ヒノソのゴルジュ

鳥海山の南西斜面を流れているヒノソ(檜ノ沢とも)という渓流があります。鳥海湖と鍋森(1652m)の間の凹部を源頭とし、下流で高瀬川となり月光川本流と合わさって日本海に注ぐ川です。遊佐町の白井新田地区から鳥海湖に至る万助道という登山道は、標高640m付近の渡戸(わたど)でこのヒノソに出会いますが、この渡戸からすぐ下流側はみごとなゴルジュになっています。

ゴルジュというのはフランスのgorge(=喉の意)からきている言葉で、山岳用語・登山用語としては両側が切り立った岸壁になっている廊下のような地形の渓谷をさすのがふつうです。このヒノソのゴルジュは幅の狭いところで3mくらい、深さはその2〜3倍程度、長さは200m弱と規模は小さなものですが、形状としてはまさに典型的なゴルジュといえるでしょう。

写真は今年10月下旬に湧水等の調査採取のおりに立ち寄ったものですが、秋期のうえに近々で降雨がなかったために、谷底にも水流はほとんどありませんでした。そこでそのゴルジュの底に降り立ってみたのが下の写真です。水は伏流水がところどころに顔を出しているものですが、おどろくほど澄んでいます。飲んでもおいしい水です。周りは大昔に鳥海湖あたりから流れ出した溶岩におおわれています。水かさの多いときはきわめて危険な場所ですが、この日は巣穴にこもったような不思議な安心感がありました。

鳥海山は単体の火山としては日本有数の規模をほこる山です。火山体の基底部だけでも東西26km、南北14kmあり、山体崩壊による堆積物もふくめれば南北に40kmにも及びます。五万分の1地形図でほぼ二枚分。「日本百名山」のブームや、中腹まで観光道路が延伸したことで、五合目から頂上にかけての上半分だけが近年注目をあびるきらいがありますが、じつはその下の部分のほうがずっと広大であり変化に富んでいます。隠れた穴場や秘境もたくさんあります。このヒノソのゴルジュもその一つといっていいでしょう。

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