工房の建物のすぐそばに大きなキリの樹が立っています。目通りで直径50cmくらいあります。工房の建物はもともとは地元の工務店の刻み場だったので、そこの持ち主(大工)が植えたものかもしれません。樹齢はおそらく40年くらいでしょう。
そのキリの幹は一色ではなく銀灰色、濃灰色、黒色、淡青緑色、黄緑色、濃緑色など、さまざまな色の模様に彩られています。これは樹木自体の体色ではなく、他の生き物が取り付いているからです。緑色系のは主にコケですが、あとはだいたい地位類ですね。
地位類とは一般的には耳慣れない言葉だと思いますが、菌類+藻類からなる共生生物で、外見がコケ植物に似ているのでしばしばコケの仲間と混同されますが、地位類は基本的には菌類であって植物ではありません。地位類もコケ同様に光合成は行っているのですが、菌糸でできた構造体内部に光合成機能をもつ藻類を内包しています。両者は完全に一体化・融合しているわけではなく、それぞれが独立した生物です。
私もなんのことはない、30年くらい前までは地位類もコケもいっしょくたで区別ができていませんでした。しかし多少知識を得ると地位類はたいへん面白い生き物だと感じますし、コケとの見分けもさほど難しいことではありません。ただし「〜ゴケ」と名前が付いている地位類も少なくなく、昔の人もやっぱり区別ができていなかった(orしなかった)んだなと思います。
地位類は形態的には葉状地位類・痂状地位類・樹状地位類に大別されますが、このキリの幹に見えている銀灰色・淡青緑色のものは葉状地位類、その他は痂状地位類です。樹状地位類はなさそうです。葉状地位類はまだ嵩丈があってコケに似た雰囲気もあるので生き物だなと分かるのですが、痂状地位類の場合は極薄平坦で、木肌や岩に密着、ものによっては基質にまったく溶け込んで一体化して見えるものすらあります。知識がなければ木や岩そのものの紋様と錯覚してしまうでしょう。
たとえば左の写真で赤や緑色のものはコケですが、左側半分の白いまだら模様は、灰色の安山岩に密着している地位類です。岩の表面の細かな凹凸に埋没しているので、実質的には厚さゼロといってもいいような具合です。これで生き物だと言われても「ほんとー?」ですよね。