツナミソウ(シソ科)

 

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テンニンソウ(シソ科)

 

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トキホコリ(イラクサ科)

 

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ホツツジ(ツツジ科) 上は赤味の強い花の群開、下はほぼ純白の花

 

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モミジガサ(キク科)

 

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ヤマハッカ(シソ科)

 

明治参拾六年

 

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ある方から、古い家屋を解体した際の木材等がいらないかというお声がかかり、先日伺ってきました。材木のほうはケヤキを中心とした造作材ですが、ほかに欄間やふすま、組立式の飾り棚、機織機がありました。 バンの荷室いっぱいに積み込んで工房に持ち帰り、あらためて清掃点検整理をしたところ、かなり痛んでいるものもあり再利用できるものは限られようですが、おひな様か祭事のときの一時的な組立式飾り棚とおぼしきものがあり、そのひとつに写真のような墨書がありました(氏名はわざとぼかしています)。なんと明治36年3月です。西暦でいうと1904年ですから今から110年前。

古いほうの家屋自体はすでになく、土蔵の中にいろいろ入れてあったのですが、1世紀以上も前の木製の什器がそのまま残っていたことに驚きとちょっとした興奮を覚えました。素材はスギで一部はおそらくヒノキのようですが、無垢の木だからこそ今まで残っていたわけで、これが鉄板や樹脂などであればとうに朽ちてしまっていたと思います。

またこうした古い木製品をみるにつけ思うのは、当時は樹木の伐採から製材・加工・仕上までほとんどすべて手作業によるもので、現在に比べ相対的にたいへん高価で貴重なものだったにちがいありません。細密な調度品などは一般庶民には無縁なものだったと思います。だからこそ、いつ誰がどこであつらえたかといった覚え書きを品物にもいちいち墨書したのでしょう。墨は基本は炭素ですから劣化して消えてしまうこともまずありませんし。

この組立式棚板がすんなりとまた使えるようなものかどうかは細部を点検し実際に組み立ててみないとなんとも言えませんが、無事できるようであればまた報告したいと思います。

 

コーヒーブレーク 27「住宅展示場」

 

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日めくりの厚み増したる残余のもの

一日一枚ずつ一年ぶんとじられた昔ながらの暦は、今でも根強い人気があるようだ。1枚びりっと破りとって「さあ今日も新しい一日が始まるぞ」という思い、あるいは「ああ一日が無事終わったな」という思いがいやがおうにもわくところが一種の快感なのかもしれない。子どもが保育園に通っていたときも、その送り迎えはだいたい私の役割だったから、7時半頃に保育室まで行くとまず日めくりの暦の昨日までのぶんを切り取るのを子どもも楽しみにしていた。ときどき同じ時間に来たほかの子どもがいると、連休あけなどは「じゃあ1枚ずつね」といいながら破っていたなあ。1枚だけのときはじゃんけん。

水の惑星猫にもふたつありにけり

上の写真は9年前のもので、ミャースケがまだ元気でトントといっしょにくっついて寝ていたときのもの。撮影の物音かなにかをききつけて頭を同時にもたげた瞬間である。手前のミャースケは淡黄色の目(虹彩、アイリス)だが、後ろのトントは水色の目をしている。光のかげんによってはさらにおどろくほど青く見えるときがある。虹彩の色合いだけでそう言い切れるのかどうかわからないが、トントはいわゆる洋猫の血が濃いらしく、動物病院のカルテでも「雑種」ではなく「ミックス」と記載されていた。/目が青いので首輪もそれに合わせて水色の首輪を付けたところとても似合っていてよかったのだが、いつのまにか紛失してしまったのが残念。ちなみにミャースケのほうは首輪はいっさいうけつけない猫であった。見かけどおりというべきか、歴代の猫でいちばん野性味の強い猫だった(16歳半で永眠)。

大きすぎる小鳥のいて住宅展示場 

たまに「敵状視察」もかねて近在の住宅展示場に行くことがある。最近の住宅建設業の動向を知るとか、新しい建材や機器、注文されて家具を製作することになったお客様の住宅が◯◯ハウスということで、そのマッチングを探るためといった理由である。しかし総じていえば住宅展示場はあまり居心地のいいところではない。住宅メーカー各社のモデルハウスであり、それぞれのメーカーの標準的あるいは代表的な施工例を実物展示していることになっているのだが、実際にはいろいろ脚色&演出がしてあるのが通例である。標準外のオプションがてんこ盛りになっているケースも珍しくない。/本来であれば実際にそのメーカーに建ててもらうことになった場合の完成引渡時のレベルの「素の建築本体」を見せてもらえばいいのだが、それでは一般の人はそこで生活した際のイメージを思い浮かべることはまず無理だろう。そこでメーカーのコーディネート担当者かだれかが家具やら調理器具や食器、電化製品、カーペットやクッション、絵や写真や彫刻や大型の本などを飾り付けるわけである。しかしなんだかそれがとてもウソくさい。ときにウサンクサイとすら感じることもある。

