酒田は池田太四郎商店(☎0234-22-9986)で作られた包丁。菜切包丁と牛刀を兼ねたような形で「文化包丁」という形式の包丁です。出刃包丁ほどでありませんが、刃身の厚さは元で3.3mm、先で2.0mmあり、かなり頑丈。肉・魚・根菜から葉菜や果物まで、これ一丁でほとんどなんでもこなせる万能型の包丁です。飾りなどは皆無で質実剛健、実用に徹した作りです。刃渡り175mm、全長315mm。
写真は真ん中の1丁は私の家で9年近く使用しているものですが、あとの2丁は先日お客さまから研ぎを頼まれたものです。刃の材質はステンレスではなく日立安来鋼(ひたち やすきはがね)の白紙2号。靭性があって刃こぼれしにくく、極端に硬くはないので比較的研ぎやすい刃物専用の鋼材です。ステンレスの包丁とちがって錆びやすく水気や汚れをまめに拭き取るなどの手入れを必要としますが、よく研けば「包丁の重さで」切れるようなすばらしい切れ味を堪能することができます。
3本とも元々はまったく同じ型と大きさの包丁なのですが、明らかに幅はちがっていますね。計ってみると上は47mm、中が42mm、下は37mmしかありません。お客さまによれば下の包丁はもう20年以上愛用されているとのことで、新品に比べ10mm以上細身になってしまいました。柄は一度すげかえているみたいですね。ただし研ぎはいつもだと製造先&購入先の池田太四郎商店さんにときどきお願いしているそうです。
今回は急ぎということで当工房に持ち込まれたわけですが、面白いと思ったのはまったく同じ包丁でありながら研ぎの仕方が異なることです。当工房では自宅のも含めて都合3丁この包丁を使っているのですが、当然自分で研ぐので、切れ味重視で研いでいます。切れが甘くなったらすぐに研ぐ。それに対しお客さまの包丁は刃先の0.5mmくらいだけ一目でわかるくらいに光っています。つまりよほど摩耗しないかぎり、刃先だけを仕上砥石で研ぎ直ししているということです。その角度は私がふだん研いでいる場合よりやや鈍角。つまり刃の角度が2段階になっているということです。
刃物は身が薄く切れ刃の角度が浅いほど抵抗が少ないので切れ味はいいのですが、そのかわり折れたり欠けたり摩滅しやすくなります。そこで全体はほどほどの厚さ+鋭角の刃にしながら、先端の0.5〜1mmくらいだけ基本角度より2、3度ほど大きな角度で研ぎます。これを「2段研ぎ」といいますが、こうすることによって切れ味はいくぶん鈍るものの格段に刃持ちがよくなります。これはご自身で刃研ぎができない場合の一種の解決策といっていいかもしれません。
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