O様邸リフォーム工事 その15

 

山形県庄内町のリフォーム工事は先月8月28日に「完成引渡」を行い、翌々日くらいからOさんご家族が生活されています。しかし木工事の遅れと、ガラスがかなり特殊なものであったために、5枚ある内部木製建具は後回しになっていました。

完成引渡の時点ではガラスのかわりにベニヤ板をはめこみ、それを使っていただいたのですが、9月になって入荷してきたガラスから順次、本来の建付と納品を行いました。これでやっとほんとうの完成ですが、その5枚の木製建具についてすこしくわしくご紹介します。デザインと製作は私(オーツー:大江進)です。

トイレと洗面脱衣室の戸

きわめてプライベートかつ他者の視線を避けたいトイレや洗面脱衣室といった部屋の戸は、基本的にクローズドにするのがふつうです。せいぜい使用中かどうかがわかる程度の型板ガラスやステンドグラスに似たものをはめた小窓を上方に設けるくらい。出入口だけでなく外窓もそれに応じて小さめにすることが多く、結果として暗くなり密閉感の強い空間になってしまいます。昔のトイレ(便所)などであればにおいの問題などもあり、また戸の面材の種類がきわめて限られていましたのでやむをえない理由もあるのですが、水洗の便器となり24時間運転の換気扇が着くようになっても、昔からのイメージはなかなか変えることがむずかしいようです。

しかしトイレも洗面脱衣室やお風呂もほとんど毎日使いますし、快適な生活をするのに欠かせないものです。ここで過ごす時間は実際計算してみるとかなり長いものになると思います。したがって必要にせまられてやむなく使う空間ではなく、そこにいること自体が一種の快感であり心が休まるような空間であればどんないいいでしょう。新築であれば間取りの段階からいろいろそれに向けて工夫することができますが、リフォームの場合は建物の構造から改変し間取りを変更することは強度的・コスト的にたいへん難しく、選択肢が限られてしまいます。

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そうした中で効果的なのはやはり窓や戸です。従来の固定観念にとらわれずに一から考えてみれば、要するに他の空間ときっちりと仕切ることと、視線をさえぎることができればそれでいいわけですね。ということでガラスです。もちろん透明なガラスではなく、照明や外光を必要なぶんだけ透過または遮断できる乳白色のガラスを採用しました。5mm厚の透明なガラスの片面(室内側)にセラミック塗料を焼き付けした特殊なものです。光線の遮蔽度は何段階かあるのですが、今回のトイレと洗面脱衣室に用いたのは約半分をさえぎることができるものです。また焼き付け塗装をすることで強化ガラスとなり、ふつうのガラスより丈夫で万一の破損の場合も破片が鋭利にならないので重大事故を避けることができます。

いいことづくめのようですが、はっきり言って面積あたりの単価は通常のガラスの数倍しますし、ガラスメーカーの特定の工場でしか作れないので納期がそうとうかかります。今回はお盆休みが間に入ったこともあって、注文してから入荷するまでちょうど1ヶ月かかってしまいました(通常でも3週間だそうですし、下記の強化型板ガラスの場合でも2週間)。

写真1枚目は トイレのドア。袖壁なしのフルオープンのドアです。2枚目は洗面脱衣室の引き戸で戸袋収納式です。ドアのほうの把手はオリジナルで作製したアメリカン-ブラック-ウォールナット製のもの。引き戸の引手はステンレス製のシンプルな市販品です。

せっかくのガラスですのでそれを最大限活かすように木枠は周囲の4辺のみで、中桟などはいっさいありませんし、枠の寸法も強度的に安心できる範囲内でできるだけ細めにしています。面取りも複雑な飾り面をほどこしたようなものではない、ごくあっさりしたものです。

リビング&ダイニングと廊下との戸

今回のリフォーム工事の対象外のリビングから、トイレや2階への階段などに行くときの引き戸ですが、以前の後付けの蛇腹式のドアを一本引きの全面ガラスの引き戸に変更しました。廊下側に引き込めるので戸袋はなしです。写真はリビング側から写しています。もう一枚は新しくなったキッチン&ダイニングルームから、やはりトイレや2階に行くときの引き戸で、同じく四方枠+全面ガラスですがこちらは食卓わきの壁面を有効に使いたいこともあって戸袋収納式です。

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この2枚の引き戸のガラスは先のトイレならびに洗面脱衣室のガラスとは異なり、いくらか視線をさえぎる程度の型板ガラスです。人の姿はぼんやりながらもはっきりわかります。今もっとも多く使われている型板ガラスは霜がおりたような不規則な細かい凹凸のある「カスミ」ですが、それではあまりにもありきたりなので、細かい斜めのチェック模様の凹凸がある強化型板ガラスにしました。カスミに比べモダンでおしゃれな感じがします。通常の型板ガラスに対し強度は3〜5倍くらいあり、万一割れた場合でも粒状の破片となります。

