節を埋める

だいぶ前の作業になりますが、戸棚の棚板のうちの2枚に大きめの節がひとつずつあり、これをきれいに埋めることにしました。節は死節(しにぶし)で、一部分は空洞となって板の裏表まで貫通しています。したがって平らにするにしても両側から加工を施さなければならず、合わせて4個の埋木(うめき)が必要となります。

死節などの穴を埋める方法はいろいろありますが、ここでは丸や四角ではない不定形の、しかもやや大きめの穴をきっちり正確に処理する方法を説明します。もちろんこれは当工房における標準的な方法にすぎず、もっと他の、あるいはもっといいやり方があるかもしれません。

 

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1)まず埋めるべき節をトリマーに6mmのストレートビットを装着して、深さ4.2mmで平滑に掘り込みます。写真の右側が掘ったあとです。埋木の厚さはこの掘削より0.3mm厚い4.5mmを想定しています。注意することは極端な鋭角や狭い線状のもの、複雑すぎる形は、このあとの行程があまりにもめんどうになるので避けることです。不定形ながらもおだやかな曲線の単純な形です。また埋木を底でがっちり受け止める部分が必要なので、節穴やぐずぐずになっている部分だけでなく、その周囲の健全なしっかりした部分までいくらか掘り込みを拡張することです。

2)掘り終わったらそれをコピー用紙程度の薄手の紙(上質紙)で、フロッタージュの手法で穴の形を写し取ります。紙を穴にかぶせてその穴の縁のあたりを柔らかい鉛筆で上から軽くこするようにすると、穴の形が濃い線になって浮かんできます。どれがどの穴のものなのか、また向きはどちらかわかるように紙と棚板の両方に同一の向きで共通番号を記しておきます。

 

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3)埋木用の板を作り、それにさきほどのフロッタージュした紙を糊で貼付けます。埋木は穴より少しだけ大きく作るので、そのためフロッタージュの濃い線から外側に2mm程度離した線を赤い線で引きます。赤色にするのは糸鋸での切り抜きの際、黒く見える切断線と区別しやすくするためです。

4)糸鋸盤のベースを左に2度傾け、さきほど引いた赤線にそってその線をぎりぎり残すようにして時計回りに切断していきます。こうすることでほんの少しだけですが裏面のほうが小さく断面全体にテーパーの付いた埋木を作ることができます。糸鋸の刃は切断面が荒れないように極細目の細い刃を用います。埋木用の板は厚すぎても薄すぎてもやりにくいので、5mm前後が適当かと思います。

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5)これで穴よりやや大きく、木口全体に2度の傾斜が付いた埋木ができたわけですが、それを最初にトリマーで掘った穴にあてがい、再度墨付をします。厳密にでなくともいいですが、穴の縁からだいたい均等にけがかれていればいいでしょう。線引きは必ず細目のシャープペンシルで行います。ボールペンや油性マーカーなどは板と埋木との境界線にインクの滲みが残る可能性があるので使ってはいけません。

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6)シャープペンシルで引いた線をめがけて、ふたたびトリマーで余分を掘り込みします。線がかろうじて残るくらいの精度が必要です。線を消すまでよけいに掘ってしまったり、線の内側に明らかにわかるような余白が残るようではいけません。

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7)埋木の裏面のエッジを1mmくらいやや大きめに面取りをします。穴に始めに入りやすくするためです。それから軽く穴にあてがってみて、均等にわずかに落ち込むようであれば埋木は万全です。もし硬すぎてぜんぜん落ちないか、傾いて落ち込むようなら再度穴の大きさや形を微調整します。

8)オーケーとなったら穴の底と側面全体に接着剤を塗り、当木を用いて埋木を玄翁で叩き込みます。接着剤は結局のところいわゆる白ボンドがいちばん適切と思っています。他の接着剤だと接合面にグルーラインが出やすく、はみ出た余分の接着剤を除去するのもめんどうです。ただし耐水性を必要とするなどの場合の埋木はその限りではありません。

9)接着剤が乾いたら、板から出っ張った埋木の余分をよく切れる鉋で削りとります。写真は上下の寸法で5cm弱の埋木が終了した跡ですが、棚板ですのでこの程度にできていれば問題ないでしょう。ただし、テーブル甲板や戸棚などの表面部材などに埋木する場合は、板のほうの木目の表情や色合いなどに合わせた埋木にすればよりいいと思います。

今回は4つの埋木で、全行程で正味2時間ほどかかりました。1カ所につき30分というわけですが、そのままではちょっと使えないような大きめの節や傷や変色などがある材料でも、こうやってきれいに埋木することで強度的にも見た目にも問題なく使うことができます。 もっとも材料の単価によっては、手間ひまをかけて埋木しても製作コスト的に合わない場合もあるかもしれません。しかし木材は言うまでもなくもとは生きていた植物を人間の一方的な都合で伐ってしまったわけですから、欠点のある材料でもいろいろ工夫することでできるかぎり活かしてやりたいと考えています。

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