 

夕焼と蜻蛉と鳥と

 

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昨日は夕焼けがたいへん美しく、帰宅してからしばらく日没まで写真を撮っていました。雲の形もいいですが、数はまだ少ないながらトンボや、種類はわかりませんが鳥が飛んでいました。

夕焼けはとうぜんこれまで無数といっていいほど見てきているわけですが、それでも美しいなと感ずる気持ちはまったく変わることはありません。まあ動物的な本能的な感覚なのかもしれませんね。

 

軒の出

 

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わが家は細長い平屋の30坪の建物ですが、軒(屋根裏の、建物本体より外に出ている部分)が90cmほど出ています。雨樋はあえて付けなかったので、雨が降ると雨垂れがまっすぐ地面に落ちてきます。写真でも落下する雨水のようすがわかるかと思います。軒がこれくらい出ていると風が強く吹いていないかぎり、雨の日でも窓をあけておくことができますし、軒下を通ってさほど濡れることなくカーポートなどと行き来することができます。

神社仏閣がそうであるように、降水量の多いわが国では建物の壁に雨水が直接当たらないようにするために軒の出を深くするのが通例です。そのぶん屋根が張り出すことになるわけですが、いわば建物が大きな傘をさしているようなあんばいです。折りたたみ式の小さな傘よりも、男物の大きな傘をさして歩けば人間もあまり濡れないですむのと同じです。

ただし屋根の面積と重量(とくに瓦屋根の場合)が増え、台風等の風当たりが強くなるので、それに耐えられるように垂木などを太い部材にし施行も入念に行わなければなりません。また雨垂れがよその敷地に落ちないようにするために、境界ぎりぎりまでは建物をたてることもできません。結局同じ建坪なら坪単価があがることになるので、現在ではとくに一般住宅の場合は軒の出がどんどん小さくなる傾向があります。ほとんどゼロという家も珍しくありません。

しかし軒の深さは建物の耐久性を高めるという理由のほかに、もうひとつとても大切な役割があります。それは見た目の美しさです。むろんそれは感覚的なものであり嗜好の領域の話となるので人さまざまであり一つの正解に収斂するわけではありません。けれども私自身は率直に言って、建物や屋根の大きさに釣り合った軒がきちんと出ていない建物は、とうてい美しいとは感ずることができませんし好きではありません。子どもが家の絵を描くと、たいてい屋根は三角形の切り妻の形で軒が出ているというのがふつうですが、それにはちゃんとわけがあるわけです。

 

バイカモ&ハマゴウ

 

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地元の高校の「湧水に関するフィールドワーク」の授業の下見で、鳥海山の西側の裾野の湧泉を下見しました(いちおう私は非常勤講師です)。1、2枚目の写真は牛渡川のバイカモ(梅花藻)ですが、湧水100%の清冽な流れにそよぐ群落がじつに美しくみごとです。白い五片花は水上だけでなく水中でも咲いています。透明な水ならではの光景。キンポウゲ科キンポウゲ属の沈水性多年草。

子どもの頃はこのバイカモをキンギョモ(金魚藻)と呼んでいましたが、ほんとうはバイカモが育つほど水がきれいで、つまり栄養分の少ないしかも10〜15℃程度の冷たい水では、フナやコイやキンギョはうまく育たないのでミスマッチなのです。そう誤認するほど昔は町内のあらゆる川や堰や用水にバイカモがごく普通に繁茂していたという証左ではありますが。

3枚目は「浜湧水」で最近とみに有名な釜磯の、砂浜の一画に咲くハマゴウです。乾燥地に生息する植物に特徴的な、厚みがあり比較的硬目の葉が目につきますが、芳香のある青紫色の花もたいそうきれいです。シソ科ハマゴウ属の常緑矮性低木で典型的な海浜植物ですが、一大群落を成しているのは私が知っている限りではこの釜磯だけかもしれません。

海浜植物は乾燥や強風、直射日光・塩害・風砂による埋没など、数々の脅威にさらされる過酷な環境に生きている植物なので、高山植物と同様に非常に個性的でおもしろい植物が多いです。しかも鳥海山の場合は山裾が海底までのびているので、ひとつの山で海浜植物から湧水に依存する植物、高山植物までを一度にみることができるという全国的にみても非常に稀な山です。地元の人はそのことをほとんど認識してませんけどね。