椅子とかテーブルの脚など、角度が付いた部材がよくあります。木取〜下拵えでまず元から末まで同じ寸法の正確な角柱を作ってから、それに墨付をして一定量を切ったり削ったりしてテーパーを付けていくのがふつうですが、写真はそれを専用治具+自動鉋盤で一気にやってしまう工夫です。
鉋盤の定盤にのっている木材の下方のクリーム色のものが治具で、仮に「勾配削り用ベッド」と呼んでいます。勾配(こうばい)というのは、例えば「100m水平移動すると10m上がるような傾斜のことを0.1勾配」というように表現します。角度で何度と表してもわるいわけではないのですが、紙の上で作図するだけならともかく、現場で12度だとか27.5度だとかを迅速かつ正確に墨付し加工するのは非常に困難です。巨大な分度器が必要ですし、分度器の目盛にたよってのマーキングは誤差が出やすいからです。
その点勾配で0.255とか図面に表示してあれば、1mの水平線の一端から25.5cm垂直に立ち上げたところの点と、水平線のもう片方の端とを結べば「勾配0.255」の傾斜線が簡単に引けます。角度表示に比べ作業性は抜群にいいわけですね。
今回の治具もその勾配表示〜加工にならったもので、全長1mほどのヒバの台が0.015の勾配でできています。治具の上に載っているのは家具のパーツで、治具といっしょに自動鉋盤に入れてやるとパーツの上面が0.015の勾配に削れます。もちろん切削量が多い場合は、一度に2mmくらいずつの削りを数回繰り返して最終的に所定の寸法に仕上げます。また、パーツがぶれないように両端を駒で規制しています。
パーツ一本ごとに線をひき、それをのこぎりで切り、鉋できれいに削ってという通常の加工手順に比べ、きわめて早く正確に加工できます。この方法では基本的に機械自体の精度がそのままパーツの精度に伝播することになりますが、実際のところ10本加工すれば10本すべてが0.0001以下の勾配誤差でぴったりそろったパーツになります。
ただし最初の勾配治具をいかに正確につくるかが問題です。そればかりは多くは手作業によるのですが、一度作ってしまえばあとはこれをひな型にしてコピーは簡単にいくらでも作れます。もちろん家具のパーツに必要な勾配は一様ではありませんので、0.01〜0.05くらいまでよく使う勾配のベッドを10種類ほど作ってあります。