チゴユリ

そろそろ時期的に終わりかけていますが、いま低山域の林床によく咲いているのがチゴユリです(Disporum  smilacinum)。漢字で書くと稚児百合で、お稚児さん(幼児)のように小さくて愛らしい百合の花ということですね。草丈は15〜30cmくらい、花びら(花被片)は6枚で15〜20mmの長さ。サイズはみな小ぶりながらも、よくみると全体の立ち姿も葉も花もたしかにこれは百合の仲間です。果実は直径10mmほどの球形で黒く熟します。

やや薄暗い感じの、あまり薮っぽくない林というと植林された杉林などが代表的ですが、まさにその林床にほぼ一面に咲いていることが多いです。人工林だから必ずしも草花が少ないわけではなく、種類によってはこのチゴユリのように自然の林よりも繁茂していることがあります。ほかにもミヤマナルコユリ、ホウチャクソウ、ヤマユリなどの百合の仲間は杉林ではおなじみです。落葉広葉樹主体の雑木林の林床、つまり自然林もしくは二次林の場合は春先は陽が当たるためかチゴユリなどはそれほどみかけません。他の草本の勢いに負けてしまう感じですね。

ただ一部で唱えられている「植林地は自然が豊かで動植物の種類数も多い」という主張は私は疑問に思っています。植林はもともと自然状態でいろいろな植物が生えている自然林を伐採し、杉や檜や松などを植え、作業道を通し、苗が育つとまた木材として切り出すわけですが、人為的に比較的短いスパンで自然環境が撹乱・改変されることによって、結果的にさまざまな自然環境が同時的同所的に出現します。それによってその小規模かつ多様な環境のそれぞれに適応した生き物が残存し、または他から進出してくると考えられます。

原生的な自然林の場合は、天変地異が起こればがらりと変わるものの、そうした大きな圧力と圧力の間はわりあい穏やかな環境なので、その環境に最も適した動植物がしだいに優先してくるということがあるでしょう。したがってそうした長期にわたり安定した林のごく一部分だけを、例えば数ヘクタールを切り取って同規模の植林地と比較すれば、かえって自然林のほうが動植物の種類は少ないという場合もあるかもしれません。しかしそのことをもってして植林地や人工林のほうが自然が豊かというのはほとんど詭弁に近く、かなり無理がある主張です。

 

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