わが家と工房で使用している料理用の包丁は、3本は同じもので、先日9月21日の記事で取り上げた鉈と同様に池田太四郎商店謹製の包丁です。菜切包丁と牛刀とを合わせたような形と、出刃包丁に準ずるくらいの厚みがある「文化包丁」といわれる形式のもの。プロまたはマニアックに本格的な調理を行うのでもないかぎり、これ1本でほぼすべての料理に間に合う万能的な刃物です。
基本的に自宅用に2本、工房の台所用に1本備えてあるので、自宅用の包丁は交互に研いで使っています。自宅と工房は10kmほど離れており、砥石などはみな工房に置いてあるので、自宅の包丁は切れなくなってもすぐに研ぐことはできません。しかし同じ包丁が2丁あれば、工房に持って行って作業の合間をみて余裕をもって研ぐことができます。
現在では家庭用の包丁はほとんどがステンレス製の包丁だと思いますが、写真の包丁はヤスキ鋼白1号を用いた鉄製の包丁です。鋼を中に、その両側を軟鉄ではさみこんだ割り込み包丁です。そのため使った後はすぐに水気を拭き取る必要があります。また長期保存の場合は錆びないように薄く油をひいておかなければなりません。しかし一般的にステンレスの包丁にくらべると、砥石を使って手作業で刃を研ぎ直すのは鉄製の包丁のほうが楽にできます。それでも大きく刃こぼれを起こしたり肉眼でわかるほど刃先が丸くなってから研ぐのはさすがにたいへんなので、すこし切れが鈍くなったらまめに研ぐというのが結局はいちばんいいですね。
砥石は中研ぎはカンナやノミなどの木工用の刃物と同じものを使いますが、仕上げはちょっともったいないので少しグレードの落ちる天然仕上砥石を使っています。この文化包丁は準両刃で、表(峰からみて右側)を7〜8、裏(峰からみて左側)を3〜2くらいの割合で研ぎ上げます。切れ味だけなら完全な片刃にしたほうがいいのですが、それだと刃こぼれがしやすく、また切った野菜などが刃に吸い付きやすいのです。
野菜などを透けるほどに薄く切れる、切れ味の鋭い包丁は、使っていて気持ちがいいですし、食べ物の味も一段すぐれているように思います。