コーヒーブレーク 16「地下世界」

 

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われはわれはと海へ雪解かな

ここ山形県庄内地方のように、大雪の降る広大な山岳・山地を抱える地は、雪解けが激しい。冬の間水を落としていた河川がにわかに増水し、無雪期の豪雨や台風のときの洪水に近い様相を呈することも珍しくない。とりわけ気温の上昇よりも降雨の影響が顕著で、その雨水が直に河川に流入するだけでなく相対的には暖かい雨水が急速に積雪を溶かし、その溶けた水もいっしょになって河川に混じることによる増水である。青緑白色のごうごうと流れる川は、しかし春の到来を強く実感させるので、私は好きだな。

啓蟄の光に満ちて地下世界

じつはこの句は上記の句とともに、5月14日のシテ句会に投句したもの。自分としては、春が訪れてそれまで地中にひそんでいた虫篇の生き物=昆虫や爬虫類や両生類などがぞくぞくと地上に姿をあらわしてきている様子を表現したかったのである。地面のあちこちに穴が開いて、春の光が差し込んで地中もにわかに明るくなったと。したがってこの光は地上の光ではなく、地中に貫入した光のことなのであった。それでなくては句としてはおもしろくない。まさに「啓蟄が光に満ちているのは当たり前」だからである。/しかし「啓蟄の」の「の」は「光」にかかるのか、それとも「地下世界」まで全体に一息にかかるのかは、これだと判然としない。「啓蟄や」にすれば切れははっきりするが、調べがよくないと感じる。「啓蟄よ」「啓蟄は」とする手もあるが、ちょっと作為が鼻につく。ううむ、俳句は難しい。

フライングかしら虫出しの一度きり

「虫出し」って、お腹の寄生虫を薬でやっつけることかなと思うとさにあらず。「春雷」の別名で、啓蟄の頃にひとつ二つと鳴る雷が、地中の虫が地表に出てくるのをうながすとのことから名付けられた言葉。むろんそれは想像の産物でしかないだろうが、「蛙の目借時(かわずのめかりどき)」などと同様にユーモアのある俳句独特のおもしろい言葉だ。ただし俳句をやってる人には普通の言葉であっても、そうではない人にとってはちんぷんかんぷんなので要注意である。ついでに書くと、ちんぷんかんぷんを漢字で表記すると「陳分斡分」あるいは「珍紛漢紛」「珍糞漢糞」「陳奮斡奮」といろいろあって、これまたちんぷんかんぷんですなあ。

 

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