材木の表情は大きくは二つに分けられます。年輪が平行線を描くような方向に製材(年論に対し直交に切断)してある木材を柾目材=まさめざい、年輪が波状の曲線を描くような方向に製材(年輪に対し平行に切断)してある木材を板目材=いためざいといいますが、柾目の材でも年輪と年輪との間隔がきわめて狭く整然と木目が並んでいるものをとくに「糸柾」と呼んでいます。上の写真がそれで、天然秋田杉の糸柾材です。
糸のように細い木目、というわけですが、ではどれくらいの細かさであれば糸柾かという厳密な定義はじつはありません。たぶんに感覚的・恣意的なものですが、スギの板で平均1mmほどの写真のような材なら、文句なく糸柾でしょう。とくにスギは色の薄い春材と、濃色の秋材との差がいちじるしく、まさしく糸のように細く濃い秋材の線が何十本、何百本とならぶさまは非常に美しいものです。複雑にうねった板目の材木とはまたちがった良さがあります。
和風建築などでよく「総ヒノキ造りの豪邸」などと喧伝されることがありますが、じつはほんとうに高級な和風建築はスギの糸柾材などをふんだんに、しかもさりげなく使用した建物です。もちろんそれは嗜好の世界なので、絶対的にどちらが上というような話ではありませんが。私は家具作りの前は、もう30年近くも昔ですが5年くらい大工仕事をしていました。そのときの工務店の主張や私の経験でも、造作材をみな目の詰んだ赤味の杉でそろえた建物はたいへん見事なものだと思いました。ただ杉は硬軟(春材・秋材)の差が大きく、ヒノキなどに比べると加工は一段難しいと感じます。
下の写真はその糸柾の角材で、青色のクーピーで記してある数字はその面の厚みをあらわしています。やや目の粗いものもありますが、上・下の角材では写真を拡大してさえ木目が溶けてしまうくらいの極細の柾目ですね。樹齢としてはゆうに200年は越しているでしょう。