ヤブジラミ

きちんとした標準的な名前にもかかわらず、植物の名前にはじつに不遇としかいいようのないものがあります。ハキダメギク、ママコノシリヌグイ、ヘクソカズラ、クソニンジン、ウバユリ、オオイヌノフグリ、タチイヌノフグリ、ヌスビトハギ、ブタクサ、ギンリョウソウモドキ、クサレダマ、ステゴビル、チョロギダマシ、バアソブ、バカナス、ママコナ、ヨゴレネコノメ、ニセアカシア、等々。

ヤブジラミ(Torilis  japonica)もそのひとつで、漢字で書くと薮虱ですが、むろんシラミとはまったく無関係のれっきとしたセリ科の植物です。野原や道ばたなどにふつうに見かける植物で、高さ30〜70cm、枝先に複散形花序を付けます。白い小さな花は大きさ4〜6mm程度ですが、それがたくさん咲いて群生しているようすはなかなかみごとなものと思います。あまりにありふれた植物すぎるためかそれほど注目されませんが。

名前は、薮かげに生え、カギ状に曲がった刺毛が密生する実が衣類などに容易にひっつくためにまるでシラミのようだ、というところから来ています。白い清楚な花なのに変な名前を付けられたためにずいぶん損しているのではないでしょうか。

植物に正式な標準和名を付すのは植物学者の仕事なわけですが、必ずしも言葉にたいする美的センスがあるとはかぎらないので、なかには変な名前が付いてしまうことがあります。一度付いてしまった名前をかえるのはとても難しいので、結局それが絶対的なものとして幅をきかせることになります。専門家はそれでもその植物の実体を知っているので、名前がどうであってもさして関係ないのですが、一般の人は名前から受ける印象や誤読によってそうとう勝手なイメージをその植物に抱くことになります。

名付けることはその対象を把握する第一歩ですが、場合によってはそのことがよけいな色眼鏡やフィルターとなってしまうことも。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA