月別アーカイブ: 2月 2012

シャム柿

 

これはシャム柿という名前で流通している材木ですが、じつはカキノキの仲間ではありません。樺を桜と称したり金目鯛を鯛と称したりの類いで困ったことですが、もうすっかり市民権をもってしまったので、いまさら訂正するのは難しいでしょうね。

植物学的にはムラサキ科に属する広葉樹で、学名はCordia dodecandra、メキシコ、グァテマラ等の中南米に生育していますが、現地でも希産種のようです。それほど大きくならないそうですが、写真の材は厚さ約30mm、幅約60cm、長さ2.7mの大きな板を縦に二つ割りにしたもので(写真は一部を拡大したもの)、シャム柿としては最大級に近いといえると思います。欠点のない品であればとても私などが買えるような値段の材料ではありませんが、ところどころに干割れが生じていることプラス他の理由で割安で入手できました。

現地名として Ciricore または Ziricote と表記されることが多いのですが、前者が元々の名前で、後者は Ciricore → Girikore → Ziricote と誤読・誤記されてできた名前であるとの説があります。不鮮明かつ小さな文字だといかにもありそうな話です。私としてはいちおうCiricore(シリコレ)を採用しようと思います。

産地が中南米なのにシャム、つまりタイ国の旧名が付されているのは、どうもずっと昔、品薄で高騰した国産の黒柿の代用材としてこの材料に目を付けて日本に輸入しようとした業者が、競争相手に産地を知られないようにするために意図的に付けたものだとか。事実その業者ご本人にお聞きしたことなので本当でしょう。実際には産地的にも流通的にも利用実態的にも、タイならびにその周辺の国とはまったく無関係の材料です。

材料としては褐色の地に黒い紋様が不規則に入り、硬くて木理は交錯しており加工はしにくいです。しかしながらていねいに切削・研磨をすれば非常に滑らかで光沢のある仕上面になります。気乾比重は0.9〜1.0ほどもあるので、よく乾いた材料であってもかろうじて水に浮くかどうかくらいに重いです。じつは上の写真で材料が二分してあるのも、芯に近い中央に長い干割れが生じていたこともありますが、そのままでは約60kgと重すぎてとても一人では扱いがたいこともあって、当工房で丸ノコで切断したものです。

色が黒くて重硬で模様がある材としてはホンコクタン(本黒檀)やシマコクタン(縞黒檀)が有名で、他にカリマンタンエボニーなどがありますが、それらはいずれも日本の黒柿と同じくカキノキ科。このシャム柿とはやはり紋様の入り方や雰囲気が異なります。実際にこれらの材を扱い加工している人はまず見間違えることはないと思います。いつだったかカウンターに「黒柿の一枚板」と称する材が使われているお店がありましたが、どうみてもそれはシャム柿でしたね。

シャム柿の見た目の特徴は、なんといっても「バブル模様」です。年輪とおぼしき縦縞の間に泡(バブル)のような曲線を描く模様がさらに不規則に入っています。板によってその入り方はかなり異なりますが、写真のものは柾目〜追柾の材料であることもあって比較的整然としたおだやかな感じです。もっとはじけた荒々しい、奇妙きてれつな感じのシャム柿も珍しくありませんが、そういう材だとよほどうまく使わないと俗悪下品、悪趣味なものになってしまいそうです。

下の写真は以前、上の板の一部分を用いて当工房で作った「BLACK  TOWER」という名前の掛時計です。暗黒の、もしくは深夜の教会といった、あやしい感じが出ているでしょうかね?

 

氷の形

厳寒期でもとうとうと流れ落ちている湧水ですが、その飛沫が周囲の岩や苔や木々などに凍り付きます。あたたかい水と冷たい空気のせめぎ合いが、美しいさまざまな氷の姿をかたちづくっていきます(写真は2/22胴腹ノ滝周辺で撮影)。

 

 

 

 

 

 

ムーブメント交換

 

東京都世田谷区の方から掛時計のご注文をいただきました。サワグルミ(沢胡桃)製で、時刻の目安をスリットで表した、直径12cmの小型の時計。当工房のいくつかある定番の時計のひとつです。

ただムーブメントは1秒ごとに歯車が断続的にすすむステップ式なので、静寂な環境でかなり近い距離でご使用される場合は、個人差もあると思いますがチッチッという音が気になるかもしれません。これまで実際にそのことによるクレームはありませんが、今回はお客様のご希望によりムーブメントをスイープ式(連続してなめらかに秒針がすすむタイプ)のものに交換しました。