勝手口のドア

全部で5枚作った内部木製建具のうち、4枚は全面ガラスですが、1枚だけは上半分がリビングやダイニングと同じ斜めチェックの強化ガラスで、下半分は3枚の柾目板を使った鏡板仕上げです。全体の幅が740mmほどあるドアの鏡板に無垢の板をはめこむと温度湿度の影響で伸び縮みしたさいに割れてしまうおそれがあります。そこでここでは板を3分割とし、間に雇いざねを介することで伸び縮みに対応できるようにしています。

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ドアの向こうは電気温水ボイラー(エコキュート)を置いた1畳の土間で、写真とは別のアルミサッシのドアをさらにあけて裏庭に出ることができるのですが、あくまでも通用口なので全面ガラスではかえってそぐわないでしょう。ただ日中は室内にできるだけ光はほしいので上はガラスにしました。把手はトイレと同じくアメリカン-ブラック-ウォールナットでこしらえたオリジナル品です。ウォールナットは素のままで赤味をおびた濃い茶色なのでアクセントにもなると思います。ドアの左下に付いている黒っぽいものはマグネット式のドアキャッチャーです。

戸のロックなど

さて以上で5枚の建具を説明しましたが、じつは今回最後まで悩んだのがトイレと洗面脱衣室のロックです。使用しているときに不意に開けられることがないように戸をロックしたいのですが、同時に万が一にも中で人が倒れてしまったときには外からそのロックを簡単に外せるようにもしないといけません。単なるロックだけであれば市販の金具などがいろいろありますし、ドアハンドルなどと最初からセットになったものもふつうにあります。しかし今回は既成のドアハンドル等を使わないことにしたのと、部屋全体のデザインとの相性のこともあり、たいへん苦労しました。

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結局、メインは木製で、あとは市販のボルトやナットやマグネットを利用してオリジナルでひとつずつ作製しました。1枚目はトイレのドアロックですが、回転軸のボルトはドア枠を貫通して外まで抜けています。なべ頭のボルトの頭のほうが室外に出ているので、非常時にはプラス2のドライバーでそのボルトの頭を半回転すればロックを解除することができます。問題はただボルトを通して内外で締め付けたのではロックするときも解除するときも硬くて回せなくなるので、先にロックのレバー側の木にナットを埋め込んでおかなければならないことです(写真ではそれは裏にかくれているので見えません)。

またドアを閉めて外に出たときに反動で勝手にロックがかかってしまっても困ります。それを解決するのがマグネットの埋め込みです。ロックを外して丸棒のハンドルを上に上げると磁力のキャッチが効くしかけです。これなら不意にレバーが倒れてロックがかかることはありません。ちなみに写真にはコンセントカバーも写っていますが、プラスチック製ではなくアルミ合金製のすこしヘアラインがかかったものです。今回はすべてのコンセントカバー類をこの手のものに統一しました。

2枚目の写真は洗面脱衣室のロックです。これはさらに難問で引き戸が戸袋に収まる式なので、ロックは戸と戸袋との隙間(幅6mmほど)にうまく入る必要があります。最初に作ったものは厚みがありすぎて駄目。次に作ったのが写真のもので、木製ながら強度が出るように本黒檀(まぐろ)でレバーを作りました。受ける側は箱状にしたウォールナットの下部にステンレスのピンを埋め込んだものの全体を、戸枠を掘り込んで取り付けています。不意にロックがかからないようにするのにはやはりマグネットを利用しています。

3枚目の写真は戸袋式の引き戸に取り付けた埋込式のレバーです。本来は床板などの開口に使うもののようですが、ダイカスト製でかなり頑丈なうえに下部のボタンを推すとレバーが30度ほど持ち上がる方式や、見た目の美しさが気に入って援用しました。これがないと戸袋に収納した戸を外に出すことができなくなります。もしこの把手を出したままうっかり戸を閉めたとしても戸枠をひどく痛める心配はありません。

さて戸袋式の引き戸にした場合、開口部より幅の広い戸を納めることになるわけですが、どうやって最初に戸をそこに入れるか、です。大きくは二通りあり、戸を入れてから戸袋の枠のほうに別の枠を足す。もうひとつは開口部より狭い戸を作り、それを戸袋に入れてから戸のほうに框を付け足す、です。一長一短があるのですが、今回は後者の方法としました。

 

O様邸の水回りを中心とするリフォーム工事のレポートはこれにていちおう終了とします。読者の方でリフォームや新築工事をお考えの方で、もしこの件にご関心がございましたら、さらに詳しいご説明または現地のご案内をします(もちろんO様のご了解が必要ですが)。メールにてご連絡ください

 

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