以前にも書いたことがありますが、家具などを製作するときに素材の板や角からいきなり仕上寸法に加工してしまうことはまずありません。いくら素直かつ乾燥した木材であっても幅や厚みが急激に削減されることで内部応力が変化して歪んでしまうからです。
とくに素材寸法と部材としての仕上寸法との差が大きい場合は、切削にするにつれて反りや捻れや、ときに割れが発生することがあります。木の種類やもともとの木材の大きさにもよりますが、板厚であれば一度に連続して削る量は、裏と表と両面合わせてせいぜい5mmくらいです。例えば40mm厚の板から30mm仕上げのパーツをこしらえようとすれば、手押鉋盤→自動鉋盤を使って36〜35mm程度まで削って一度中断します。
いったん平面を出してもその対面が削られることによって応力が変化し、最初の平面が平面でなくなります。度合いの違いはあるにしてもほとんど「必ずそうなる」と言っていいと思います。したがってそのまま続けて切削していっては危険なので、写真のように1本・1枚ずつ木端立てにし、空気が流通するように隣のものとすこし隙間をあけて並べて様子をみます。平に置いたり、複数個を重ねたりしてはいけません(よけいな外圧を避けるためです)。これをふつう「部材の養生」と呼んでいます。
写真では工房の天井の梁の間に桟木を渡し、それに一次下拵(いちじしたごしらえ)が済んだ材料を並べています。全部で130本(枚)ほどあるでしょうか。これは内部応力が落ち着くのを待っているのであって、よく間違われることがあるのですが、材料を乾燥させているのではありません。
樹種や寸法や製品となったときの用途にもよりますが、最低でも1週間くらいこの状態で放置します。その間に多かれ少なかれひずみが出てきているはずなので、また一から出直すつもりで手押鉋→自動鉋を通して平面化と一定の厚みにそろえていきます。30mm仕上なら32mmで止めといたほうがいいかもしれません。これで二次下拵が終了です。その後、前回と同様に養生します。ただし養生期間は前回よりは短かくていいでしょう。
さて数日後に3回目の下拵です。とくに問題がなさそうであれば、またまた手押鉋→自動鉋を使って、残りの2mmを0.5mmくらいずつ削っていって、最終的に目標の30mmに仕上げます。木材の加工(ここでは下拵)は原則として厚み→幅→長さの順で決めていくのですが、厚みと幅を決定することを「分決め(ぶぎめ)」と呼んでいます。分は旧来の尺貫法における長さの実用的最小単位である分(約3mm)に由来しているかと思います。
じつにめんどうですが、このように数次にわたる下拵えをして通直・平滑な板や角に仕上げてやらないと、その後の細かい加工(ホゾやミゾや段欠き、テーパーや曲面加工など)がうまくいきません。