写真はその際のもので、左が針やムーブメントを外した時計本体。紐は丸いヌメ革です。右側上の黒い色のパーツ類はそのムーブメントと針と固定用金具(ナット)ですが、金具は専用の変わった形のものなので、それを締め外しするには、やはり専用のねじ回しが必要になります。それが右下の木製柄のドライバーです。一般市販はされていないようなので、金物をあつかっているお店から特別に取り寄せてもらいました。

左の写真は左側がステップ式の、右側が今回交換取り付けしたスイープ式のムーブメントですが、外形寸法などは同一ながら、歯車の位置やコイルの大きさなど、微妙に違うところがあります。両方ともセイコーの子会社でセイコープレシジョン社製のもの。ムーブメントの精度や耐久性は、いうまでもありませんが時計の最重要部分なので、多少割高でも信頼のおけるメーカーと製品を選ぶことがだいじです。

丸猫

 

 

たたんだ羽毛の掛布団の上で寝ているトントです。日中はだいたい今はこんな感じ。下の写真はみごとに丸くなっていますが、撮影しようとするとそれを意識してか動くので、ちょっとピンぼけの写真です。ISO感度800で手持ち1/3秒はさすがに無理がありますなあ。三脚なんぞセットしたら「なんなんだ?」と、トントはまずまちがいなく逃走してしまうでしょうし。

 

 

2/22の胴腹ノ滝

 

2月22日午前8時40分頃の胴腹ノ滝です。前回の2月10日に比べ水量がずいぶん減っているという第一印象でしたが、あとで左右それぞれの個別拡大写真を検討すると右は若干減少、左は逆にすこし増加しているようにも見えます。ただしそれほどはっきりした差があるわけではありません。

しかし今回おどろいたのは、右の湧水の温度は昨年12月10日以来ずっと同じ8.6℃であるのに対し、左は8.4℃しかないことです(気温はマイナス4.6℃)。わずか0.2℃のちがいと思われるかもしれませんが、昨年3月1日以来の定期的な水温観測ではこれが最低温度で、しかも左右の温度差が0.2℃というのも初めてのことです。

最近は寒暖の差が大きく、晴れれば春の到来かと思うほど温かい日もあれば、吹雪いて平地でマイナス5℃を下回る日もあります。雪ではなく雨が降って道路の雪がほとんど消えてしまったこともあります。左側の滝の水量がわずかながらとはいえ増えているように見えるのは、ひょっとして降雨が作用しているのかもしれません。そうしたことが今回の湧水温度と温度差に影響している可能性はあると思います。

胴腹ノ滝に調査&水汲みに行くのは平日の朝が多いので他の人と出会うことが少ないのですが、今回は車道の際や歩道の入口近くの除雪をしていたら、私より若そうな男の人がひとり水汲みに来ました。「おたくも雪かきしないか?」と声をかけたのですが「いやいや」と笑って逃げるように行ってしまいました。残念。

下の写真はその胴腹ノ滝に向かう歩道入口付近のようすですが、除雪車がどけた雪が道路の両側に壁となっており、高いところは2mを越えています。1mくらいはカットしてやらないと歩道に踏み入ることが困難な状態になっています。

 

水の売り込み

工房のファックスにきのう下のようなものが送られてきました。材木とか工具や金具などの売り込みのファックスはときどきありますが、水のセールスははじめてです。

ブログで湧水のことをときどき書いたりしているので、グーグルなどの検索でひっかかってきた所に無差別で発信しているのでしょう。まあいちいちブログの内容などを精読するよりも「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」式の営業と思われます。こういうのが頻繁かつ大量だと困りますが、私にしてもものを売ることのたいへんさはよく分かりますので、ご愛嬌といったところです。

よく個人の方または事務所などで、セールスのファックスが送られてくることに対して「紙やインクはこっちもちなのに」といってむやみに怒る人がいますが、あなたの旦那(奥さん)も会社もどこだって営業や販売に必死になっているはずで、そうやってものが売れてこそ生活や世の中が成り立っている。だから、お互いさま。そんなに目くじらをたてなさんな、と私は思います。

ただ私は調査も兼ねて鳥海山麓の胴腹ノ滝の湧水を週に1回くらい汲みに行っているので、この富士山の天然ミネラルウォーターを購入する必要はありません。もっとも中身より12リットルの水専用ペットボトルは欲しいかな。

 

クレイオブジェ

 

