わが家は細長い平屋の30坪の建物ですが、軒(屋根裏の、建物本体より外に出ている部分)が90cmほど出ています。雨樋はあえて付けなかったので、雨が降ると雨垂れがまっすぐ地面に落ちてきます。写真でも落下する雨水のようすがわかるかと思います。軒がこれくらい出ていると風が強く吹いていないかぎり、雨の日でも窓をあけておくことができますし、軒下を通ってさほど濡れることなくカーポートなどと行き来することができます。
神社仏閣がそうであるように、降水量の多いわが国では建物の壁に雨水が直接当たらないようにするために軒の出を深くするのが通例です。そのぶん屋根が張り出すことになるわけですが、いわば建物が大きな傘をさしているようなあんばいです。折りたたみ式の小さな傘よりも、男物の大きな傘をさして歩けば人間もあまり濡れないですむのと同じです。
ただし屋根の面積と重量(とくに瓦屋根の場合)が増え、台風等の風当たりが強くなるので、それに耐えられるように垂木などを太い部材にし施行も入念に行わなければなりません。また雨垂れがよその敷地に落ちないようにするために、境界ぎりぎりまでは建物をたてることもできません。結局同じ建坪なら坪単価があがることになるので、現在ではとくに一般住宅の場合は軒の出がどんどん小さくなる傾向があります。ほとんどゼロという家も珍しくありません。
しかし軒の深さは建物の耐久性を高めるという理由のほかに、もうひとつとても大切な役割があります。それは見た目の美しさです。むろんそれは感覚的なものであり嗜好の領域の話となるので人さまざまであり一つの正解に収斂するわけではありません。けれども私自身は率直に言って、建物や屋根の大きさに釣り合った軒がきちんと出ていない建物は、とうてい美しいとは感ずることができませんし好きではありません。子どもが家の絵を描くと、たいてい屋根は三角形の切り妻の形で軒が出ているというのがふつうですが、それにはちゃんとわけがあるわけです。
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