低地のイワカガミ

 

鳥海山の某所、標高約240〜300mに咲いているイワカガミ(イワウメ科 Schizocodon soldanelloides)。 ※コイワカガミと別種として分ける説もあるが、差異は連続的で同所にふたつのタイプが混在することもあり、同一種の連続的変異・個体差とする説が有力である。

最初に私が発見したのは2010年5月のことで、イワカガミは「高山植物」の代表的な花と思っていたのでたいへん驚きました。そのときは他の人もいっしょだったのであわただしく通り過ぎてしまったのですが、その後に地形図やカメラやその他機材を用意して一人でたんねんに周辺を調べました。その結果、標高240〜300m付近に断続的に小群落を成して生えており、もっとも低い地点は標高237mでした。高精度のGPSを用い、地形図とも照らし合わせたので誤差はほとんどないでしょう。下の写真は2016年5月2日のものですが、新しい葉がたくさん出ており花数も多く、すこし安心しました。

人里からいくらも離れていないこのような低山域にイワカガミがある程度の規模をもって生息しているのは、いったいなぜでしょうか。以下は私の推測ですが、氷河期前後の冷涼な気候下で分布を広げたイワカガミが、その後の温暖化で生息域を狭められて中・高山帯に退避したのに対し、たまたま当地は豊富な湧水があったために(湧水温度は7〜9℃くらい)それに依存するかたちで生き残ったのではないかと思います。

ちなみに同様の例として、やはり鳥海山の標高300m程度のところにニッコウキズゲ、アカモノ(イワハゼ)が生えていることも確認しています。

鳥海山の場合、通常は標高1000mくらいの森林限界を超えたあたりからイワカガミが姿をあらわすのですが、もしそれよりずっと低い標高300mくらいまでの間が分布の空白であるとすると、両者は1万年ほど隔離されている可能性があります。遺伝子レベルでの違いとなると素人の手にはおえませんので、ぜひ専門家に調べていただければと思います。

いずれにしてもこのイワカガミはたいへん貴重なものであることは確かですので、盗掘等を避けるために場所の詳細は秘密とします。写真も場所を特定されそうなものは掲載しません。

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