もう十数年も前のこと、横浜の某デパートで開催された全国的な規模のクラフト展にて入手したものです。諧謔味に富んだ、なんともカラフルな色使い。主に動物をモチーフにしたクレイオブジェ(粘土細工?)の数々は圧倒的で、ほしいものはたくさんあったのですが、大きなものは買えないので小さめのをひとつ求めました。「果報は寝て待つ」と題されたカエルの置物です。

子ども向けの童話に登場するような甘くかわいいだけのオブジェとか、ロリコン趣味のフィギュアなどにはまったく興味関心がありませんが、これはけっこう「毒」を持っています。

作者はNORI工房の吉水法子さん(吉永さんではなく吉水さん)。今どうしてるかな? グーグル等で検索してみたのですが、いまひとつ不明でした。

そのときのクラフト展には当工房も家具や木製小物を展示即売したのですが、売上はたいしたことはありませんでしたし、バイヤーや来場者などとのやり取りはさんざんで、いま思い出しても腹が立つことが多いです。

飾付用胡桃大盆

 

酒田市の方からご注文いただいた胡桃(オニグルミ)の大きな盆です。和室の床の間を改装した展示空間に、サイズの小さな美術品等を飾る場合の台・ステージとして使います。

厚さ34mm、奥行(材料的には幅)360mm、幅(材料的には長さ)703mmあります。もちろん一枚板で、クルミの中でもとくに色合いや木目の美しい材料を厳選しています。お客様に納品して、実際に試験的にこの盆の上に陶磁器やガラス器、木製ふた物などを置いて飾ってみましたが、とてもよく映えました。絵画における額縁のようなものですね。

床の間の飾り台としてはふつう、短い足がついた黒漆塗の平滑な台や紫檀などの唐木の台が使われることが多く、むろんそれも悪くはないのですがあまりにも常套的すぎるので、私からの提案もありこのような飾り台となったものです。伝統的な床の間そのものではないということもありますが、このような「常識はずれ」の提案を受け入れ喜んでいただけるお客さまがいらっしゃることはとてもありがたいことです。

 

ソリあそび

「そり」をワープロソフトで漢字に変換すると、「雪車・轌・艝・膤・橇」と出てきました。なるほど、雪上をゆく船であり車であるということですね。橇は滑走用脚の象形文字でしょうか。

下の写真は鳥海山南西面の「さんゆう」という観光・レジャー施設でのもので、わが家の子どもが大きめのソリに乗って滑っているところです(顔はボカしています)。ここにはファミリーゲレンデがあるので、初級・中級クラスのスキーヤーやスノーボーダーがおおぜい遊びに来ていますが、ソリを持参している子どもたちも多いです。一人乗りとか二人乗り用とか。

ただ気になるのは「ルール違反」が少なくないことです。滑り降りたらまた歩いて上まで登るをくり返すのですが、滑走コースの真ん中を歩いたり、滑り降りた先でいつまでもコースに寝転んでいたり、コースの下方の中央で延々と初心者相手にコーチングみたいなことをやっていたり。これでは他の人は思うように滑れませんし、衝突して怪我するおそれが大です。実際私と子どもが遊んでいる2時間くらいの間にも、あやうく他の人にぶつかりそうになっているボードやソリがいくつかありました。

ソリ滑りの場合は幼児あるいは小学生低学年+親という組みあわせが大半ですが、その親自体がルールにほとんど無頓着。とうぜんその子どものほうはルールの存在に気づくはずもありません。あまりにもひどい危ないケースには私は何度か注意をしましたが。

ソリ滑りにかぎりませんが、遊びを安全に行い、他の人も自分と同じように楽しめるようにするにはかなり厳格なルールが必要です。それをみんなが守らないと現実的な危害をおよぼす可能性があるという意味で交通規則のようなものです。エチケットやマナーなどは個人的で主観的な趣味の範疇なので、私にはどうでもいいし押し付けられるのはまっぴらですが、ルールは実際的利害や安全性がからむ問題なので、やはりとても大切です。

 

凍てつく河

工房への通勤途中にほぼ毎日のように日向川の鳥海橋を渡るのですが、そこからみた上流側の景色です。撮影は2月6日の朝。

日向川は鳥海山からの水と出羽山地からの水とを集めて流れている中級程度(流程20数kmか)の規模の河川ですが、流域には湧水が多いので冬でも極端な渇水状態になることなく川が流れています。しかしこのところの寒さで流速のおだやかなところはついに表面が凍結してしまいました。まあ寒いといっても日本海に近い平野部ですから、せいぜいマイナス5℃くらいなので、全面凍結して歩いて渡れるまでにはなりませんが。