月別アーカイブ: 1月 2014

ティーブレーク

当工房の旧ホームページは、2004年3月から2009年1月まで発信していました。その後パソコンの新しいOSがそのホームページ作製ソフトに非対応となってしまったので、現在はワードプレスというソフトを使ってブログ形式で発信しています。旧ホームページはこのサイトの各ページ右側の「リンク」の覧で「(旧)ホームページ」という部分をクリックすると閲覧することができます。

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さてその旧ホームページですが、その中に「ティーブレーク」と名付けた覧があります。最初のページの下方で最後の項目として置いてあるものです。当サイトは基本的には木工房オーツーのホームページなので家具や木製小物などの発表や宣伝、木工の技術や機械道具や材料などのお知らせを主とするサイトなのですが、そればかりでは木工をされている方以外の方にはあまりおもしろくないかもしれません。そこで、私の仕事外の取り組みだった俳句を中心として、自作の句2〜4点と句中の言葉や句にちなんだことがらの解説などのミニエッセイを添えたページをときおり発信していました。こちらは自作の句数計387句、ページ数で計142頁となります。上の写真は最後のページ=179頁を印刷したもので、[リカちゃんは正座が苦手雛飾]という句を末尾に載せています。

前のホームページは、通常のパソコンの画面で縦スクロールすることなく一度に見ることができるページをそのままA4サイズでプリントアウトすることもできるようにしていました。したがって書籍や雑誌のページのように字数などは基本的に固定です。レイアウトも崩したくないので、テキストも含めすべて画像で出力しています。ただこのようなスタイル、自分で作った俳句2〜4点に、ミニエッセイをくわえ、さらに自分で撮った写真をそえて限定された大きさのページに過不足なく毎回きっちり納めるのは、けっこうな難事でした。

しかしながら、この「ティーブレーク」をご覧いただいた方の中で少なからぬ方から、俳句と短文と写真のマッチングがとても個性的だし内容もいいとのありがたい評価をいただきました。句作のほうは仕事の関係やその他諸々の事情もあって、ホームページへの掲載が頓挫するとほぼ同時にかなりトーンダウンしていたのですが、最近またひょんなことから句作を再開し、また近在での句会への参加を要請されています。

これをいい機会として当サイト上で「ティーブレーク」のようなものを近々始めようと考えています。同じ名前ではなく別の名前とも考えたのですが、まあこのへんは適当にということで「コーヒーブレーク」とでもしますかね。芸はないですけど。

 

互換性の充電池

当工房では充電池を使用するタイプの電動工具類を活用しています。程度としては零細な木工房としては珍しいくらい多いかもしれません。その充電池は、以前は3つくらいのメーカーの、かつ同じメーカーでも機種ごとにことなる何種類もの充電池を使っていたのですが、煩雑でかなわないので、今はマキタの14.4VリチウムイオンバッテリーBL1430だけに統一しています。

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マキタではこのバッテリーは現在83種類もの機種に対応できるそうで、以前の互換性がほとんどない充電池を思うと雲泥の差があります。下の写真は当工房でそのBL1430を使用する機械類です。12時の位置から右回りに、インパクトドライバー、ドライバードリル、アングルドリル、ジグソー、10mmタッカー、100mmディスクグラインダー、蛍光灯、フラッシュライト、125mmマルノコ、そして中央がクリーナー。以上10種類。インパクトドライバー、ドライバードリル、クリーナーは各2台あるので計13機です。

ただし使用頻度は機種によってだいぶん差があるので、よく使うものについてはバッテリーを差したまま、たまにしか使わないものについては常時の差し込みはなしで必要なときだけ他の機械から移して使います。したがってバッテリーは合計8個だけです。充電器は14.4Vだけでなくマキタの7.2〜24Vのリチウムイオンバッテリーまで幅広く対応可能な急速充電器DC24RCです(14.4Vのフル充電で22分)。それまでの充電器は自宅で使うことにしたので、ジグソーだかタッカーを新しく導入する際にバッテリー2個+充電器のセットで購入しました。このようにバッテリーと充電器は共用可能で機械の数よりずっと少数ですむので非常に経済的で場所もとりません。

