コーヒーブレーク 70 「刃こぼれ」

 

DSCN6443_2

 

家屋敷艦隊のごとくに地吹雪

地吹雪は基本的には地面に降り積もった雪が、強風でまた舞い上げられて吹雪となることである。したがって空は晴れているのに、地上0〜3mだけがまったく視界を閉ざされた猛烈な吹雪、ホワイトアウトになることもそう珍しいことではない。ことに庄内平野は国内でも有数の地吹雪の名所であるらしい。日本海にそって小高い庄内砂丘があるとはいえ、北西の風が直接平野に吹き付けるからであり、その平野も田んぼがほぼすべてを占める平坦地だからだろう。風をさえぎるものがほとんどない。基盤整備が成され、碁盤の目のような整然と並んだ大面積の水田耕作は、この庄内平野が全国的にももっとも早かったと聞いたことがある。/農家の集落は、今でこそ車で移動運搬が基本だが、昔はとにかく歩くしかなかったので、自家の田んぼにほど近いところに居を構えたのは当然である。数十戸程度の規模の集落が広大な平野に点在するのはそのためだ。激しい地吹雪のときに徒歩で隣の集落に出向くのは、文字通りに命がけであった。/そういえば自分の子供時分にも大雪+地吹雪のために臨時休校なんてことも何度かあったような気がする。今のようなちゃんとした防寒着もないしね。

煮凝や向こうから誰かが凝視

父親は生前よく自ら出刃包丁を握って井戸端で魚をさばいていた。日本海に数kmという距離であるということもくわえて、食卓にはよく新鮮な魚がのぼった。父が自分で魚を捕るのは、夏場に川魚を若干という程度にすぎなかったので、魚は主に近所の魚屋か行商の魚売りから買うことが多かった。大半が日本海の近場の港にあがった魚である。冬はよく煮凝りも食べた。煮魚の汁にしみ出たゼラチン質が、室内ながら外気温とさほど変わらない台所の鍋の中で固まるのである。夕食用にとっておいた煮凝りを、腹を減らした小学生(私)がつまみ食いでぜんぶ平らげてしまって怒られたこともある。

冬晴や空の下端の刃はこぼれ

当地の冬の晴れの日は極端に少なく、平年最も少ない月の2月だと平均してわずか2日だけだときいたことがある。それだけに冬場にたまに晴れた日は、格別のうれしさがある。晴天であるのみならず、風もほとんどないとなればうれしさが倍加する。雪が積もった山野がはるか遠くまでくっきりと見え、いつもはかすんで見えない朝日連峰の白い峰々がひとつひとつ指呼できるときなどは、いつまでも飽かずそれを眺めていることがある。/鳥海山中腹の南面にスキー場開発という計画が1984年にコクドより発表され、旧八幡町は県のバックアップも得て積極的に推進。しかし強い反対運動が起こり紆余曲折の末、13年後1997年に計画中止をコクドが表明し、スキー場計画は頓挫した。希少種のイヌワシの存在がスキー場を止めたとも喧伝されるが、それも理由のひとつではあっても、ほんとうのかつ最大の理由は冬場の悪天候と、すでにスキー人口の減少をコクドが明確に予測したからである。もしスキー場が計画のままにできていたら、悪天候による稼働日数の低下や、遭難者の発生等により、ほどなく閉鎖においこまれたであろう。あとは膨大な負債と倒産・失業者をかかえて、旧八幡町は没落したにちがいない。ちなみにコクドそのものも2006年に解散している。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA