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デスク用キャビネット

以前ウォールナットの一枚板でデスクを製作しましたが、そのお客様からデスク下の左右に置くキャビネット(主に書類入れ)のご注文をいただきました。

デスクのほうが第一級の材料でしたので、キャビネットもそれに負けないような作りにしないといけません。そこで抽斗の前板を左右で連続するようにしました。右側の下の抽斗はA4のファイルを入れられるように深くなっていますが、これの前板と、左側の中段・下段の前板はもともとは一枚の板です。左右の上段どうしも同様。

キャビネット全体の大きさは幅420mm、奥行500mm、高さ560mmです。デスクの高さが700mmでしたので、幕板の下端とキャビネット天板との間は33mmくらいの隙間があり、ここにも新聞や雑誌・カッティングボードなどを一時的に置いておくことができます。側面の板と天板とは9枚組手で合わせています。抽斗内部はすべて無地柾目のスプルス(マツ科トウヒ属の針葉樹)で、合板・集成材などはいっさい使っていません。本体背板ももちろんウォールナットの無垢板です。

こういったタイプの家具でよくあるようなキャスターや抽斗用の金属のスライドレールは、このキャビネットではあえて不採用としました。人それぞれ、また工房や木工所によって考えがちがうと思いますが、当工房ではできるだけ金物類、とくに現代的な高機能金物は使わないようにしています。金物の耐久性や、将来の交換に対する不安(すぐに廃番になる金物が多い)という理由もありますが、それ以上に理屈抜きにそういう「便利な」家具はなんだか私はあまり面白くないんです。

タモのバール

原因はよく分かりませんが、樹木にはときおり瘤が生ずることがあります。そのせいで枯れてしまったというような話はきかないので、別に病気というのではなさそうですが、まあいずれにしろ奇形にはちがいありません。

用材としては一般的にはマイナス要因になるのですが、反面その瘤の部分に非常におもしろい杢があらわれることがあります。繊維組織が複雑に入り組んでいるので、乾燥途中に割れたりねじまがったりすることも多く、また虫害や腐朽がすすんでいる場合も珍しくありません。しかしまれにはそうした大きな欠陥がなく、木工の貴重な素材となることがあります。

写真のタモ(ヤチダモ)の瘤材もそういう希有な材料のひとつです。最近は瘤というより英名のバール(burl)と呼んだほうが、むしろ通りがいいかもしれませんが、タモのバールはめったにないのではないかと思います。私は初見です。タモの玉杢や縮みなどはわりあいよく見かけますし、当工房でもいくつか持っていますが、他の樹種にくらべるとそういう変わった杢でもあまりうるさくないのがタモのいいところです。

写真は木裏側でほぼ全体が写っていますが、サイズは厚さ110~200mm、幅は420mm、長さが750mmといったところです。厚みがそうとうあるので、いろいろな加工ができそうですが、さて。

アングルドリル

ごくたまにしか使わないものですが、いざというときにはそれがなくては仕事にならない道具というものが、木工にもいろいろあります。写真のアングルドリルもそのひとつ。

ふつうドリルはモーターの回転軸とドリルの軸は一直線上に連なっていますが、それは穴をあけるときに最も力を入れやすく、構造的にも単純明快にできるからです。しかしそのぶんどうしても全長は長くなってしまうので、手がかろうじて入るような狭い場所ではドリルを使うことができません。そうしたときに出番となるのがアングルドリルです。先端が下向きにおれまがっていますが、モーターの回転軸からの力をギアを介して90度まげているわけです。

穴をあけたりネジをまわしたりするために一番先にはキリやドライバービットを装着するためのチャックがついていますが、これもできるだけ丈が短くなるような工夫があれこれなされています。ヘッドの高さ=ヘッドハイトはチャックの先まで(爪を除く)66mmしかありません。ただこれにキリやビットの長さがプラスされるし、ネジ止めであればネジの長さ分も加わるので、実際には最低でも100mmくらいの空間がないとこのドリルでも使えません。

それでも通常のドリルの場合、当工房で持っている最短のドリルでボディ後部からチャック先端まで145mmありますから、145-66=79mmの差は実際作業する上ではかなり大きな差といえます。写真では19mmの超短のプラス2ドライバービット+38mmのステンレスコーススレッド、刃先を照らすLEDの照明、ふれ止めのグリップをいっしょに写しこんでいます。

このアングルドリルは充電式です。14.4V3.0AhのリチウムイオンのバッテリーBL1430。このバッテリーはマキタのなかでも最も汎用性の高いもので、現在48機種の電動工具等に共用可能です。当工房の場合は、インパクトドライバー、ドリルドライバー、丸ノコ、掃除機、作業灯です。リチウムイオンの充電池は自然放電がほとんどないこと、メモリー効果がないので継ぎ足し充電が可能なことが大きな特徴です。

吊り棚&額縁

当工房では主に注文家具を製作していますが、テーブルや戸棚、簞笥やベッドといった大きな家具だけではありません。

写真のような壁にかける小さな飾り棚や額縁なども一点からお作りします(写真の品はともにウォールナット製)。サイズも材料も、それから形状やデザインも、だいたいどんなご希望にも応じることができます。ただし「難点」がひとつ。それは小さくて簡単な構造のものであっても、けっこうな価格になってしまうこと。

もちろん値段は、かかった材料や手間を厳密に記録・計算し、それに常識的な利率をくわえて出していますが、市販の量産された小家具や木製小物にくらべるとずいぶん高いと思われることが実際あります。

同じものを何百何千とあらかじめ作るのとくらべれば、たとえ額縁一枚でもお客様と打ち合わせをし、デザインを考え、場合によっては試作をし、図面と見積もりを提示、それから製作と最後に納品するまで、多くの手間暇がかかります。小物一個だから簡単にすぐできるということはけっしてありません。

それでもよろしければ、どうぞご注文ください。

スポルテッド・メープル

当工房の旧ホームページでスポルテッドという材料についてはわりあい詳しく書いたことがあるので、できればそれをお読みいただければさいわいですが  (→http://e-o-2.com/eo2_Old_Page/daydesignp132a.html  → http://e-o-2.com/eo2_Old_Page/daydesignp133a.html )、そこで具体的に取り上げたのは国産のイタヤカエデとカシノキのスポルテッド材でした。今日ご紹介するのは同じカエデ類でもアメリカ産のソフトメープルです。

ソフトメープルというのも材木流通上の通称で、ハードメープルに対するソフト、つまり比較的軽く柔らかいカエデの総称です。シルバーメープル、レッドメープル、ビッグリーフメープル、ボックスエルダーといった樹種のようですが、写真の材料がなんという種かはよく分かりません。しかしながら、これはたいへんみごとな紋様です。

黒いランダムな筋と、それで区切られた微妙な色合いのモザイク。そのバランスが絶妙といっていいですね。自然界の偶然の産物なわけですが、まるで抽象絵画かなにかのよう。大きさは幅154mm、長さ600mmですが(写真は材料の全体像)、厚さは50mmとこの手の材料としては厚みがあります。薄板だとそれでしか使えませんが、厚みがあれば角材にしたりブックマッチに挽きわったり、それから旋盤や掘り物にも使えます。カットする場合はその位置や方向や角度によって紋様は大きく変化します。その変貌ぶりが楽しみでもあり悩みでもあります。

山道

登山道とはいえどすべて誰かがはっきりとした意思をもって最初に切り開き、その後もずっと誰かしらが維持管理してきたからこそ、いま現在もそれは道として存在します。道は「自然に」道になるのではありません。とりわけ森林限界以下の中・低山地の場合、人が歩かなくなれば、もしくは誰かが刈り払いや補修などをしなくなれば、たちまち薮化してしまい、ほどなく廃道になってしまいます。

そうした背景を抜きにしても、山中の樹木に囲まれた細い道は、私にはたいへん惹かれるものがあります。ことに自然林のなかをすこし曲がりくねりながら遠くへとのびている道は、なぜか夢や郷愁をさそうものがあります。

鳥海山などに登っていて、ああいい道だなあと感じたときは、その余裕があればですができるだけ写真を撮るようにしています。その中からいくつかピックアップしました。1枚目と4枚目が出羽山地(出羽丘陵)、その他は鳥海山です。季節は5月〜11月。

鮭の遡上

鳥海山の西斜面を流れ下る牛渡川は、全長10kmほどの小さな河川ですが、鮭の遡上数は東北地方日本海側では有数です(念のため記しておきますが、牛渡川はよく「全長3~4km」と紹介されますが、途中伏流になっているだけで、川筋はもっとずっと上の大平あたりまで続いています)。海から約3kmあがったところに箕輪鮭孵化場がありますが、大半の鮭はここで捕獲されてしまいます。産卵直前の卵と精子をとり人工授精させて稚魚まで育てるためです。

9月下旬から1月まで毎年数万匹の鮭が遡上してきます。そして3月以降に人手で育てられた稚魚約1000万匹を放流するのですが、海に下り北洋を周回して、多くが4年後に生まれた川にまたもどってきます。ただし回帰率は2%程度にすぎません。つまりほとんどは他の生き物の餌になったり、病気や怪我で死んでしまうわけです。

写真は箕輪孵化場の採捕用の囲いに入った昨日(12/5)夕方の鮭ですが、数十匹の鮭が泳いでいました。大きいものは体長90cmほどもあり、湧水の清澄な流れのなかを群泳する様を至近距離で眺めるのはじつに壮観です。川に入ってからはいっさい餌をとることもなく、次世代に命をつなぐためにひたすら川をさかのぼるので、身が細くなり色が変わり、あちこち傷ついている個体もいます。

角材?

一見したところただの角材や木製ブロックのようですが、さにあらず。では薄板をくみあわせてこしらえた指物(さしもの)の箱かというと、それでもありません。ウォールナット変杢長方形被蓋くり物(〜かわりもくちょうほうけいかぶせぶたくりもの)です。

材料的には縮み(カーリー)ともキルテッドともいえない、濃淡のかすり模様というおもしろいウォールナットです。厚みは素材で51mmありました。その厚板を40mmほど彫り込んで蓋にしました。身(実)のほうも同じです。被蓋箱物に仕上げた状態で幅162mm、奥行83mm、高さ49mmです。各部の残った厚さはそれぞれ5~6mm程度。もっと薄くすれば見栄えはいいかもしれませんが、強度的にこれが限界かな(とくに木口側)と思います。

6面すべてが平面で、角も0.5mm程度の糸面しかとっていませんので、ぱっと見にはごくありふれた指物のようでいて、じつはよくよく見ると木目が木口面までみな連続している。そのことに気づかれて驚かれる方が少なくありません。内面も完全に平面のみで構成されていますので、製作はまずまず困難な部類といっていいと思います。

ウォールナットという、広葉樹としては中庸の硬さで刃物の切れがよいことや、靭性があって丈夫で粘りのある材料だからこそできる細工ともいえます。材料はなんとか2個分とれましたので、写真の品とほぼ同様のものをもう一箱後から製作しました。

入り皮

トネリコの材面になにやら褐色の斑紋が散らばっています。拡大してよく見ると樹皮の断片が材料の芯のほうまで不規則に巻き込まれています。これは「入り皮」といわれる現象で、ふつうなら忌み嫌われ商品としては欠点でしかなく、ほとんど売り物になりません。ところがこれだけ派手に入り皮が入っていると、これはこれで見方ひとつ変えればじつにおもしろい希有な材料に思えてきます。

トネリコはモクセイ科の落葉広葉樹ですが、そもそも国産のトネリコが木工の材料として出回るのは珍しいと思います。私自身は初めての出会いです。そのうえにこの材料には全面に縮み(英語ではカーリー)と入り皮が加わっているではありませんか。で、思い切って購入しました。大きさは厚み37~38mm、幅16~31cm、長さ204~213cmで、2枚は共木です。写っているのは全体の約4割くらいでしょうか。

節や虫食い、変色などがなく、反りやねじれなどもない素直な材料は、もちろんきわめて貴重な材料ですが、そういう高級材はじつは加工するのもわりあい楽なのです。できあがった製品もまず誰が見ても立派だきれいだと認めてくれるでしょう。それに比べると、この入り皮だらけの材料はなににどうやって使ったらいいか、ちゃんと加工ができるのか。無事に完成したとしても自分以外のどれだけの人が気にいってくれるのか。難問がたくさんあります。

田中一村作品集

書店で出会い手がふるえるほど驚きました。『田中一村作品集 新版』(日本放送出版協会刊2001年)です。名前はいちおう知っていましたし、ごく断片的には雑誌などで作品も目にしたことがあります。しかし35×26センチの大判であらためてその全貌に触れると「これはとんでもない絵だ」とうちのめされるような思いがしました。

田中一村は1908年に栃木県で生まれ、1977年69歳、奄美大島で没。18歳で東京美術学校(現在の東京芸術大学)日本画科に入学し、と、いろいろ経歴を書き連ねてもしょうがありませんが、同期生に東山魁夷がいたことは記しておいてもいいでしょう。なんといっても画業に専念 するために、50歳で家を売り払い、奄美大島におもむいたことが大きいです。紬工場で染色工として働きながら、一心不乱に絵を描きました。

ただその作品が一般に公開されたのは1979年の遺作展でです。生前、特別有名な賞を得たわけでもないし、著名な美術評論家から評価されていたわけでもありません。いわば無名の埋もれた画家に近かったわけですが、いったん公開されたあとはその作品は一般の人々をみるみる魅了、圧倒しました。緻密をきわめた描写と、それでいてただの写実に終わらない独特のデフォルメや飛躍があり、見飽きることがありません。

濃密な緑の空間に花や虫や鳥を配した奄美の連作の大作が有名ですが、「南国の明るく陽気な光景」とはいいがたい、どこか屈折したほの暗い雰囲気にも私は強くひかれます。私は絵は描けませんし専門的な知識もまったくありませんが、田中一村が技術的にも超一流の腕を持っていることはよく分かります。部分図の拡大された描線や彩色を見ると、ほとんどあきれ果てるくらい。正真正銘のこれは天才です。

下の写真は奄美大島にわたる前の絵ですが、その後の展開を予告するようなすばらしい作品です。「白い花」と題されていますが、ヤマボウシの花ですね。