6寸勾配

新築予定のわが家の基本設計ですが、とにかくシンプルかつコンパクトな平屋であることが大前提です。もちろん予算的にきびしいがゆえの小住宅ということもありますが、基本は家族3人が快適安全に暮らせればいいので、第三者からみての豪華さ立派さ、はたまた奇抜さはまったく不要です。また冠婚葬祭や集会といったことを自宅でやることもないし、お客さんが家に泊まることも考えていないので、余分な部屋は必要がありません。

私が木工房オーツーで製作している家具などにも通じることですが、素材はできるだけ自然素材を用い、その素材感をいかすためにも装飾的なものを極力省いた簡潔なデザインにしたいのです。建物ができて生活を始めればどうしても乱雑になりがちなので、その器である建物自体はそっけないくらいにシンプルでちょうどいいと思います。住む人間の年齢も状態も年とともに変わってきますから、今現在の状況にあまりに特化させてしまうと、かえってあとから使いづらくなります。

平屋にこだわったのは、言うまでもありませんがそのほうが室内での移動が楽だからです。2階屋にするといやおうなしに煩雑に階段を上り下りすることになりますが、疲れるだけでなく転落の危険があります。むろん、土地が狭くてどう工夫しても平屋では絶対的に土地面積が足りないとか、2世帯住宅などで生活空間をいくらかは分離したい、隣家が迫っていて2階にしないと陽があたらないといった条件があるのであればそんなことは言ってられません。しかしいま予定している土地はぎりぎりですが、平屋で建てられるだけの条件は整っています。

ただ、平屋にするといちばん上と下、つまり基礎と屋根の面積は、床面積のわりに大きくなります。総2階の家にくらべ単純にいえば2倍の基礎と屋根を必要とするわけです。ある意味では、町中で平屋の住宅というのは今日ではぜいたくかもしれませんね。

さて具体的なプランですが、まず外観の基本形は南北に長い長方形の箱に三角屋根です。同じ床面積なら長四角にしたほうが光や風の通りがよくなりますし、構造的にも梁が掛けやすくなります。屋根の形は複雑にすればするほど雨漏りの心配が出てきますし、建設&維持コストもかさみます。それに、これは私の感覚であり好みの問題で、ことの良し悪しとはまた別なのですが、子どもが家の絵をかくとほとんどがそうであるように「四角の箱に三角の屋根」がいちばん家らしい家で素朴で美しい家だと感じます。用途や家族構成などによっては逆にその形の家では不都合な場合もあると思いますが、私たちにはその「四角の箱に三角の屋根」が最適と判断しました。

屋根の形はそういうわけで切妻(きりづま)と呼ばれる形のごくシンプルな屋根ですが、傾斜の程度=勾配はいちおう6寸でみています。6寸というのは水平距離1mに対し60cm上がるような傾斜のことで、角度でいうと31度くらいです。屋根を瓦にするのか金属板(ガルバリウム鋼板など)にするかによって選択可能な勾配は制約があるのですが、あまり急勾配だと工事がたいへんで、屋根面積も増えてしまいます。反対に緩い勾配にすると工事をするのは楽で、屋根面積も少なくてすみますが、見た目に緊張感に欠け美しくありません。中身と外目のちょうどいいバランスをとって6寸勾配としました。

計画では6寸勾配のやや急な屋根で、その屋根が建物の柱芯から長手で900mm、妻手(破風側)で750mm外壁より出るようにしています。そのほうが雨仕舞がいいし、見た目にもきれいだと思うからです。風がそんなになければ雨天時でも窓をあけておくことができます。平屋なので軒下に洗濯物を干すこともできるかもしれません。

 

上の写真は工房近くの役所の建物ですが、これくらいでおおよそ6寸勾配の切妻の屋根でしょうか。本体の真上は瓦で、軒部分はガリバリウム鋼板(あるいはステンレス鋼板)の、ハイブリッドというかなんというか変な屋根ですけどね。妻壁にダミーの木製の小屋組も付けてるし。

最近の住宅の多くは、屋根が平坦で軒先もほとんど出ていないことが多いのですが、すこしの風でも雨雪が直接壁に降りかかるので建物の寿命を縮めますし、壁がすぐに汚れがちです。なによりカッコよくありません。土地の「有効利用」や建築費の低減といった理由はあると思いますが、結局なにを優先するかですね。無印良品などでも屋根がぜんぜん出ていない、ただサイコロを置いただけのような規格住宅を売り出していますが、私はああいった家には絶対に住みたくありません。

 

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