値段的には最初に本体+バッテリー2個+充電器のフルセットで購入すると、例えば最新式のインパクトドライバーTD136Dの場合セットだと56900円もするのでたいへんですが、本体だけなら20900円とかなり割安です(ともに税抜定価)。インターネット通販などで購入すれば本体のみであれば14000円弱くらいで入手できるので、「すごい安いよな〜」という感じ。販売戦略としては上々でしょう。

もっともいいことずくめではなく、こうした充電池式の電動工具は100V交流電源のコンセントにコードを差し込んで使う電動工具に比べるとパワーは一回りか二回り落ちます。当工房では使用していませんが、たとえ24Vや36Vの充電池の機種でも100VACにはとてもかないません。また長時間連続して使うと充電池が過放電になり過熱して充電池の寿命をいちじるしく縮めてしまいます。さらに、本体は比較的安く購入する方法がありますが、充電池はそれほど値引きはしてくれませんし(BL1430は定価だと16000円)、机上の計算は別として実際には1000回程度の充電で寿命となります。

充電池式の電動工具は電源のコンセントがないところでもどこでも使えることと、コードがないので取り回しがとても楽だというのが最大の利点ですから、100VACの機械とうまく使い分けることが肝要ですね。

 

鯨の目

成田三樹夫遺稿句集『鯨の目』。1991年に秋田市の無明舎出版から発行されたたいへんしゃれた句集です。写真は左が外箱ですが、本体は布装上製本、一ページに一句という通常はありえないほど豪華な句集です。で、装丁はなんと平野甲賀です。出版やグラフィックデザイン関係の人なら知らない人はいない非常に有名なデザイナーですね。

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じつは成田三樹夫は山形県酒田市に生まれ、高校も私の母校でもある県立酒田東高です。3年生のときに文化祭でチェーホフの「煙草の害について」の一人芝居を演じたそうですから、その後の俳優としての人生を予感させます。私は映画にはまったくといっていいほど知識素養がありませんが、名脇役としてたいへんに有名であったようです。しかしながら1990年に55歳という若さで病気で亡くなりました。

成田三樹夫は俳句結社等には属さず、ほぼ単独で句作を行っていたようですが詳しいことはわかりません。句集『鯨の目』に収録された230ほどの句に数回目を通してみましたが、感想を正直に述べるならば「まあまあ」というところです。とくべつうまいとはいえません。結社などで他の俳人から厳しくもまれていないためか、発想はいいのに表現の詰めがかなり甘い句や、どこかで見たような句=類想句も少なくないと思います。有季定型の句もあれば無季の句や自由律の句もあるのですが、とくにどのスタイルが得手という感じではありません。むろんそれは別にかまわないのですが、氏の場合は自分の方向性をうまく追求しきれなかったのかもしれません。55歳で没というのは、一般的にいえば俳人としてはあまりにも早すぎる死ではあります。

タイトルの『鯨の目』は[鯨の目人の目会うて巨星いず]から採られたと思いますが、同じ鯨がモチーフなら[鯨の背のぐいと海切る去年今年]のほうが情景が鮮明に浮かびます。巨体ゆえに遠目には動きがスローモーに見えるさまや、大海原の日付変更線を想像したりもします。「巨星いず」では雰囲気はあるものの結局なにを言いたいのか判然としません。もうひとつ[荒海や王道自在のシロナガス]は王道自在と答えを先回りして出してはだめよと思います。シロナガスクジラは現在地球上で最も大きな動物ですが、王道自在といわないでそのことをいやおうなしに想わせるような言葉がほしいところです。

鯨よりももっと小さな、小鳥や昆虫や犬を、または植物をよんだ句はなかなかいいです。[冬の陽やとっぷりと柴の犬][蟇の背に奔流走る時雨哉][犬と蟇にらみ合う間の大宇宙][小綬鶏をはじいてわらう大地かな][鶯の首まきついて梅ちらず][怒濤音のさきがけとなり水仙花]など。ただ「柴の犬」はやはり「柴犬」でしょうし、奔流も時雨も走るものなので「走る」は不要でしょう。

