シテ3月句会 2014.03.12
短詩形表現の作品発表を主とする同人誌『シテ』の句会を、酒田市のアングラーズカフェを会場に、去る3月12日に行いました。シテでの句会は昨年から行ってはいたのですが、体制を整えてもうすこし本腰を入れて行おうということになり、その新体制における今回が第一回目です。参加メンバーはシテ同人では相蘇清太郎・阿蘇豊・今井富世・大江進・高瀬靖・早川孝子・南悠一の7人、他に外部からWNさんとOBさんの、合わせて9名。司会と事務方は南悠一、「主宰」はメンバーの中ではいちばん句歴の長いほうの私がつとめることになりました。
事前に無記名で各自2句を送っておき、それを順不同でプリントしたものを当日みんなに配ります。今回第一幕で10句、第二幕で10句あるのですが、その中から自分がいいなと思った句を2句ずつ選びます。ただし自分の句を採ってはいけません。選句が終わったら誰がどの句を採ったか発表し、高点句から順にみなで自由に批評します。句の作者が明らかになるのはその合評が終わってからです。
それでは当日の出句はどんなものだったでしょうか。第一幕の句と得点を記してみます。
0 新年が冬来るよしと光太郎
6 さわらないでフーとさかだつ春の月
2 はつ摘みの薹のかほりの朝餉かな
1 日脚伸ぶ酒蔵の酒醸されて
1 春一瞬ホワイトアウト果てもなき
1 数珠なりに血まみれの薮柑子かな
3 いつの間にお茶を入れしかボタン雪
1 血天井門を出づれば春の草
3 鈍色の空の白鳥煌めいて
0 ほろにがや舌に咲いたか蕗の花
いちばん点が入ったのは2番の<さわらないで〜>ですが、発情期かなにかで猫が毛を逆立てていて、飼い主をも寄せ付けない。しかし窓の外には柔らかい春の月がきれいにのぞいているといったあんばいで、猫と月との対比がおもしろいとの評が多かったです。セリフのおもしろさもポイント。しかしこの句には私も点を入れたのですが、逆立っているのが猫ではなくてあえて月であるととってもいいかなと思います。月に触れるといった表現は俳句ではわりあいよく出てきますから。作者は早川孝子さん。
次点3点句は7番の<いつの間に〜>と9番の<鈍色の〜>です。いれたお茶のことをすっかり忘れてしまうほどに降ってきた雪に見とれているようす。感じはよくわかるのですが、やや常套的ですし、「ボタン」ではなくやはり「牡丹」か「ぼたん」でしょうね。作者は阿蘇豊さん。白鳥の句は、これも最上川の河口には毎年たくさんの白鳥が飛来してくるので、実感としてよく理解できます。ただ上五を下に持ってこないと白鳥の輝きが半減してしまいます。作者はWNさん。
2点句の3番<はつ摘みの〜>は薹だけでフキノトウを意味するのはちょっと無理があると思います。 6番<数珠なりに〜>はヤブコウジの実はそういう実の付き方はしませんし、血まみれと表現するのはやはり強引すぎるでしょう。むろん俳句は文学的なものなので、科学的事実そのままでなくともかまわないのですが、それには読者を納得させるだけの強靭さが必要です。
ちなみに私の句は8番の<血天井〜>ですが、そもそも血天井という言葉があまりなじみがなかったようです。知らない言葉だと想像力もはたらかないので難しいですね。
さて第二幕の10句です。
2 落椿断崖なれば地を汚さず
0 春招く篝火花の競い立つ
4 花びら餅手に幸せのつたはれり
1 弥生というほっとする名の女の子
2 月凍る湯気たち小鍋独り言
0 春日差しパンダと転び遊ぶ児ら
3 ホワイトアウト潰えゆく冬かもめ
1 きみまちざかあつい恋文目に雪が
2 象の声寒さ戻りて弥生尽
3 白菜を三枚むいて春のかお
最高点は3番<花びらもち〜>ですが、正月のしあわせな気分が、手に持った餅の重さや感触から伝わってきます。これも非常によくわかる情景ですが、強いて言えば「幸せ」という言葉を使わないでその幸福感をうまく表現できないだろうかと私はどうしても思ってしまいます。他の人がきっと採るだろうということで私はパスしました(すみません)。作者はWNさん。
次点3点句は7番の<ホワイトアウト〜>と10番の<白菜を〜>。ホワイトアウトという言葉は第一幕でも出てきましたが、ここ庄内平野は地吹雪の名所で、誇張ではなくほんとうに1m先が見えなくなるほどの猛烈な吹雪がときどきあります。そういう悪天候下でもカモメ(正確にはウミネコ)が餌を求めて海から飛んでくるのですが、鳥の白と雪空の白とがすぐさま溶けあってみえなくなってしまいます。それを「溶ける」や「消える」ではなく「潰えゆく」と表現したところがいいですね。これは私も採りました。作者は南悠一さん。
白菜の句は、外見は薄茶色に汚れていても3枚もむくと新鮮な緑色が出てくるという台所の様子がよく表現されています。たしかに一枚二枚では足りず、三枚ですねえ。作者は阿蘇豊さん。
私の句は1番の<落椿〜>ですが、これは庭に植えた椿ではなく自生の薮椿や雪椿のことで、その情景をよく見知っている方から採っていただいたのはうれしかったです。
2点句が3句ありますが、5番の<月凍る〜>は付きすぎで、かつ言葉が多すぎるので、もっと整理したいです。9番の<象の声〜>は、私も採ったのですが、動物が象だからこそいいと思いました。体の大きな動物はその体積のわりに表面積が少ないからか意外に寒さにも平気みたいですね。
じつは投句者が9人で2句ずつなので計18句のはずだったのですが、3句出した方がいたために穴埋めの意味もあって俵万智さんの既出句を一句まぎれこませたとのこと。それが4番の<弥生という〜>ですが、私にはこれはまったく駄句としか思えません。「ほっとする」などという安直な答えを、あまりにも直接的な答えを自分から言ってしまっては元も子もありません。
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午後6時半から9時まで、新体制初の句会でしたが、比較的初心者の多い句会にもかかわらず、凡句・常套句・優等生句のオンパレードに陥ることもなく、総じていえばまずまずのできではなかったかと思います。次回は5月14日(水)の開催予定です。みなさまふるってご参加ください。