鳥海山南西面を流れる西ノコマイ(西ノコメ)の一ノ滝・二ノ滝・三ノ滝あたりまで子どもといっしょにハイキングに行ってきました。雪解けと中・高山帯の降雨のせいか水量が多く、たいへん見ごたえがあります。
この渓谷は以前の地形図には「南ノコマイ」と記されていましたが、江戸時代の地図には「西ノコマイ」と書いてあります。現在月光川ダムのある地域は三の俣(みつのまた)と呼ばれていますが、これは月光川本流がここで3本の川に分かれることから名付けられたもの。すなわち、3河川の合流点から上流側を見た場合に、西よりにある川が西ノコマイで、南よりにあるのが南ノコマイ、その2川の中間にあるのが中ノコマイです。国土地理院の地形図にはときどきあることなのですが、政府の測量官が地元の人間に地名を聞き取る際に誤記したもののようです。ちなみにコマイまたはコメは先住民族であるアイヌ語に由来するものだとか。
さてその西ノコマイですが、北庄内三名瀑のひとつと目される二ノ滝というたいへん有名な滝があることから、一般には「二ノ滝渓谷」という名前がもっとも広く知れ渡っています。しかし左岸・東側の月山森(1650mm)の西斜面から流入する小沢をいくつも集めているためか、おおよそ二ノ滝より上流は月山沢と称されることがふつうです。とくに登山者にはそちらのほうがぴんとくるようで、西ノコマイとか言われてもいったいなんのことやら、かもしれません。ひとつの河川が下流から中流・上流となるにつれて本流筋でさえ名前が変わり、また同じ沢の同じ範囲が人によって呼び名が変わるというのは興味深いことです。
二ノ滝駐車場から鳥居をくぐって5分も歩くと一ノ滝です。一之滝神社のすぐ先に滝を展望する下りの長い鉄製階段があり、そこから滝を斜め横から眺めることができます。ものすごい水量と轟音です。滝の水しぶきで階段もびしょぬれ。下部の赤い地層の上に硬い岩盤(溶岩流)が重なっていることがよく分かります。下のほうが柔らかいので滝壺の回りが浸食されており、最近も滝のやや下流の右岸が一部崩落しました。一ノ滝の落ち口右側にも真新しい剥落の跡がありますね。
一ノ滝の滝壺ですが、落水で一面泡立っていて、底がぜんぜん見えません。手前の草は岸辺ではなく崖の途中に突き出た巨岩の上に生えているものです。
遊歩道の一ノ滝から二ノ滝に至るまでの1キロあまりの道程途中からもずっと西ノコマイ=月山沢の清冽な流れを眺めることができます。一ノ滝・二ノ滝ほどではありませんが、小規模の滝や淵は数えきれないくらいたくさんあります。巨岩が主なので写真では小さな渓流のようにも感じますが、けっしてそんなことはなく、落ちたらまずまちがいなく流されて溺れてしまうような激流です。
一ノ滝から15分も歩くと二ノ滝です。セメントブロック作りの小さな二之滝神社をまわるといきなりその姿が現れますが、いやあ、驚くばかりの迫力です。ここからは左岸にわたる鉄製の頑丈な橋があるのですが、滝からはまだけっこう距離があるにもかかわらずしぶきがたくさん。画面の上のほうが白っぽいのはその水煙です。ここでお弁当を食べたのですが、すぐそばに座った子どもの声も滝の音にかき消されてしまいよく聞こえません。
橋をわたって左岸の急斜面を登ります。まだ遊歩道の続きの感じに近いので、しっかり石段が刻まれています。その斜面の途中で真横から見た二ノ滝です。高さ25mくらいの直瀑のはずですが、水勢があるので60度くらいの角度で水が落ちていますね。
急坂を登り切ると登山道は二手に分かれていて、直進してやや下ると滝の真上の展望台に出ます。そこからの二ノ滝の落ち口です。ずっと昔に足を滑らせて墜落死した人がいましたが、今は擬木の柵が設置されています。
このあとは先の分岐にもどって左に月山沢を見下ろしながらゆるゆると登行しますが、10分ほどでふたたび右岸に渉る橋=狭霧橋(さぎりばし)との分岐に出ます。上の写真はこの橋の上から上流側を撮ったものですが、両岸が切り立ったゴルジュ状の滝がいくつも見えます。しかしあまりにも段差が多い渓流のせいか、中小規模の滝にはいちいちは名前が付いていません。
右岸をさらに登行します。10分ほどで「←水場10分」という標識もある、三ノ滝展望台に出ます。ただし展望台とあるものの樹木に視界をさえぎられてほとんど滝は見えません。滝は斜瀑ながら長さ100m近くはありそうなので、ちょっとこのままではもったいないです。高山帯ではないので、滝の姿が見える程度の最低限の枝打ちは許されてもよいかなと思いますが。
三ノ滝までいちおう見物したので、さっきの標識にもあった水場の苔沢徒渉点まで行ってみました。幅2mくらいの渓流ですが、湧水起源と思われる冷たく澄んだ流れです。
今回は草木の花はずいぶん少なくなって、よく目に付いたのはフタリシズカ(センリョウ科)、ニガナ(キク科)、ヤマツツジ(ツツジ科)くらいでした。写真はフタリシズカです。