日本語でいうと隙間定規。主に機械類の隙間に挿入することによってその隙間の寸法がいくらであるのかを測定します。がたつきがなくぴったり無理なく挿入できるリーフ(各定規の葉片)の厚みが、その隙間の寸法というわけです。写真のシックネスゲージは長さ65mmの炭素工具鋼のリーフが25枚、組みになっており、厚さは最も薄いものが0.03mm、最も厚いものが1.00mmです。家具作りでは出番は少ないのですが、今回は小簞笥の抽斗と本体との隙間を決めるのに用いました(小簞笥については11/17に掲載)。
抽斗は隙間が小さければ小さいほど見栄えはしますが、よく乾燥しかつ通直な材木であっても温度湿度の変化によっていくぶんかは寸法が増減したり変形することを避けることはできません。乾燥材(含水率10%程度以下)であれば長さ方向は実用上は無視してもいいくらいですが、幅や厚みは思ったより変わるとみたほうがいいでしょう。仮に0.1%の延び縮みなら、幅1mの天板は1mm、0.3%なら3mmは動くわけです、実際テーブル類の天板(甲板)はそれぐらいは変化します。抽斗の場合も同様に変化しますので、あまりぴったりに作ってしまうと温湿度等によって膨らんだときにきつくなって開け閉めできなくなってしまいます。きついのを無理に引っ張って取っ手を壊してしまったといった故障はよく耳にします。
かといってあまり隙間が大きいのはみっともないし逆に開け閉めするときのがたつきの原因にもなりかねません。したがって見てくれと機能とのちょうどいい折り合い点をみつける必要があります。この小簞笥の例では、本体全体の寸法が高さ30cm程度で、いちばん大きい抽斗の高さ(=材料的には幅)も10cmちょっとです。このくらいの大きさのものであれば隙間はかなり小さくても支障ないはずなので、抽斗前板と本体との隙間は左+右で0.1mm、上+下で0.25mmになるように調整しました。
実際のその調整の手順としては、1)本体が組み上がったら、その開口部の大きさに合わせてまず抽斗の前板を決めます。この段階では隙間はゼロのつもりできつめにぎりぎりにします。ほとんど余裕はない状態なので、少し力を入れすぎて本体の中に押し込んでしまうと取るに取れない困ったことになるので要注意です。2)次にその前板に合わせて抽斗の側板・向板・底板などの寸法を、前板よりわずかに、0.2mm程度大きくなるようにして全体を組み立てます。3)組み上がった抽斗の、前板からはみ出した部分を慎重に削り段差をゼロにします。これで抽斗全体が本体に一応入り込むはずなのですが、スムーズに開け閉めできるようになお少しずつ削り合わせます。4)抽斗の全段が開閉できるようになったら、いよいよ隙間の調整です。シックネスゲージをそのつどあてがいながら、所定の隙間にそろうように何度でも本体に入れたり出したりして決めていきます。
このように抽斗やあるいは扉が本体の内部に収まるようにする形式のことをインセットといいますが、上記の説明でおわかりのようにじつに面倒です。しかしきれいに収まったインセットの抽斗や扉はたいへん美しいと思います。ただあまりに微妙すぎる加工と調整なので、機械的な量産は不可能で、結局手作業でひとつひとつ合わせていくしかありません。
その手間暇と熟練の技能を嫌って、現在ではとりわけ市販の量産のほとんどの家具の抽斗や扉は、それが本体にかぶさるような形式のアウトセットになっています。これであれば最初の加工と組立を図面通り計算通りにきちんと作りさえすれば、あとからの微調整などはまず必要ないのですね。コスト第一ならアウトセットにかぎると思います。