自然の大景をよんだ句、[天を抜き地を抜いてゆく屋根の線][風吹いて空わっとかをを出し][朱き丸太に梅雨空おちている][五十億年寝返りうつやこぞことし] ですが、風吹いての句がとくにおもしろい。雲が切れて青空が現れたという単純な話ではたぶんないでしょうし。

自然の情景と人との関わりの中での、場面の転換、[白き指舞いあがる方すばる星][やまびと歩きはっと山あきらか][投げられし蛇の目に童たち宙を舞い][鳥たちのとんでいった石の上に腰をおろす][山近々と肺ひろがる][万両や柴の犬を紅一過せり]といろいろありますが、投げられた蛇や通り過ぎる犬への視点が、句の中で突然向きが変わります。あざやかな不意打ち。ただ表現としてはまだ練り切れていないのが残念です。

氏は50代半ば亡くなるわけですが、その前に病気で苦しんだり長く病院暮らしも余儀なくされたようです。そうした境遇のなかででしょうか、[肉までもぬいだ寒さで餅をくい][頭洗うや掌にのりたる頭蓋おかしき][寝返れば背中合わせに痛むひと]などの句は身につまされるものがあります。頭洗うやの句は「おかしき」とまで言わないほうがいいとは思いますが。

以上、ずいぶん辛辣なことも遠慮せずに書いてしまいましたが、氏が俳句を単なる趣味暇つぶしのものとしてではなく、自分の生死の一端をかけて真摯に取り組んだからこその敬愛のしるしとしてご容赦ください。

 

包丁研ぎ

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酒田は池田太四郎商店(☎0234-22-9986)で作られた包丁。菜切包丁と牛刀を兼ねたような形で「文化包丁」という形式の包丁です。出刃包丁ほどでありませんが、刃身の厚さは元で3.3mm、先で2.0mmあり、かなり頑丈。肉・魚・根菜から葉菜や果物まで、これ一丁でほとんどなんでもこなせる万能型の包丁です。飾りなどは皆無で質実剛健、実用に徹した作りです。刃渡り175mm、全長315mm。

写真は真ん中の1丁は私の家で9年近く使用しているものですが、あとの2丁は先日お客さまから研ぎを頼まれたものです。刃の材質はステンレスではなく日立安来鋼(ひたち やすきはがね)の白紙2号。靭性があって刃こぼれしにくく、極端に硬くはないので比較的研ぎやすい刃物専用の鋼材です。ステンレスの包丁とちがって錆びやすく水気や汚れをまめに拭き取るなどの手入れを必要としますが、よく研けば「包丁の重さで」切れるようなすばらしい切れ味を堪能することができます。

3本とも元々はまったく同じ型と大きさの包丁なのですが、明らかに幅はちがっていますね。計ってみると上は47mm、中が42mm、下は37mmしかありません。お客さまによれば下の包丁はもう20年以上愛用されているとのことで、新品に比べ10mm以上細身になってしまいました。柄は一度すげかえているみたいですね。ただし研ぎはいつもだと製造先&購入先の池田太四郎商店さんにときどきお願いしているそうです。

今回は急ぎということで当工房に持ち込まれたわけですが、面白いと思ったのはまったく同じ包丁でありながら研ぎの仕方が異なることです。当工房では自宅のも含めて都合3丁この包丁を使っているのですが、当然自分で研ぐので、切れ味重視で研いでいます。切れが甘くなったらすぐに研ぐ。それに対しお客さまの包丁は刃先の0.5mmくらいだけ一目でわかるくらいに光っています。つまりよほど摩耗しないかぎり、刃先だけを仕上砥石で研ぎ直ししているということです。その角度は私がふだん研いでいる場合よりやや鈍角。つまり刃の角度が2段階になっているということです。

刃物は身が薄く切れ刃の角度が浅いほど抵抗が少ないので切れ味はいいのですが、そのかわり折れたり欠けたり摩滅しやすくなります。そこで全体はほどほどの厚さ+鋭角の刃にしながら、先端の0.5〜1mmくらいだけ基本角度より2、3度ほど大きな角度で研ぎます。これを「2段研ぎ」といいますが、こうすることによって切れ味はいくぶん鈍るものの格段に刃持ちがよくなります。これはご自身で刃研ぎができない場合の一種の解決策といっていいかもしれません。